生成AIを用いた制作物の権利と責任を当事者間で定める合意書。著作権法第2条第1項第1号の創作性要件と第三者侵害時の分担を扱います。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
生成AI生成物の権利帰属に関する合意書
第1部: 書式本文
【委託者名】(以下「甲」という。)と【受託者名】(以下「乙」という。)は、乙が生成AIツールを利用して行う制作業務の成果物に係る権利帰属に関し、以下のとおり合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(定義) 本合意書において「本生成物」とは、乙が本業務の遂行過程で作成する【イラスト/文章/デザイン】をいう。「生成AIツール」とは、乙が本生成物の作成に利用する画像生成・文章生成等のAIサービスをいう。「プロンプト」とは、生成AIツールに対して入力する指示文その他のパラメータをいう。
第2条(委託内容) 甲は乙に対し、【業務内容】を委託し、乙はこれを受託する。
第3条(生成AIの利用及び開示義務) 乙は、本生成物の作成にあたり生成AIツールを利用する場合、使用したツールの名称、利用範囲(下描き・素材生成・文章草案等)及び主要なプロンプトを、納品時に甲に書面で開示する。乙は、甲の事前の承諾なく、本生成物の主要な創作的部分を生成AIツールのみによって作成してはならない。
第4条(創作的関与の記録) 乙は、本生成物の作成過程において、構図の選定、AI出力結果への加筆・修正、複数の生成結果からの選択・組み合わせ等、人間による創作的な関与の内容を記録し、甲の求めに応じて提示する。
第5条(著作物性の確認) 甲及び乙は、本生成物のうち、乙による創作的な関与(前条の加筆・修正・選択等)が認められる部分については著作権法第2条第1項第1号にいう著作物に該当し得ること、他方でAIツールが自律的に生成した部分のみから成り、人間の創作的寄与が認められない部分は著作物に該当しない可能性があることを相互に確認する。
第6条(権利の帰属) 本生成物のうち著作物性が認められる部分に係る著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、甲が乙に対し第9条の対価を完済したときに乙から甲に移転する。著作物性が認められない部分については、乙は甲に対し、本生成物を業務の目的の範囲内で独占的に利用する権利を許諾する。
第7条(既存著作物との類似性の確認) 乙は、本生成物の納品前に、生成AIツールの出力結果が既存の著作物と酷似していないかを合理的な範囲で確認し、酷似する可能性がある場合は甲に報告し、修正又は差替えを行う。
第8条(第三者権利侵害時の責任分担) 本生成物が第三者の著作権その他の権利を侵害するものであることが判明した場合において、乙が第3条の開示義務及び第7条の確認義務を履行していたにもかかわらず生じた侵害については、甲乙協議のうえ対応方針及び費用分担を定める。乙が開示義務又は確認義務を怠ったことに起因する侵害については、乙が甲の被った損害を賠償する。
第9条(対価) 甲は乙に対し、本業務の対価として金【〇〇】円を、乙による納品及び甲の検収完了後【30】日以内に支払う。
第10条(納品及び検収) 乙は、本生成物を【納期】までに甲に納品する。甲は、納品を受けた日から【7】日以内に検収を行い、修正が必要な場合はその内容を乙に通知する。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本合意書に関連して知り得た相手方の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第12条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本合意書に違反し、相当期間の催告後も是正されない場合、本合意書を解除できる。
第13条(準拠法及び合意管轄) 本合意書の準拠法は日本法とし、本合意書に関する紛争は【】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本合意書締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】 甲(委託者):住所 名称 代表者 印 乙(受託者):住所 名称 代表者 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 委託者(発注側)向けの修正
A-1. 生成AI利用範囲の事前承認制への変更
追加条文例:「乙は、本生成物の作成に生成AIツールを利用しようとする場合、事前に甲の書面承諾を得るものとし、無断で利用した場合、甲は本生成物の受領を拒絶できる。」 一言解説: 納品後の事後開示では手戻りが大きいため、利用そのものを事前承認制とし、発注者が制作過程をコントロールできるようにする修正である。
A-2. 権利移転を停止条件付きから完全買取型へ変更
追加条文例:「本生成物に係る一切の権利(著作物に該当しない部分についての独占的利用権を含む。)は、対価の支払を待たず、納品と同時に甲に帰属し、又は甲に許諾されるものとする。」 一言解説: 対価支払前の権利帰属を明確にしたい発注者(即座に事業利用を開始したい場合等)のため、権利移転のタイミングを納品時点に前倒しする修正である。
B. 受託者(制作側)向けの修正
B-1. 著作物性が認められない部分についての乙の利用権留保
追加条文例:「乙は、著作物性が認められない部分について甲に独占的利用を許諾した場合であっても、当該部分を含むプロンプトやワークフローを自己のノウハウとして他の案件に利用することを妨げられない。」 一言解説: 生成AI活用のノウハウ(プロンプト設計等)まで発注者に独占されることを避け、受託者が他案件でも技術・知見を再利用できるようにする修正である。
B-2. 既存著作物との類似性確認義務の限定
追加条文例:「第7条の確認義務は、乙が通常入手可能な範囲の検索手段による確認をもって足り、乙は本生成物が既存著作物と一切類似しないことまで保証するものではない。」 一言解説: 既存著作物との非類似性を完全に保証することは技術的に困難であるため、確認義務の水準を合理的な範囲に限定し、受託者の過大な責任負担を回避する修正である。
C. AI利用の開示義務付きの修正
C-1. 開示内容の詳細化(生成AIツール名・バージョン・利用工程)
追加条文例:「乙は、納品時に、使用した生成AIツールの名称及びバージョン、利用した工程(構成案作成・下絵生成・文章生成・校正等)、並びに生成結果に対する乙の加筆修正の概要を記載した利用報告書を甲に提出する。」 一言解説: 開示義務を抽象的な努力目標にとどめず、報告書の様式・記載事項まで具体化することで、開示の実効性を高める修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、イラスト・文章・デザイン等の制作を外部に委託する際、受託者が生成AIツールを利用することを前提に、生成物の権利帰属と開示義務を定める場面で用いる。学習用データセットを外部のAI開発企業に提供して機械学習に利用させる場面は規律対象が異なり、本書式ではなくAI学習用データセット利用許諾契約書を用いるべきである。
根拠法令 著作権法第2条第1項第1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しており、人間の思想・感情の創作的な表現であることが要件となる。生成AIツールが自律的に出力した結果をそのまま用いる場合、人間の創作的関与が認められないとして著作物性が否定される可能性がある一方、人間がプロンプトの工夫、出力結果への加筆・修正、複数候補からの選択等を通じて創作的に関与した場合には、当該関与部分について著作物性が肯定されうると考えられている。この評価は個別の事情により異なり、確立した一律の基準があるわけではない。また、生成物が既存の著作物に依拠し類似する場合には、著作物性の有無にかかわらず著作権侵害(著作権法第21条の複製権侵害等)が問題となりうる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、生成AIを使用したことを発注者に開示せず、後日既存著作物との酷似が発覚してトラブルになる失敗がある。第3条のように開示義務を明記し、利用範囲・プロンプトの提示を求めることが有効である。第二に、生成物の著作物性の有無を確認しないまま一律に「著作権は甲に譲渡する」とだけ定めたが、AI単独生成物には著作物性がなく譲渡の対象となる権利が存在しなかった失敗がある。第5条・第6条のように著作物性の有無で場合分けし、著作物性がない部分については利用許諾という契約上の構成を併用すべきである。第三に、既存著作物との類似性確認を怠り、納品後に第三者から著作権侵害の警告を受けた際に責任の所在が不明確であった失敗がある。第8条のように義務履行の有無に応じた責任分担をあらかじめ定めておくことが望ましい。生成AIをめぐる法的評価は今後の裁判例・行政指針の集積により変化しうるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 生成AIツールの使用の有無及び使用範囲を委託前に確認したか
- [ ] 生成AI利用時の開示義務(ツール名・プロンプト等)を明記したか
- [ ] 人間の創作的関与の内容を記録・提示する仕組みを設けたか
- [ ] 本生成物の著作物性の有無で権利構成(譲渡/利用許諾)を分けたか
- [ ] 権利移転のタイミング(対価支払時/納品時)を明確にしたか
- [ ] 既存著作物との類似性確認義務の範囲・水準を明記したか
- [ ] 第三者権利侵害時の責任分担基準(義務履行の有無)を定めたか
- [ ] 対価の金額及び支払時期・条件を確認したか
- [ ] 検収の期間及び修正対応の手続を定めたか
- [ ] 受託者のノウハウ(プロンプト等)の他案件への再利用可否を検討したか