長時間労働者やメンタル不調が疑われる従業員に産業医面談を実施する場面の同意書。労働安全衛生法第13条の産業医の職務と健康情報の共有範囲を本人へ明示する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
産業医面談同意書
第1部: 書式本文
産業医面談の実施及び健康情報の取扱いに関する同意書
【会社名】 御中
私、【従業員氏名】は、下記の内容を確認のうえ、産業医面談の実施に同意します。
- 面談実施の理由 私の【時間外労働時間が月【 】時間を超えたこと/その他会社が把握した健康上の懸念】を踏まえ、労働安全衛生法に基づく産業医面談を実施すること。
- 産業医の職務 産業医は、労働安全衛生法第13条に定める職務として、労働者の健康管理等を行う専門的立場から、私の心身の状態について助言・指導を行うこと。
- 面談で取り扱う情報の範囲 面談では、労働時間、業務内容、自覚症状、生活状況等、就業上の措置の検討に必要な範囲の情報を確認すること。
- 会社への情報共有の範囲 産業医は、面談内容の詳細(病状の具体的内容等)をそのまま会社に伝えるのではなく、就業上の措置に関する意見(就業制限の要否、配慮事項等)に整理したうえで会社に報告すること。
- 記録の保管 面談記録は産業医又は保健衛生スタッフが管理し、会社の人事担当部署が閲覧できる範囲は、就業上の措置の検討に必要な限度に限られること。
- 同意の任意性 本同意は任意であり、同意しないことを理由に不利益な取扱いを受けないこと。ただし、法令上義務付けられた面接指導の対象となる場合は、労働者にも面接指導を申し出る義務が課され得ること。
- 面談後の措置 産業医の意見を踏まえ、会社が就業上の措置(労働時間の短縮、配置転換、休業等)を検討する場合は、あらかじめ本人の意見を聴取する機会を設けること。
- 同意の撤回 本同意は将来に向かって撤回できること。撤回の場合は【会社担当部署】まで申し出ること。撤回後も、法令上義務付けられた面接指導に該当する場合は、別途その履行を求められることがあること。
上記内容を理解し、産業医面談の実施及び本人の心身の状態に関する情報の取扱いに同意します。
【令和 年 月 日】 氏名【 】 印
(会社確認欄) 受付日:【 】 受付担当:【 】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 長時間労働者面談用
- 記載例:「私の直近1か月の時間外・休日労働時間が【 】時間を超えたため、労働安全衛生法第66条の8第1項に基づく面接指導として、産業医面談を実施することに同意します。」
- 一言解説:長時間労働者への面接指導は要件を満たせば労働者側に申出義務が生じる制度であるため、根拠条文と対象要件を明示し、任意の一般面談と区別する。対象要件(月80時間超等)は社内の安全衛生管理規程の定義と一致させておく必要がある。
- 記載例:「面談で確認された時間外労働の状況及び疲労蓄積度は、就業上の措置の検討のために人事担当部署に限り報告されることに同意します。」
- 一言解説:長時間労働の事実自体は健康情報そのものではないため、労働時間データの共有範囲は病状情報と分けて整理しておくと運用が明確になる。
B. メンタル不調者面談用
- 記載例:「面談で把握された症状の具体的内容は会社に開示せず、就業制限の要否及び配慮事項に関する産業医の意見としてのみ会社に伝達されることに同意します。」
- 一言解説:メンタルヘルス領域では病状の詳細開示自体が新たな不利益取扱いの懸念を生みやすいため、意見の抽象化ルールを明記して情報の遮断を明確にする。
- 記載例:「本面談は懲戒処分や人事評価のための調査を目的とするものではないことを確認します。」
- 一言解説:不調者本人は面談が処分の前段階ではないかという不安を抱きやすく、目的外利用でないことを明記することで面談への協力を得やすくする。上司からの紹介経緯がある場合は、その経緯自体も過度に詳細化しないよう配慮する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、長時間労働者や、上司・産業保健スタッフがメンタル不調の兆候を把握した従業員に対し、労働安全衛生法に基づき、又はこれに準じて産業医面談を実施する場面で使用する。他方、懲戒処分や人事評価目的の事情聴取を「面談」と称して行う場面や、本人の心身の状態を退職勧奨の材料集めに利用する場面での使用は想定していない。
産業医の職務及び権限は労働安全衛生法第13条に定められており、同条に基づき産業医は労働者の健康管理について会社に勧告する立場にある。長時間労働者に対する面接指導は同法第66条の8第1項に、ストレスチェック後の高ストレス者に対する面接指導は同法第66条の10第3項に、それぞれ根拠が置かれている。また、労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いについては、同法第104条が事業者に必要な措置を講ずる努力義務等を定めている。
実務でよくある失敗の一つは、産業医から会社への報告において、病状の詳細がそのまま人事担当者に伝達されてしまうことである。これは労働者の心身に関する情報の目的外の広範な共有につながりかねない。本書式は、会社への報告を「就業上の措置に関する意見」に整理する旨を明記し、情報の抽象化を面談前に合意しておくことでこれを防ぐ。
二つ目の失敗は、面談を拒否した労働者に対して、参加しないことを理由に不利益な取扱いを示唆してしまうことである。長時間労働者の面接指導は労働者側に申出をする義務が課され得る一方、それ以外の任意の面談まで強制することは労働者の自己決定を害する。本書式は同意の任意性と、不同意による不利益取扱いを行わない旨を明記している。
三つ目の失敗は、同意取得の時点と情報共有の範囲が曖昧なまま面談を進めてしまい、後になって「そこまで話すつもりはなかった」と労働者との間で認識の齟齬が生じることである。本書式は面談で取り扱う情報の範囲と会社への報告範囲を事前に条項化することで、この齟齬を防止する。
四つ目の失敗は、産業医の意見に基づく就業上の措置を、本人の意見を聴かないまま会社が一方的に決定してしまうことである。就業制限や配置転換等の措置は労働者の労働条件に直接影響するため、産業医の意見はあくまで専門的助言と位置付け、最終的な措置の決定過程で本人の意見を聴く機会を確保することが望ましい。本書式は面談後の措置に関する項目を設け、この手順を明記している。
なお、対象労働者が制度上の面接指導の要件を満たすか否かの判断や、就業上の措置の内容の決定については、個別の事案ごとに専門的判断を要するため、弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 面談実施の理由(長時間労働/メンタル不調等)が具体的に記載されているか
- [ ] 該当する場合、労働安全衛生法上の根拠条文(第66条の8等)が正確に引用されているか
- [ ] 産業医の職務内容が労働安全衛生法第13条に沿って記載されているか
- [ ] 会社への報告範囲が「意見」レベルに整理される旨明記されているか
- [ ] 面談記録の保管主体・閲覧権限者が明記されているか
- [ ] 同意の任意性と不同意時の取扱いが明記されているか
- [ ] 同意撤回の方法・連絡先が明記されているか
- [ ] 本人の署名・日付欄が設けられているか
- [ ] 会社側の受付欄が設けられ、受付日・担当者が記録される仕組みになっているか
- [ ] 就業規則・安全衛生管理規程との整合が確認されているか
- [ ] 面談後の就業上の措置を決定する前に本人の意見聴取機会を設ける運用になっているか
- [ ] 同意撤回後も法令上の面接指導義務が別途生じ得る旨が記載されているか