死後事務の実行に必要な費用をあらかじめ預託する契約書です。預託金の管理方法、使途、精算と返還の手続を明確にします。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
死後事務費用預託契約書
第1部: 書式本文
死後事務費用預託契約書
【委任者氏名】(以下「甲」という。)と【受任者・預託先名称】(以下「乙」という。)は、甲乙間で別途締結する死後事務委任契約(以下「原契約」という。)に基づき乙が行う死後事務の費用に充てるため、次のとおり預託契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、原契約に定める死後事務(葬儀・火葬の手配、行政手続、公共料金等の解約、遺品整理その他甲が原契約で委託した事務をいう。以下「死後事務」という。)の実行に必要な費用に充てるため、甲が乙に金銭を預託することを目的とする。
第2条(預託金額及び預託方法) 1. 甲は、乙に対し、死後事務の費用に充てるため、金【 】円(以下「預託金」という。)を、本契約締結時に一括して預託する。 2. 乙は、預託金を、乙の固有財産及び甲以外の第三者から預かった金銭と明確に区分して管理する口座(以下「管理口座」という。)において保管する。
第3条(預託金の分別管理) 1. 預託金及びこれに付随する利息は、甲の財産として管理され、乙の相続財産又は乙の債権者による差押えの対象とならないよう、乙固有の財産とは分別して管理する。 2. 乙は、甲の求めに応じ、管理口座の残高及び入出金状況を開示する。
第4条(委任契約が死亡によって終了しないことの確認) 1. 民法第653条第1号は、委任者又は受任者の死亡を委任の終了事由の一つとして定めている。もっとも、甲及び乙は、死後事務を目的とする原契約が甲の死亡によっても当然には終了しないものとすることを、原契約とあわせて確認する。 2. 甲の相続人は、甲の死亡後、原契約及び本契約を解除することができる。ただし、その解除が乙による死後事務の履行に著しい支障を生じさせるものであるときは、相続人は、乙に生じた損害を賠償する。
第5条(預託金の使途) 1. 乙は、預託金を、原契約に定める死後事務の実行に必要な費用(葬儀費用、行政手続に要する費用、遺品整理費用、乙の報酬を含む。)に限り充当する。 2. 乙は、預託金を死後事務以外の目的に流用してはならない。
第6条(費用の精算) 1. 乙は、死後事務の完了後、【 】日以内に、預託金の使途を明らかにした精算書を作成し、甲があらかじめ指定した者(以下「精算報告先」という。)に交付する。 2. 精算書には、支出項目、金額、支出年月日及び領収書等の証憑を添付する。
第7条(残余預託金の返還) 1. 死後事務完了後に預託金の残余があるときは、乙は、遅滞なく、甲の相続人(相続人が複数のときはその代表者)又は甲が本契約であらかじめ指定した受取人に対し、当該残余金を返還する。 2. 相続人間で残余預託金の帰属について協議が調わない場合、乙は、供託その他の方法により債務を免れることができる。
第8条(生前の解約) 1. 甲は、生前、いつでも本契約及び原契約を解約し、預託金の返還を求めることができる。 2. 前項の場合、乙は、既に着手した準備行為に要した実費を除き、預託金を甲に返還する。
第9条(乙の死亡・解散時の取扱い) 乙が個人であって甲より先に死亡した場合、又は乙が法人であって解散した場合、原契約及び本契約は終了し、乙(乙の相続人又は清算人)は、預託金から未払費用を精算した残額を甲又は甲があらかじめ指定した者に返還する。
第10条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証する。
第11条(協議事項) 本契約に定めのない事項は、甲乙誠実に協議して定める。
【作成日】 甲(委任者) 【住所】【氏名】 印 乙(受任者・預託先) 【住所】【氏名・名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 委任者の立場から
A-1. 相続人への説明を確実にしたい場合
第7条の前に「甲は、本契約締結後速やかに、推定相続人に対し、本契約及び原契約を締結した事実、預託金の金額及び管理方法を通知する」との一文を追加する。
一言解説: 死後事務委任契約及び預託契約の存在を相続人が知らないと、預託金の帰属をめぐって相続人と受任者との間で紛争が生じやすいため、生前に情報共有を図る条項を加えることが有効である。
A-2. 預託金の運用方法を限定したい場合
第3条第1項の末尾に「管理口座は元本が保証される預貯金口座に限るものとし、乙は預託金を投資その他元本割れのリスクを伴う方法で運用してはならない」との一文を追加する。
一言解説: 預託金は死後事務の実行のために確実に確保されるべき性質の金銭であるため、運用方法を元本保証型に限定しておくことが委任者側の利益にかなう。
B. 受任者・預託先の立場から
B-1. 相続人からの返還請求への対応を明確化したい場合
第7条第2項に続けて「乙は、相続人間の協議が調わないことにつき乙の責めに帰すべき事由がない限り、供託により本契約に基づく返還義務を免れる」との一文を追加する。
一言解説: 死後事務完了後の残余預託金をめぐって相続人間で争いが生じることは少なくないため、受任者側が板挟みにならないよう、供託による免責の道を確保しておくことが望ましい。
B-2. 報酬を預託金から充当することを明確にしたい場合
第5条第1項の「乙の報酬を含む」の後に「報酬額は原契約の別紙報酬基準による」との一文を追加し、原契約の報酬基準を添付する。
一言解説: 報酬の充当根拠が不明確だと、精算時に相続人から報酬の妥当性を争われる可能性があるため、報酬基準を明示し原契約と紐づけておくことが有効である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、死後事務委任契約と併せて、死後事務の実行費用をあらかじめ受任者に預託しておく場面での使用を想定している。死後事務委任契約自体の内容(委任事務の範囲、報酬等)を定める書式ではないため、原契約とあわせて整備する必要がある。
民法第653条第1号は、委任は、委任者又は受任者の死亡によって終了することを原則として定めている。もっとも、委任者の死後の事務処理を目的とする委任契約(死後事務委任契約)については、委任者の死亡によっても当然には終了しないと解する裁判例がある(最高裁判所平成4年9月22日判決・金融法務事情1358号55頁の趣旨を踏まえた実務運用として、死後事務委任契約は、委任者の死亡後も委任者の意思を尊重して事務処理を継続することが契約の趣旨に含まれると解されている)。本書式第4条は、この実務上の理解を契約書上でも確認する趣旨の条項である。
本契約に基づく預託金は、甲(委任者)の財産であり、乙(受任者)の固有財産とは異なる。もっとも、預託金の法的性質(甲の相続財産に含まれるか、乙への信託的な移転と評価されるかなど)は、契約の定め方や実際の管理状況によって評価が分かれうる。実務上、預託金は委任者の相続財産とは別個に管理する必要があり、相続人との間で預託金の帰属を巡る紛争が生じやすい点に注意が必要である。第3条のように、管理口座を乙の固有財産と分別して管理する旨を明記し、第7条のように相続人間の協議が調わない場合の対応(供託等)をあらかじめ定めておくことが紛争予防の観点から有用である。
よくある失敗として、第一に、預託金を乙の事業用口座と一体で管理してしまい、乙の倒産・差押え時に預託金が保全されないリスクを見落とす例がある。第3条のように分別管理を明記することが対策となる。第二に、精算書や証憑の交付を定めておらず、死後事務完了後に相続人から使途を疑われる例がある。第6条のように精算書と証憑の交付を義務付けることが対策となる。第三に、相続人が原契約及び本契約の存在を知らず、受任者からの請求や返還の場面で混乱が生じる例がある。第2部A-1のように、生前に推定相続人へ情報共有する条項を設けることが対策となる。
死後事務委任契約及び預託契約の効力、預託金の法的性質、相続人との関係については、個別の事情によって判断が分かれうるため、個別事案については専門家(弁護士等)に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約(死後事務委任契約)と本契約(預託契約)の内容が整合しているか確認したか
- [ ] 預託金を乙の固有財産と分別管理する旨を明記したか
- [ ] 委任者の死亡によっても契約が当然には終了しない旨を条項化したか
- [ ] 預託金の使途の範囲(死後事務費用に限定する旨)を明記したか
- [ ] 精算書及び証憑の交付義務・交付期限を定めたか
- [ ] 残余預託金の返還先及び相続人間で協議が調わない場合の対応(供託等)を定めたか
- [ ] 生前の解約・返還手続を定めたか
- [ ] 受任者が先に死亡・解散した場合の取扱いを定めたか
- [ ] 推定相続人への事前の情報共有の要否を検討したか
- [ ] 報酬の充当根拠(報酬基準)を明確にしたか