サプライチェーン排出量の算定に必要なデータ提供を取引先へ依頼する書面です。対象範囲、算定方法、秘密保持の取扱いを明示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
Scope3排出量データ提供依頼書
第1部: 書式本文
Scope3排出量データ提供依頼書
依頼企業:【依頼企業名】 提供依頼先:【サプライヤー企業名】 依頼日:【20〇〇年〇月〇日】 回答期限:【20〇〇年〇月〇日】
第1条(依頼の趣旨) 1. 依頼企業は、自社のサプライチェーン排出量(Scope3)の算定にあたり、貴社(提供依頼先)の事業活動に伴う温室効果ガス排出量に関するデータの提供を依頼する。
第2条(対象範囲) 2. データ提供の対象は、依頼企業向けの製品・サービスの製造、輸送、使用等に関連する範囲(GHGプロトコルにおけるカテゴリ【 】)とする。 3. 対象期間は【 】事業年度とする。
第3条(算定方法) 4. 提供データは、温室効果ガスプロトコル(GHGプロトコル)コーポレート・バリューチェーン(Scope3)基準に準拠した算定方法によるものとし、算定方法の概要(一次データか二次データ(排出係数)によるものか)を併せて提供する。 5. 一次データの提供が困難な場合は、業界平均等の二次データによる推計値の提供でも差し支えないものとし、その旨を明示する。
第4条(提供方法) 6. データは別紙様式(又は依頼企業指定のプラットフォーム)に記入のうえ、電子データにて提供する。
第5条(未回答・回答困難な場合の取扱い) 7. 提供依頼先がデータを保有していない、又は算定体制が未整備である場合、その旨及び整備予定時期を回答するものとし、未回答をもって直ちに取引条件に影響を及ぼすものではない。
第6条(秘密保持) 8. 依頼企業は、提供されたデータを本依頼の目的(Scope3算定及び開示)以外に使用せず、提供依頼先の書面による事前の承諾なく第三者(算定支援を委託する専門業者を除く)に開示しないものとする。 9. 算定支援業者へ開示する場合、当該業者にも本条と同等の秘密保持義務を課すものとする。
第7条(データの正確性) 10. 提供依頼先は、提供するデータが提供時点で合理的に把握し得る範囲で正確であることを確認する。ただし、将来の算定方法の変更等により遡及的に見直される可能性があることを、依頼企業・提供依頼先双方が了解する。
第8条(費用負担) 11. データ提供に要する合理的な事務費用は、【依頼企業/提供依頼先】が負担するものとし、大規模なシステム対応等の追加費用が生じる場合は別途協議する。
第9条(継続的提供) 12. 本依頼は【単年度/複数年度にわたる継続的な】データ提供を依頼するものであり、次年度以降の提供時期・様式は別途通知する。
第10条(独占禁止法等の遵守) 13. 依頼企業は、本依頼への回答又は回答内容を理由として、取引条件の一方的な不利益変更を行わないものとする。
依頼企業 記名押印:【 】 提供依頼先 記名押印:【 】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 依頼企業側で算定精度を高めたい場合
第3条に「可能な限り一次データによる算定を優先し、推計値を用いる場合は推計方法の根拠を別紙に明記する」との文言を追加する。開示先(投資家・格付機関等)から算定精度の説明を求められる場面を想定した修正です。
B節: 提供依頼先が中小企業で算定体制が未整備な場合
第5条を拡充し、「算定体制の整備が完了するまでの間は、簡易な原単位(業界標準値)による推計提供で足りるものとし、依頼企業は算定支援に関する情報提供(参考ツール・相談窓口の案内)を行う」との協力条項を追加する。
C節: 継続的な取引関係で毎年データ提供を求める場合
第9条を独立させ、「提供時期は毎事業年度終了後【3】か月以内とし、様式変更がある場合は事業年度開始前に通知する」との定期運用ルールを明記する。
D節: 提供データを外部開示(CDP回答等)に用いる場合
第6条の秘密保持条項に「依頼企業が提供データを集計・匿名化したうえで対外的なサステナビリティ開示に用いることについては、提供依頼先の包括的同意を得るものとする」との開示同意条項を追加する。
E節: 取引上優越的地位にある企業が依頼する場合
第10条を強化し、「本依頼への回答拒否又は回答内容を理由とする不利益な取扱いは行わない」旨を明記するとともに、下請法上の親事業者に該当する場合は、当該依頼が下請法上の給付内容に含まれない役務の要請とならないよう、依頼の位置づけ(任意協力である旨)を明確化する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、自社のサプライチェーン排出量(Scope3)を算定するために、取引先へ排出量データの提供を依頼する場面で使用します。想定される場面は、CDP等の外部イニシアチブへの回答、TCFD・ISSB基準に基づく開示、大手取引先からの調達基準対応などです。他方で、取引上の優越的地位を利用して過度に詳細なデータ提供を強制したり、未回答・回答拒否を理由に直ちに取引を打ち切るような運用は避けるべきです。
根拠法令・基準としては、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)によるScope1・2の算定・報告制度に加え、Scope3についてはGHGプロトコルという国際的な民間基準が実務上の算定方法として広く用いられています。法的な提供義務を直接定める法令はない一方、依頼の態様によっては独占禁止法上の優越的地位の濫用、下請代金支払遅延等防止法上の不当な経済上の利益の提供要請に該当するリスクがあります。特に下請法が適用される取引において、データ提供への協力を条件に代金の減額や発注量の削減を行うことは、同法違反となり得ます。
よくある失敗として、第一に、データ提供の目的外利用や第三者への無断開示により、提供依頼先との信頼関係を損なうケースがあります。第6条のように利用目的を限定し、算定支援業者への再委託時の秘密保持義務も明記することが対策です。第二に、未回答企業に対して合理的な猶予を与えずに取引条件を見直す運用により、下請法・独占禁止法上のリスクが顕在化するケースです。第7条・第10条のように未回答が直ちに不利益に結びつかない旨を明記することが重要です。第三に、算定方法(一次データか推計か)を明示せずにデータを収集し、後日開示情報の信頼性が問われるケースです。第4条・第7条のように算定方法の概要を必須記載事項とすることで対応できます。本依頼の適法性は取引条件や交渉力の実態によって左右されるため、個別事案は専門家に確認することが望ましいです。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象範囲(GHGプロトコルのカテゴリ区分)と対象期間を明確にしたか
- [ ] 算定方法(一次データ・二次データの別)の提供を求める項目を設けたか
- [ ] 未回答・回答困難な場合の取扱いを明記し、直ちに不利益とならない旨を定めたか
- [ ] 秘密保持条項及び第三者(算定支援業者)への開示条件を定めたか
- [ ] 下請法・独占禁止法上のリスク(優越的地位の濫用)を検討したか
- [ ] 費用負担の考え方(合理的事務費用・追加費用対応)を明記したか
- [ ] 継続的なデータ提供を求める場合、提供時期・様式変更の通知方法を定めたか
- [ ] 提供データを外部開示に用いる場合の同意条項を設けたか
- [ ] 提供依頼先の算定体制整備状況に応じた代替対応(業界標準値の利用等)を用意したか
- [ ] 記名押印又は電子的な合意取得の方法を確認したか
- [ ] 社内での回収データの管理・保存体制を整備したか
- [ ] 提供データの正確性に関する免責的な位置づけ(遡及修正の可能性)を明記したか