他社出願前から自社で実施していた事実を記録する書式。特許法第79条の先使用権を主張するための日付証明と資料保全に用います。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
先使用権立証のための証拠保全記録
第1部: 書式本文
本書式は、他社が特許出願をする前から自社が当該発明を実施し、又は実施の準備をしていた事実を記録し、特許法第79条に基づく先使用による通常実施権(先使用権)を主張する際の立証資料として用いる記載項目一覧である。
【先使用権立証のための証拠保全記録】
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記録番号・作成年月日 記録番号:【 】/ 作成年月日:【 年 月 日】/ 作成部門:【 】/ 作成担当者:【 】
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対象となる技術・製品の名称 【 】
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実施又は実施準備の内容 自ら実施している事業の内容:【製品名、製造方法、工程名等を具体的に記載】/ 実施の準備の内容(未実施の場合):【設計完了、試作、設備発注、社内稟議決裁等、客観的に認識し得る準備行為を記載】
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発明の内容の特定 技術的特徴:【特許請求の範囲に相当する構成要件を意識して具体的に記載】/ 図面・仕様書番号:【 】
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実施(準備)の開始年月日 【 年 月 日】(可能な限り日単位で特定し、根拠資料の作成日と整合させる)
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実施(準備)の場所 【事業所名・工場名等】
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発明の内容を独自に完成させたこと又は正当に知得したことの経緯 自社独自開発の経緯:【研究開発の記録、設計変更履歴等】/ 第三者から知得した場合の経緯:【知得の相手方、知得の方法、契約関係等】
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客観的証拠資料の一覧(該当するものにチェックし、保管場所を記載) 設計図面・仕様書:【保管場所】/ 実験ノート・研究記録:【保管場所】/ 製造指図書・作業日報:【保管場所】/ 部品発注書・購入伝票:【保管場所】/ 納品書・検収書:【保管場所】/ 社内稟議書・決裁書:【保管場所】/ 会議議事録:【保管場所】/ 製品写真・現物サンプル:【保管場所】/ 電子メール・システムログ:【保管場所】
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日付証明の方法 公証人役場における確定日付の取得:取得年月日【 年 月 日】、公証役場名【 】/ タイムスタンプ局によるタイムスタンプの付与:付与年月日【 年 月 日】、タイムスタンプ局名【 】/ その他の日付証明方法:【 】
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実施(準備)の継続性の確認 記録作成時点における実施(準備)の継続状況:【継続中・中断・終了、理由を記載】
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実施(準備)の範囲(将来の先使用権の範囲画定に関わる事項) 発明の範囲:【 】/ 事業の目的の範囲:【製品の種類、製造数量規模等】
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秘密保持・ノウハウ管理の状況 アクセス制限の有無:【 】/ 秘密保持契約の締結状況:【関係者、締結年月日】
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記録の確認・承認欄 記録作成者署名・捺印:【 】/ 記録確認者(知的財産部門)署名・捺印:【 】/ 承認年月日:【 年 月 日】
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保存期間及び保存場所 保存期間:当該技術の実施終了後【10】年間/ 保存場所:【 】/ 保存方法(原本・電子データ):【 】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 製造業向け
製造業では量産開始前の試作・設備投資段階から証拠を積み上げることが重要である。第3項を以下のように書き換える例を示す。
書き換え例:「実施の準備の内容として、量産設備の発注(発注書番号【 】、発注日【 年 月 日】)、試作品の製造(試作記録番号【 】)及び量産計画書の社内決裁(決裁日【 年 月 日】)の各事実を記録し、それぞれの原本又は写しを添付する。」
一言解説: 製造業における「事業の準備」は、単なる研究段階を超え、即時実施の意図が客観的に認識される程度に至っていることが要求されるため、設備投資や量産計画決裁など対外的・客観的な行為を重ねて記録することが有効である。
B. ノウハウ秘匿戦略採用企業向け
あえて特許出願をせずノウハウとして秘匿する戦略を採る企業では、先使用権の立証資料が自社防衛の生命線となる。第8項及び第12項を以下のように書き換える例を示す。
書き換え例:「ノウハウとして秘匿する技術については、アクセス権限を有する者を【部署・役職】に限定し、当該制限の設定日、対象範囲及び管理責任者を本記録に記載する。年【1】回、秘匿状況の棚卸しを行い、棚卸記録を本証拠保全記録に追加する。」
一言解説: 秘匿戦略では特許出願による公的な優先日の確保ができないため、社内の秘密管理状況そのものが実施の事実及び継続性を裏付ける重要な間接証拠となる。
C. 公証・タイムスタンプ併用
日付の客観性を高めるため、公証人による確定日付とタイムスタンプを併用する運用が有効である。第9項を以下のように書き換える例を示す。
書き換え例:「本記録及び添付資料一式について、作成後速やかに公証人役場において私署証書の確定日付を取得するとともに、電子データについては認定タイムスタンプ局による認定タイムスタンプを付与する。両者の日付に齟齬が生じないよう、取得手続は同一週内に行う。」
一言解説: 確定日付は書面の存在時点を、タイムスタンプは電子データの存在時点及び非改ざん性をそれぞれ立証する機能を持つため、両者を併用することで書面と電子データの双方について立証力を補強できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式を使う場面は、他社が特許出願をする可能性がある技術について、自社が特許出願をしない(又は出願前の)段階から実施又は実施準備を行っており、将来他社の特許権行使を受けた場合に備えて実施の事実と日付を記録化しておきたい場合である。逆に、自社が当該技術について特許出願を予定しており、出願により優先的な権利化を図る方針が既に確定している場面では、出願書類の完成度を高めることが優先されるべきであり、本書式はあくまで出願をしない技術又は出願前の期間を対象とする補完的な記録として位置付けるべきである。
根拠法令は特許法第79条である。同条は、特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する旨を定めている。先使用権の成立要件は、(1)特許出願に係る発明の内容を知らずに独自に発明をし、又は独自発明者から知得したこと、(2)特許出願の際に日本国内で現に事業をしていること又はその事業の準備をしていること、の2点に整理できる。特に「事業の準備」については、単なる着想やアイデアの段階では足りず、即時実施の意図が客観的に認識される程度に具体化していることが必要とされており、この点の証拠の厚みが立証の成否を左右する。
実務でよくある失敗の第一は、実施又は準備の事実は存在するものの、日付を客観的に裏付ける資料が乏しいケースである。社内資料のみでは作成日を事後的に改ざんしたのではないかとの疑いを払拭しにくいため、第9項のように公証人による確定日付やタイムスタンプ局によるタイムスタンプを活用し、外部機関による日付証明を得ておくことが対策となる。
第二の失敗は、「事業の準備」の内容が抽象的な検討段階にとどまっており、即時実施の意図を客観的に示す資料が不足しているケースである。単なる研究メモや構想段階の資料だけでなく、設備発注書、量産計画の決裁書、試作品の製造記録など、対外的・具体的な行為を示す資料をあわせて保存することが対策となる。
第三の失敗は、先使用権の範囲(発明及び事業の目的の範囲)を意識せずに記録を作成し、実施範囲の拡大時に権利範囲との齟齬が生じるケースである。先使用権は実施又は準備をしていた発明及び事業の目的の範囲内でのみ認められるため、第11項のように対象範囲(製品種類、製造規模等)を具体的に記録し、事業拡大の都度、記録を更新しておく必要がある。
個別事案は専門家に確認してください。先使用権の成否は、実施又は準備の具体性、独自開発性の立証状況等、事案ごとの事実関係に大きく左右される。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象技術の内容及び技術的特徴が具体的に特定されているか
- [ ] 実施又は実施準備の開始日が客観的資料により裏付けられているか
- [ ] 他社の特許出願に係る発明の内容を知らずに独自開発した経緯、又は正当な知得経緯が記録されているか
- [ ] 「事業の準備」に該当する場合、即時実施の意図を示す客観的資料(設備発注、決裁書等)が保存されているか
- [ ] 設計図面・実験記録・発注書・納品書等の一次資料の保管場所が明記されているか
- [ ] 公証人による確定日付又はタイムスタンプ局によるタイムスタンプが付与されているか
- [ ] 実施(準備)の範囲(発明の範囲・事業の目的の範囲)が具体的に記録されているか
- [ ] 実施の継続性(継続中か中断したか)が定期的に更新されているか
- [ ] 秘密管理の状況(アクセス制限、秘密保持契約)が記録されているか
- [ ] 記録の作成者及び確認者(知的財産部門等)の署名・承認が得られているか
- [ ] 保存期間及び保存方法(原本・電子データ)が明確に定められているか
- [ ] 事業内容の変更・拡大の都度、記録が更新される運用になっているか