選手の移籍に伴う移籍金や条件を確認する三者間の合意書です。登録手続、育成対価、再移籍時の分配条項を明確にします。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
選手移籍合意書
第1部: 書式本文
選手移籍合意書
移籍元クラブ:【クラブ名】(以下「甲」という。) 移籍先クラブ:【クラブ名】(以下「乙」という。) 選手:【選手氏名】(以下「丙」という。)
甲、乙及び丙は、丙の甲から乙への移籍に関し、次のとおり合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(移籍の合意) 甲、乙及び丙は、丙が甲との選手契約を合意解約し、乙との間で新たに選手契約を締結することにより、丙が乙に移籍することに合意する。
第2条(移籍金) 1. 乙は甲に対し、移籍金として金【 】円(税込み)を、【20〇〇年〇月〇日】までに、甲の指定する口座に振り込む方法により支払う。 2. 移籍金の金額は、丙の残存契約期間、実績等を考慮のうえ、甲乙協議のうえ定めたものである。
第3条(育成対価) 本移籍が所属競技団体の定める育成補償制度の対象となる場合、乙は当該制度に基づき算定される育成対価を、丙を過去に育成した団体・クラブに対して別途支払うものとする。
第4条(登録手続) 1. 甲、乙及び丙は、所属競技団体が定める選手登録の抹消及び新規登録の手続に、遅滞なく協力する。 2. 移籍の効力は、所属競技団体における登録手続の完了をもって生じるものとする。
第5条(再移籍時の分配) 1. 丙が乙から第三のクラブへ将来移籍する場合において、乙が移籍金を得たときは、乙は甲に対し、当該移籍金の【 】%相当額を分配する。 2. 前項の分配義務は、本合意書締結後【 】年間に限り適用する。
第6条(未払金の確認) 甲は、丙に対する未払報酬その他の金銭債務が存在しないこと(存在する場合はその内容及び弁済方法)を乙及び丙に開示する。
第7条(表明保証) 1. 甲は、丙との選手契約が有効に存続しており、丙の移籍について甲に権利を主張する第三者(他クラブとの重複契約等)が存在しないことを表明し、保証する。 2. 丙は、甲との間で本移籍を妨げる契約上の制約が存在しないことを表明し、保証する。
第8条(秘密保持) 甲、乙及び丙は、本合意書の内容(移籍金額を含む)を、所属競技団体への届出、法令上の開示義務がある場合又は各当事者の事前の書面による承諾がある場合を除き、第三者に開示しないものとする。
第9条(移籍金不払いの場合の措置) 乙が第2条の移籍金を期限までに支払わない場合、甲は本合意書を解除し、丙の登録の効力について所属競技団体の定めに従った措置を求めることができる。
第10条(協議事項) 本合意書に定めのない事項については、甲乙丙誠実に協議のうえ、所属競技団体の移籍規則等も踏まえて定める。
甲:【 】 乙:【 】 丙:【 】 立会人(所属競技団体担当者・代理人等):【 】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 移籍元クラブ(甲)が将来の値上がり益を確保したい場合
第5条の再移籍分配条項の適用期間を「無期限(丙が乙に在籍する限り)」に拡張し、分配率を移籍金額に応じた段階的な料率(スライド制)に修正する。育成に関与したクラブの利益を長期的に確保する書き換えです。
B節: 移籍先クラブ(乙)が支払条件を柔軟にしたい場合
第2条を「移籍金の一部を契約締結時に、残額を出場実績等の条件達成時に分割して支払う」との分割・条件付き支払条項に修正する。移籍金の一括支払いによる資金負担を軽減する修正です。
C節: 選手(丙)本人の意思確認を重視する場合
第1条に「丙は、本移籍が丙自身の自由な意思に基づくものであることを確認する」との条項を追加し、丙の署名欄を独立させて明確な同意取得のプロセスとする。
D節: 期限付き移籍(レンタル移籍)の場合
第1条・第4条を修正し、「本移籍は期限付き移籍とし、期間満了後は丙は甲に復帰する。ただし、乙が完全移籍を希望する場合は別途協議する」との復帰条項を追加し、移籍金を「レンタル料」に読み替える。レンタル期間中の年俸負担割合や、完全移籍への移行条件(オプション条項)も併せて整理しておくと運用しやすくなります。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、選手が所属クラブを移籍する際に、移籍元クラブ・移籍先クラブ・選手本人の三者間で移籍条件を確認する場面で使用します。多くの競技団体では独自の移籍規則(移籍金の算定方法、登録手続、育成補償制度等)を定めており、本合意書はこれらの規則に基づく具体的な条件を三者間で確認・合意する機能を担います。移籍規則の内容と矛盾する合意は、所属競技団体において効力が認められない可能性があるため、必ず適用される移籍規則を確認したうえで作成する必要があります。
法的性質としては、選手契約(丙と甲との契約)の合意解約及び新たな選手契約(丙と乙との契約)の締結を組み合わせた複合的な合意であり、移籍金の支払いは甲乙間の契約上の対価としての性格を持ちます。競技団体によっては、移籍金の算定基準や上限、育成対価(トレーニングコンペンセーション)の算定方法が規約で定められている場合があり、これらに反する合意は無効又は競技団体からの制裁の対象となり得ます。また、選手本人の職業選択の自由(移籍の自由)を不当に制限する内容(過大な違約金設定等)は、公序良俗(民法第90条)に反し無効と判断されるリスクもあります。
よくある失敗として、第一に、移籍金の支払時期・方法が曖昧で、登録手続完了後に支払いが滞るケースがあります。第2条・第9条のように支払期限及び不払い時の措置を明記することが対策です。第二に、育成補償制度の対象となるか否かの確認を怠り、後日第三者(過去の育成クラブ)から請求を受けるケースです。第3条のように制度の適用確認を条項化することが有効です。第三に、選手本人の意思確認が不十分なまま、クラブ間の合意のみで手続を進め、選手側から異議が出るケースです。第1条・C節のように選手本人の意思確認プロセスを明確にすることが望まれます。移籍規則の解釈や育成補償制度の適用範囲については競技団体ごとに異なるため、個別事案は専門家に確認することが望まれます。また、移籍金額を不当に高額に設定し、実質的に選手の移籍を妨げるような合意は、選手の職業選択の自由を過度に制約するものとして問題視される可能性があるため、移籍金の算定根拠(残存契約期間、市場評価等)を合理的に説明できるよう整理しておくことが望まれます。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 所属競技団体の移籍規則の内容(移籍金上限、育成補償制度等)を確認したか
- [ ] 移籍金の金額、支払時期、支払方法を明確にしたか
- [ ] 登録手続の完了時期と移籍の効力発生時期の関係を明確にしたか
- [ ] 育成対価の対象となるか否かを確認したか
- [ ] 再移籍時の分配条項の要否及び適用期間を検討したか
- [ ] 未払報酬等、丙に対する既存債務の有無を確認・開示したか
- [ ] 選手本人(丙)の自由な意思に基づく移籍であることを確認するプロセスを設けたか
- [ ] 移籍金不払い時の措置(解除等)を明記したか
- [ ] 秘密保持条項(移籍金額の非開示)を設けたか
- [ ] 期限付き移籍か完全移籍かを明確にしたか
- [ ] 移籍金額の算定根拠を合理的に説明できる資料を整理したか
- [ ] 表明保証(重複契約の不存在等)の条項を設けたか