複数の士業事務所が同一案件を共同受任する際の合意書。弁護士法や税理士法の名義貸し禁止に触れないよう、担当分掌・報酬配分・利益相反を整理。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
士業事務所の共同受任に関する合意書
第1部: 書式本文
【幹事事務所名】(以下「甲」という。)と【共同受任事務所名】(以下「乙」という。)とは、依頼者【依頼者商号又は氏名】(以下「丙」という。)から受任する【案件名】(以下「本件案件」という。)について、甲乙が共同して受任することに関し、次のとおり合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(目的) 本合意書は、甲及び乙がそれぞれの資格に基づく専門分野を分担しつつ本件案件を共同して受任するにあたり、担当分掌、報酬配分、利益相反の防止その他基本的な権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(幹事事務所) 1. 甲を本件案件に関する幹事事務所(以下「幹事事務所」という。)とし、丙との窓口及び全体の進行管理を行う。 2. 幹事事務所は、乙の担当分野に関する事項について、乙に代わって法律事務又は税務事務等を行う権限を有しない。
第3条(担当分掌) 1. 甲及び乙は、それぞれ自己の資格に基づき遂行し得る業務の範囲内で、次のとおり本件案件を分担する。 (1) 甲(【弁護士】)の担当: 【訴訟対応・契約交渉】 (2) 乙(【税理士】)の担当: 【税務申告・税務相談】 2. 甲及び乙は、自己の資格において行うことができない事務(他の資格者の独占業務に属する事務)を行ってはならず、当該事務が必要となった場合は相手方又は丙が別途手配する第三者の専門家に委ねる。
第4条(名義貸しの禁止) 1. 甲及び乙は、相手方の名義を借りて自己の資格では行い得ない業務を実質的に行い、又は自己の名義を相手方に貸与して相手方に自己の資格では行い得ない業務を行わせてはならない。 2. 甲及び乙は、丙に対する報告書、意見書その他の成果物について、実際に当該事務を遂行した事務所の名義で作成し、担当外の事務所が名義人となることを避ける。
第5条(丙への説明) 甲及び乙は、本件案件の受任にあたり、丙に対し担当分掌の内容、各事務所の報酬体系及び連絡窓口を書面で説明する。
第6条(報酬配分) 1. 丙が支払う報酬の総額及び支払方法は、丙と甲乙間で別途締結する委任契約書又は業務委託契約書に定めるところによる。 2. 甲及び乙の間における報酬の配分は、別紙報酬配分表に定めるとおりとし、各自の分担業務量及び責任の程度に応じて定める。
第7条(利益相反の確認) 1. 甲及び乙は、本件案件の受任前に、相手方が本件案件の相手方当事者又は利害関係人を別件で受任していないかを相互に確認する。 2. 受任後に利益相反のおそれが判明した場合、甲及び乙は速やかに相手方及び丙に通知し、辞任その他必要な措置について協議する。
第8条(責任の分担) 1. 甲及び乙は、自己の担当分掌に属する事務の遂行について生じた丙に対する損害賠償責任を、それぞれ自己の責任において負う。 2. 甲又は乙の一方が、他方の担当分掌に属する事務について丙に対し責任を負うことはない。
第9条(秘密保持) 甲及び乙は、本件案件の遂行に関連して知り得た丙及び相手方の秘密を、本件案件の遂行の目的以外に利用し、又は正当な理由なく第三者に開示してはならない。
第10条(合意の終了) 1. 本合意は、本件案件の終了により終了する。 2. 甲又は乙は、相手方に本合意の重大な違反があった場合、本合意を解除し、丙に対しその旨を通知する。
第11条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第12条(協議及び合意管轄) 1. 本合意に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本合意に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲・幹事事務所) 事務所又は法人名:【 】 資格及び登録番号:【 】 印
(乙・共同受任事務所) 事務所又は法人名:【 】 資格及び登録番号:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 幹事事務所向け書き換え
A-1. 弁護士事務所が幹事となり税理士と共同受任する場合
第2条2項追加例:「幹事事務所は、乙の担当分野に関する丙からの問い合わせを受けた場合、自ら回答せず速やかに乙に取り次ぐものとし、税務判断を含む回答を行わない。」 解説: 幹事事務所が税務判断を代わりに答えると税理士法第52条(税理士でない者による税理士業務の禁止)に抵触するおそれがあるため、取次ぎに徹する旨を明記する。
A-2. 複数の税理士法人が同一グループ企業案件を共同受任する場合
第3条1項修正例:「甲及び乙は、丙のグループ会社ごとに主担当法人を定め、主担当法人以外の法人は主担当法人の求めに応じて助言を行うにとどめるものとする。」 解説: 同業種の複数事務所が関与する場合、誰が対外的な税務代理権限証書上の代理人となるかを明確にし、責任の所在を一本化する。
B. 共同受任事務所向け書き換え
B-1. 税理士事務所が弁護士の共同受任事務所として関与する場合
第8条1項修正例:「乙(税理士)は、甲(弁護士)が行う訴訟活動の当否について意見を述べることがあるが、当該意見は参考情報の提供にとどまり、訴訟遂行に関する最終判断及び責任は甲に帰属する。」 解説: 税理士が訴訟方針にまで意見を述べると弁護士法第72条との関係で疑義が生じかねないため、意見提供にとどまる旨と責任の所在を明確にする。
B-2. 社会保険労務士が労務デューデリジェンスで共同受任する場合
第3条1項修正例:「乙(社会保険労務士)の担当は、対象会社の労務コンプライアンス状況の調査及び報告書の作成に限るものとし、契約書等のリーガルドキュメントの作成及び法的意見の表明は含まない。」 解説: M&Aの労務デューデリジェンスでは社労士と弁護士の役割が重なりやすいため、成果物の性質(事実調査報告か法的意見か)で明確に切り分ける。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、弁護士、税理士、社会保険労務士、行政書士、司法書士等の異なる資格を有する複数の事務所が、同一の依頼者から生じる一つの案件について、それぞれの専門分野を分担しながら共同で受任する場合に用いる。単に事務所間で顧客を紹介し合うだけで共同して事務を遂行しない場合や、一方の事務所が名目上関与するにとどまり実質的な業務を行わない場合には、後述する名義貸しの問題を招くため本書式による共同受任という構成を用いるべきではない。
根拠法令 弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁止しており、他資格者が実質的に法律事務を行うことは同条に抵触するおそれがある。また、同法第27条は弁護士が非弁護士との提携により自己の名義を利用させることを禁止する。税理士法第37条の2は、税理士がその名義を他人に使用させて税理士業務を行わせてはならない旨(名義貸しの禁止)を定めており、同法第52条は税理士でない者が税理士業務を行うことを禁止している。共同受任の実態が「資格を持つ事務所の名義を借りて無資格の事務所が実質的に業務を行う」ものにならないよう、各事務所が自己の資格の範囲内でのみ事務を行う体制を担保することが本書式の中心的な目的である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、対外的な書面や請求書を幹事事務所の名義のみで発行し、実際に業務を行った事務所が誰かが外部から分からなくなる失敗がある。第4条2項のように実際に事務を遂行した事務所の名義で成果物を作成することを明記する。第二に、報酬配分の基準が曖昧なまま案件を進め、案件終了後に配分割合を巡って共同受任事務所間で紛争になる失敗がある。第6条2項のように担当業務量に応じた配分表をあらかじめ作成する。第三に、共同受任事務所の一方が既に相手方当事者と利害関係を有していたことが後になって判明し、利益相反として辞任を余儀なくされる失敗がある。第7条のように受任前の相互確認を明記する。これらは一般的な留意点であり、業際の判断や名義貸しへの該当性は資格ごとの懲戒基準に照らして専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 各事務所の担当分掌を自己の資格の範囲内で明確に区分したか
- [ ] 名義貸し(弁護士法第27条・第72条、税理士法第37条の2等)に該当しない実施体制になっているか
- [ ] 対外的な成果物の名義を実際に業務を遂行した事務所とする運用を定めたか
- [ ] 幹事事務所が他事務所の専門判断を代わりに回答しない旨を明記したか
- [ ] 依頼者への担当分掌・報酬体系の説明方法を定めたか
- [ ] 報酬配分の基準(業務量・責任の程度)を別紙等で明確化したか
- [ ] 受任前の利益相反確認の手続を定めたか
- [ ] 各事務所の責任が自己の担当分掌に限定される旨を明記したか
- [ ] 秘密保持義務の範囲(丙及び相手方の情報)を定めたか
- [ ] 合意の終了事由及び終了時の丙への通知方法を定めたか