商談や品質評価のため無償で商品サンプルを提供する覚書。民法第593条の使用貸借と不正競争防止法第2条第6項の営業秘密保護を踏まえ、用途を限定します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
サンプル提供に関する覚書
第1部: 書式本文
サンプル提供に関する覚書
【提供者名】(以下「甲」という。)と【受領者名】(以下「乙」という。)は、甲が乙に対し商品サンプルを提供するにあたり、次のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。
第1条(目的) 本覚書は、乙が甲との取引開始の検討又は品質評価を行うことを目的として、甲が乙に対し無償で商品サンプル(以下「本サンプル」という。)を提供するにあたり、両者の権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(本サンプルの特定) 本サンプルの品目、型番、数量及び規格は別紙のとおりとし、甲乙間で別段の合意がない限り追加は行わない。
第3条(引渡し) 1. 甲は、本覚書締結後【5】営業日以内に、本サンプルを乙が指定する場所に引き渡す。 2. 引渡しに要する送料その他の費用は甲の負担とする。ただし、乙の都合による再送付が必要となった場合の費用は乙の負担とする。
第4条(法的性質及び所有権) 1. 本サンプルの提供は、民法第593条に定める使用貸借とし、本サンプルの所有権は甲に留保され、乙に移転しない。 2. 前項にかかわらず、本サンプルが試験・分析等により滅失又は毀損することが本サンプル提供の目的上当然に予定されている場合、当該滅失又は毀損について乙は返還義務及び原状回復義務を負わない。
第5条(使用目的の制限) 乙は、本サンプルを第1条に定める目的の範囲内でのみ使用するものとし、次の各号に掲げる行為をしてはならない。 一 本サンプルの販売、貸与、譲渡その他第三者への処分 二 本サンプルの分解、解析又はこれに準ずる方法による構造・成分の調査(第6条に定める場合を除く。) 三 本サンプルを用いた製品の試作又は量産化(甲の書面による事前の承諾がある場合を除く。)
第6条(分析等の制限) 乙が品質評価の一環として本サンプルの成分分析又は構造解析を行う必要がある場合、乙は事前に甲の書面による承諾を得るものとし、承諾を得た場合であっても、当該分析により得られた情報を甲の競合品の開発に利用してはならない。
第7条(秘密保持) 1. 本サンプルの仕様、成分、製法及び本サンプルに関連して甲が乙に提供した技術情報(以下「本秘密情報」という。)は、不正競争防止法第2条第6項に定める営業秘密に該当しうるものであることを乙は認識し、善良な管理者の注意をもって管理する。 2. 乙は、本秘密情報を第1条の目的以外に利用せず、また甲の書面による事前の承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。 3. 前2項の義務は、本覚書終了後【2】年間存続する。
第8条(知的財産権) 本サンプルに関する特許権、意匠権、商標権その他一切の知的財産権は甲又は正当な権利者に帰属し、本覚書は乙に対しこれらの権利のライセンスを付与するものではない。
第9条(有償化への転換) 乙が本サンプルの評価を経て継続的な取引を希望する場合、甲乙は別途売買契約又は基本取引契約を締結して具体的な価格及び数量を協議するものとし、本覚書は当該協議を何ら拘束しない。
第10条(返還又は廃棄) 1. 乙は、評価完了後又は甲からの請求があった日のいずれか早い日から【14】日以内に、本サンプル(消費・滅失した部分を除く。)を甲に返還し、又は甲の指示に従い廃棄の上、廃棄証明書を甲に提出する。 2. 前項の返還に要する費用は乙の負担とする。
第11条(有効期間) 本覚書の有効期間は締結日から【6】箇月間とする。ただし、第7条及び第12条の規定は本覚書終了後も存続する。
第12条(損害賠償) 乙が第5条から第7条までの規定に違反したことにより甲に損害が生じた場合、乙は甲に対しその損害を賠償する。
第13条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己又は自己の役員が暴力団、暴力団員その他反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証する。
第14条(協議) 本覚書に定めのない事項又は疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議の上解決する。
第15条(準拠法及び管轄) 本覚書は日本法に準拠し、本覚書に関する紛争は【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本覚書の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【締結日】
甲(提供者) 住所: 名称: 代表者: 印 乙(受領者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 提供する側向け
A-1 用途限定の厳格化 修正後:「乙は、本サンプルを乙社内における品質評価及び甲との取引可否の社内稟議の目的のみに使用するものとし、乙の顧客又は取引先に対する提示、展示会への出展その他第三者が閲覧しうる方法での使用を一切禁止する。」 一言解説: 第5条の使用目的制限が抽象的なままだと、乙が展示会で無断展示し甲の非公知の新製品情報が公知になってしまう事態を防げない。具体的な禁止行為を列挙することで、意匠の新規性喪失や営業秘密の非公知性喪失のリスクを未然に防ぐ。
A-2 サンプル代金請求権の留保 追加条文例:「乙が正当な理由なく本サンプルを第10条の期限までに返還又は廃棄証明書の提出を行わない場合、甲は乙に対し、本サンプルの製造原価相当額を無償提供の対価として請求できるものとする。」 一言解説: 無償提供は取引開始前の営業活動であり、乙が漫然と保持し続けることは想定していない。返還懈怠に対する経済的なペナルティを設けることで、返還義務の実効性を確保する。
B. 受領する側向け
B-1 品質評価に伴う滅失の免責範囲の明確化 修正後:「第4条第2項の滅失又は毀損には、乙が甲の書面承諾を得て行う成分分析、破壊試験及び耐久試験に伴う滅失又は毀損を含むものとし、乙はこれらについて原状回復義務及び損害賠償責任を負わない。」 一言解説: 使用貸借構成のままだと乙に原状回復義務が生じうるため(民法第597条参照)、品質評価に不可欠な破壊的試験まで免責範囲を明示しておかないと、正当な評価行為についても乙が責任を問われかねない。
B-2 秘密保持期間の合理的上限 修正後:「第7条第3項の存続期間は、本秘密情報が乙の責めに帰さない事由により公知となった場合を除き、本覚書終了後【1】年間とする。」 一言解説: 期間の定めなく秘密保持義務を負わせる条項は乙にとって過度な負担となりうるため、公知化の除外事由とあわせて存続期間に合理的な上限を設けることで、乙側の事業活動の自由度を確保する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、商談段階や品質評価のために商品サンプルを無償で提供する場面で使用する。サンプルの提供が有償である場合や、既に価格・数量が確定した継続的取引の一環として現品を納入する場合には、売買契約書又は継続的取引基本契約書を用いるべきであり本書式は適さない。また、サンプルではなく完成品そのものを展示・貸与する目的の場合は、別途の展示貸与契約を検討する必要がある。
根拠法令の解説 本サンプルの提供は、対価を伴わず目的物を貸し使用収益させた後に返還を受ける点で、民法第593条の使用貸借に該当すると整理するのが基本である。もっとも、消費・破壊を伴う評価が予定されている場合は使用貸借の枠組みに収まりきらないため、第4条第2項のように返還義務の例外を明記して整合を図る必要がある。また、サンプルの成分・構造・製法に関する情報を秘密として保護するためには、不正競争防止法第2条第6項が定める秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たすよう、乙に対する開示範囲の限定やマル秘表示等の管理措置を講じることが前提となる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、無償提供であることのみを重視し所有権の帰属や返還義務を定めないまま引き渡してしまい、乙が本サンプルを転用・転売しても法的根拠をもって差し止められないケースがある。対策として第4条のように使用貸借であることと所有権の留保を明記する。第二に、乙が評価目的で成分分析を行うこと自体は当然として黙認した結果、分析データが乙の自社製品開発に流用されるケースがある。対策として第6条のように分析の事前承諾制と分析結果の利用制限をあわせて定める。第三に、返還期限を定めても実際には督促を怠り、サンプルが長期間乙の手元に残存し続けるケースがある。対策としてA-2のような経済的インセンティブを組み合わせることが有効である。
個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 提供するサンプルの品目・型番・数量・規格を別紙で具体的に特定しているか
- [ ] 無償提供であることと所有権が甲に留保される旨を明記しているか
- [ ] 使用目的を「取引検討」「品質評価」等具体的な範囲に限定しているか
- [ ] 分解・成分分析・リバースエンジニアリングの可否と条件を定めているか
- [ ] 分析等に伴う滅失・毀損についての免責範囲を明確にしているか
- [ ] 秘密保持の対象情報と存続期間を定めているか
- [ ] 返還又は廃棄の期限・方法・費用負担を定めているか
- [ ] 返還懈怠時のペナルティ(対価請求等)を設けているか
- [ ] 継続的取引に移行する場合の手続(別途契約締結)を明記しているか
- [ ] 反社会的勢力の排除条項を設けているか
- [ ] 準拠法及び合意管轄裁判所を定めているか