小売や外食が生産者へ作付けを依頼する契約栽培・産直取引の契約書。買取価格と全量引取義務、独占禁止法の優越的地位濫用に配慮した条項を収録。
産直・契約栽培に関する取引契約書
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
第1部: 書式本文
買主〇〇〇〇(以下「甲」という。小売事業者又は外食事業者)と生産者〇〇〇〇(以下「乙」という。契約栽培を行う農業者)とは、乙が甲の指定する品目を作付け、収穫物を甲へ販売する産直・契約栽培取引に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は乙に対し、末尾記載の農産物(以下「本件農産物」という。)の作付けを依頼し、乙はこれを受けて栽培を行い、収穫物を甲に販売する。
第2条(作付計画) 乙は、甲と協議の上、品目、作付面積及び作付時期を定めた年間作付計画を作成し、甲の承認を得る。作付計画の変更は甲乙協議の上行う。
第3条(全量引取義務) 甲は、本件農産物のうち第5条の出荷規格を満たすものについて、乙が生産した数量の全量を引き取る。ただし、天候不順その他やむを得ない事由により甲の販売計画を著しく超える数量が生産された場合は、甲乙協議の上、引取数量を調整することができる。
第4条(買取価格) 買取価格は、作付け前に甲乙協議の上、品目ごとに定める。年度途中における一方的な価格の引下げは行わないものとし、価格を変更する場合は、生産コストの変動その他の合理的な理由を示した上で甲乙協議により行う。
第5条(出荷規格及び検査) 出荷規格は末尾別紙のとおりとし、甲は納品時に検査を行う。規格に適合しないものについては、甲は受入れを拒否することができるが、その理由を乙に書面で通知する。
第6条(生産資材の提供及び技術指導) 甲は、必要に応じて種苗その他の生産資材を乙に提供し、又は栽培に関する技術指導を行うことができる。当該資材の対価及び指導の条件は別途協議する。
第7条(表示及びトレーサビリティ) 甲及び乙は、本件農産物の産地及び生産者を表示するに当たり、食品表示法に基づく表示基準を遵守し、生産履歴の記録及び保存に協力する。
第8条(代金の支払) 甲は、納品確認後〇日以内に買取代金を乙の指定する口座に振り込んで支払う。
第9条(契約期間及び更新) 本契約の有効期間は〇〇〇〇年〇月〇日から〇年間とし、期間満了の〇か月前までに甲乙いずれからも終了の申出がない限り、同一条件で更新するものとする。
第10条(取引条件の一方的変更の禁止) 甲は、正当な理由なく、乙に対し著しく不利益な条件の変更を強要してはならない。
第11条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当の期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除することができる。
第12条(損害賠償) 甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、当該損害を賠償する。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【甲の主たる事務所の所在地を管轄する】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 買主(小売・外食事業者)向けの修正
A-1. 品質基準未達品の受領拒否権の明確化
修正後:「甲は、納品された本件農産物のうち、糖度、サイズその他の品質基準を満たさないものについて、乙に理由を明示した上で受領を拒否することができる。この場合、甲は当該数量に相当する引取義務を負わない。」
一言解説: 外食事業者はメニューの品質を一定に保つ必要があるため、全量引取義務の例外として品質基準未達品の受領拒否権を明確化し、基準の運用を恣意的にしないよう理由明示を条件とする修正である。
A-2. 専属的取引条項の追加
修正後:「乙は、本契約の有効期間中、本件農産物と同一品目について、甲の書面による承諾なく第三者に販売してはならない。ただし、規格外品として甲が引き取らない部分についてはこの限りでない。」
一言解説: 産直取引で安定調達を図る買主にとって、専属的な出荷を確保することは重要である一方、規格外品まで拘束すると独占禁止法上の不当拘束と評価されるおそれがあるため、対象を甲が引き取る規格品に限定する修正である。
B. 生産者(契約栽培農家)向けの修正
B-1. 一方的な価格引下げへの対抗規定
修正後:「甲は、年度途中において、生産コストの上昇その他乙に不利益となる事情の変化がないにもかかわらず、乙の同意なく買取価格を引き下げてはならない。甲が価格の見直しを求める場合は、その根拠資料を乙に提示した上で協議する。」
一言解説: 買主が優越的地位を利用して一方的に価格を引き下げることは独占禁止法第2条第9項第5号が禁止する優越的地位の濫用に該当し得るため、価格変更には根拠資料の提示と協議を要件とする修正である。
B-2. 全量買取義務の実効性確保
修正後:「甲が第3条ただし書に基づき引取数量を調整する場合であっても、乙が既に作付けを完了した数量については、甲は乙の販路確保に協力し、又は当該数量に対応する損失について乙と協議の上補償する。」
一言解説: 作付け後に買主の都合で引取りを絞られると生産者が投下した費用を回収できなくなるため、引取数量調整時の協力・補償義務を付加し、全量買取義務の骨抜きを防ぐ修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、小売業者や外食事業者が生産者に対してあらかじめ品目や数量を指定して作付けを依頼し、収穫物を継続的に買い取る産直・契約栽培型の取引に用いる。生産者が自らの判断で作付けた農産物を市場や卸売業者へ出荷する一般的な出荷取引には適さず、その場合は出荷契約に関する別の書式を用いるべきである。また、買主が単に市場から仕入れるだけで作付段階への関与がない場合も、契約栽培特有の全量引取義務等の条項が実態にそぐわないため本書式を用いるべきではない。
根拠法令
契約栽培・産直取引においては、買主が生産者に対して優越的な地位に立ちやすく、価格の一方的な引下げや不当な受領拒否は独占禁止法第2条第9項第5号が定める優越的地位の濫用に該当するおそれがある。また、正当な理由のない取引拒絶は同法上の不公正な取引方法として問題となり得る。表示に関しては食品表示法に基づく生鮮食品の表示基準の遵守が求められ、有機栽培等の表示を行う場合には農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)に基づく制度との整合性も確認する必要がある。
実務でよくある失敗と対策
第一に、全量引取義務を無条件で定めてしまい、想定外の豊作時に買主が引き取りきれず紛争化する例が多い。引取数量の調整規定と、その場合の生産者への配慮措置をあらかじめ定めておくべきである。第二に、価格変更の手続を定めずに買主が一方的に価格を引き下げ、独占禁止法上の優越的地位の濫用が問題となる例も見られる。価格変更には合理的理由の提示と協議を要件とすることが望ましい。第三に、生産資材の提供や技術指導の対価をあいまいにしたまま実施し、後日その費用負担をめぐって争いになる例がある。資材提供や指導の条件は別途書面で明確化しておくべきである。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 作付計画の作成手続及び変更時の協議方法を定めたか
- [ ] 全量引取義務の内容及び調整が生じる場合の要件を明確にしたか
- [ ] 買取価格の決定方法及び変更手続を具体的に定めたか
- [ ] 価格引下げが優越的地位の濫用に該当しないか確認したか
- [ ] 出荷規格及び受入拒否の理由通知手続を規定したか
- [ ] 生産資材の提供及び技術指導の対価負担を明確にしたか
- [ ] 産地・生産者表示について食品表示法上の基準を確認したか
- [ ] 専属的取引条項を設ける場合、独占禁止法上の拘束の合理性を検討したか
- [ ] 代金の支払時期及び支払方法を定めたか
- [ ] 契約期間及び更新条件を明記したか
- [ ] 契約解除事由及び損害賠償の範囲を規定したか