三者間の債権債務を一括して相殺する合意書です。相殺の順序、対当額、相殺後の残債務、第三者の同意を明確にします。社内の承認手続と証跡管理にもそのまま活用できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
三者間相殺合意書
第1部: 書式本文
【当事者A商号・氏名】(以下「甲」という。)、【当事者B商号・氏名】(以下「乙」という。)及び【当事者C商号・氏名】(以下「丙」という。)は、甲乙丙間に存在する債権債務について、次のとおり一括して相殺することに合意する(以下「本合意」という。)。
第1条(対象債権債務の特定) 甲乙丙間には、次の債権債務が存在する。 1. 甲の乙に対する債権:金【 】円(発生原因:【 】) 2. 乙の丙に対する債権:金【 】円(発生原因:【 】) 3. 丙の甲に対する債権:金【 】円(発生原因:【 】)
第2条(相殺の順序及び対当額) 甲乙丙は、前条の各債権について、次の順序で対当額により相殺する。 1. 甲の乙に対する債権と乙の丙に対する債権のうち、対当額金【 】円を相殺する。 2. 前号の相殺後になお残る債権と丙の甲に対する債権のうち、対当額金【 】円を相殺する。
第3条(相殺後の残債権債務) 前条の相殺の結果、甲乙丙間に残存する債権債務は次のとおりとなる。 【相殺後の残額及び債権者・債務者の関係を具体的に記載】
第4条(相殺の効力発生日) 本合意による相殺は、本合意締結日をもって効力を生ずる。
第5条(第三者の同意) 本合意は、甲、乙及び丙の三者全員の合意によって成立するものであり、いずれか一者でも合意しない部分については、通常の二者間相殺(民法第505条)の要件を別途満たす必要がある。
第6条(相殺禁止事由の確認) 甲、乙及び丙は、本合意の対象となる債権が、法令上相殺が禁止されるもの(悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権等、民法第509条参照)に該当しないことを相互に確認する。
第7条(下請法等の遵守) 本合意の対象となる債権債務のいずれかが下請代金支払遅延等防止法の適用対象となる下請代金債権に該当する場合、甲乙丙は同法上禁止される相殺(下請代金の減額とみなされる相殺等)に該当しないことを確認する。
第8条(清算条項) 甲、乙及び丙は、本合意に定めるもののほか、第1条記載の債権債務に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。
以上を証するため、本合意書3通を作成し、甲乙丙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(当事者A) 住所:【 】 商号・氏名:【 】 印 乙(当事者B) 住所:【 】 商号・氏名:【 】 印 丙(当事者C) 住所:【 】 商号・氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 当事者A(甲、中心的な立場)向け
A-1 第2条の修正例 「相殺の順序は、各当事者の債権発生日が古いものから優先して充当するものとし、発生日が同一の場合は金額の大きいものから充当する。」 一言解説: 複数の債権が絡む三者間相殺においては、相殺の順序によって最終的な残債権債務の帰属が変わり得るため、甲としては、自己に有利な結果となるよう充当順序の基準を明確かつ客観的に定めておくことが望ましい。
A-2 第7条の修正例 「甲は、乙又は丙との取引が下請法の適用対象となる場合、相殺による決済が下請代金の減額とみなされないよう、当該取引先との間で別途書面による同意を取得する。」 一言解説: 発注者的立場にある甲としては、下請法違反のリスクを負う可能性があるため、相殺による決済が減額規制に抵触しないよう、対象取引が下請法の適用対象かどうかを事前に精査し、必要な同意取得手続を踏むことが重要である。
B節: 当事者B・C(乙・丙、相殺に応じる立場)向け
B-1 第6条の修正例 「乙及び丙は、自己が保有する債権について、相殺禁止の特約が付されていないこと、及び差押えを受けていないことを表明し、これに反する事実が判明した場合は本合意の当該部分を無効とする。」 一言解説: 相殺に応じる側としては、対象債権に譲渡制限特約や差押え等の事情があると相殺の効力自体が否定されるリスクがあるため、事前に表明を求め、違反時の効果を明確にしておくことが安全である。
B-2 第3条の修正例 「相殺後になお乙又は丙に対して支払うべき残債務がある場合、当該残債務の支払期日は本合意締結日から30日以内とする。」 一言解説: 相殺により一部の債務が消滅しても残債務が残る場合、その支払時期が曖昧なままでは資金繰りの見通しが立たないため、乙・丙としては具体的な支払期日を確保しておくことが実務上重要である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、甲乙丙の三者間で、それぞれが相互に又は循環的に債権債務を有している場合に、これを一括して相殺し、決済の手間と資金移動を簡素化する場面で使用する。グループ会社間の取引や、共通の取引先を介した複数の取引が同時に決済期を迎える場面などで活用される。他方、対象となる債権のいずれかについて相殺禁止の特約や差押えがある場合、あるいは当事者の一部が三者間での一括処理に同意しない場合には、本書式による一括相殺ではなく、当事者ごとの個別の相殺又は弁済の手続を検討する必要がある。
法的根拠として、民法第505条第1項は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者はその対当額について相殺によってその債務を免れることができる旨を定めている。この規定は二当事者間の相殺を前提としており、三者間での相殺は民法上当然に認められるものではなく、当事者全員の合意(契約)によって初めて実現できる法律関係である。したがって、三者間相殺合意書は、法定の相殺権の行使ではなく、当事者間の合意に基づく新たな契約(相殺契約)としての性質を有する点に注意が必要である。また、民法第509条は、悪意による不法行為に基づく損害賠償債権等、一定の債権については相殺が禁止される旨を定めており、対象債権がこれに該当しないかを確認する必要がある(第6条)。さらに、下請代金支払遅延等防止法の適用対象となる取引が含まれる場合、相殺による決済が実質的に下請代金の減額(同法第4条第1項第3号が禁止する下請代金の減額)に該当しないか、慎重な検討を要する。
よくある失敗の第一は、対象となる各債権の発生原因や金額を曖昧にしたまま相殺を実行し、後日、いずれかの当事者から金額の誤りが指摘される例である。第1条のように、各債権の発生原因と金額を具体的に記載することが対策となる。第二に、相殺の順序を定めずに一括して処理してしまい、複数の充当方法があり得る場合に、当事者間で最終的な残債権債務の内容について認識の相違が生じる例がある。第2条のように、充当順序を明記することが重要である。第三に、下請法の適用対象となる取引が含まれることを見落とし、相殺による決済が実質的な下請代金の減額とみなされ、下請法違反のリスクを負う例がある。第7条のように、下請法の適用の有無を確認し、必要な手続を踏むことが望ましい。相殺禁止事由への該当性や下請法上のリスクについては、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 甲乙丙それぞれの対象債権の発生原因及び金額を正確に確定した
- [ ] 相殺の順序及び対当額の充当方法を明確に定めた
- [ ] 相殺後の残債権債務の帰属及び金額を具体的に記載した
- [ ] 対象債権が相殺禁止事由(民法第509条等)に該当しないか確認した
- [ ] 対象債権に譲渡制限特約や差押えが付されていないか確認した
- [ ] 下請法の適用対象となる取引が含まれるか確認し、該当する場合は減額規制への抵触を検討した
- [ ] 三者全員の合意が得られない部分がある場合の代替的な処理方法を検討した
- [ ] 相殺後の残債務の支払期日を明記した
- [ ] 各当事者が合意内容について社内承認手続を経ているか確認した
- [ ] 記名押印者が三者それぞれの契約締結権限を有することを確認した