司法書士が不動産登記や商業登記の申請代理を受任する契約書。司法書士法の業務範囲と簡裁代理の認定要件を踏まえ、本人確認と報酬を明示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
司法書士業務委任契約書
第1部: 書式本文
【司法書士事務所名又は司法書士法人名】(以下「甲」という。)と【依頼者氏名又は商号】(以下「乙」という。)とは、乙が甲に対し登記手続その他の事務を委任することに関し、次のとおり業務委任契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、司法書士法(以下「法」という。)に基づき司法書士である甲が乙から【不動産登記・商業登記】の申請手続その他の事務(以下「本件業務」という。)を受任し、乙がその対価を支払うことに関する基本的な権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(委任事務の範囲) 1. 甲が乙から受任する本件業務は、法第3条第1項に定める業務のうち次の各号に掲げるものとする。 (1) 登記又は供託に関する手続についての代理(法第3条第1項第1号) (2) 法務局に提出する書類の作成(同項第2号) (3) 前2号の手続に関する登記原因証明情報の作成及び関係者への説明 2. 本件業務には、簡易裁判所における訴訟手続についての代理その他法第3条第2項に定める簡裁訴訟代理等関係業務を含まない。ただし、甲が同項に定める法務大臣の認定を受けた司法書士(以下「認定司法書士」という。)であり、かつ、訴訟の目的の価額が140万円を超えない場合において乙が別途これを委託し甲が承諾したときは、この限りでない。
第3条(本人確認) 1. 甲は、本件業務の受任にあたり、乙及び登記関係者について、運転免許証その他の公的書類により本人確認を行う。 2. 乙が登記識別情報を提供できない場合、甲は不動産登記法第23条第4項に基づき本人確認情報を作成することができる。この場合、乙は甲が求める追加の資料提供及び面談に協力する。 3. 甲は、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく特定事業者として、取引時確認に必要な事項の確認を行う。
第4条(登記識別情報等の取扱い) 甲は、本件業務の遂行の過程で乙から取得し又は登記が完了した際に発行される登記識別情報その他の重要な情報を、善良な管理者の注意をもって管理し、乙に対し交付方法及び保管上の留意事項を説明する。
第5条(報酬及び実費) 1. 乙は甲に対し、本件業務の対価として報酬金【〇〇】円(消費税別)を支払う。 2. 登録免許税、印紙代その他官公署に納付すべき費用は乙の負担とし、甲は事前にその見込額を乙に提示する。
第6条(乙の協力義務) 乙は、本件業務の遂行に必要な権利証、印鑑証明書その他の書類を、甲が指定する期限までに提供する。乙が提供した書類の内容に不正確な点があったことにより登記申請が却下又は取り下げとなった場合、甲はこれによって乙に生じた損害について責任を負わない。
第7条(善管注意義務) 甲は、善良な管理者の注意をもって本件業務を遂行し、登記申請前に申請内容を乙に確認する。
第8条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方の財産上又は身分上の情報を、法令に基づく場合を除き、相手方の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第9条(解除) 1. 乙は、登記申請が完了するまでの間、いつでも本契約を解除することができる。この場合、乙は既履行部分に相当する報酬及び実費を甲に支払う。 2. 甲又は乙は、相手方に本契約の重大な違反があり、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず是正されない場合、本契約を解除することができる。
第10条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第11条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 事務所又は法人名:【 】 登録番号:【 】 印
(乙) 氏名又は商号:【 】 住所:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 司法書士・司法書士法人向け書き換え
A-1. 不動産登記(相続登記)を専門とする場合
第6条追加例:「相続関係を証する戸籍謄本等の収集について、乙が甲に取得を委託する場合は、当該収集業務を本件業務に含め、別途実費及び報酬を定める。」 解説: 相続登記では戸籍収集の負担が大きく相続人が多数に及ぶこともあるため、収集代行を独立の業務として明示し、対応工数に見合う報酬を確保する。
A-2. 商業登記(役員変更等)を専門とする場合
第2条1項追加号:「(4) 定期的な役員変更登記の要否についての確認及び乙への通知」 解説: 商業登記は変更が生じるたびに申請が必要となるため、変更の見落としを防ぐ確認・通知業務を明示し、継続的な信頼関係の基礎とする。
B. 依頼者向け書き換え
B-1. 相続人が多数に及ぶ相続登記の依頼者
第6条修正例:「乙は、他の相続人との間で遺産分割協議が未了である場合、その旨を甲に速やかに通知するものとし、甲は協議未了の状態のまま登記申請を行わない。」 解説: 相続人間の合意形成状況を司法書士が把握できないまま申請すると後日紛争化するおそれがあるため、通知義務を明記し申請前の確認を徹底する。
B-2. 頻繁に役員変更が生じる法人
第5条1項修正例:「報酬金は、1回の役員変更登記あたり金【〇〇】円とし、同一時期に複数の変更事項をまとめて申請する場合は2件目以降を2割減額する。」 解説: 役員変更が頻発する法人では、都度の個別見積りではなく単価制とし、複数事項の一括申請にインセンティブを設けることで手続の集約を促す。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、司法書士又は司法書士法人が不動産登記又は商業登記の申請代理及びこれに付随する書類作成を受任する場合に用いる。簡易裁判所における訴訟代理等(簡裁訴訟代理等関係業務)を依頼する場合は、甲が認定司法書士であり、かつ訴訟の目的の価額が140万円以下であることが法律上の要件となるため、これに該当しない場合には本書式のみで対応することはできない。
根拠法令 司法書士の業務範囲は法第3条第1項各号に定められており、登記又は供託に関する手続の代理(第1号)及び法務局に提出する書類の作成(第2号)が中心となる。簡裁訴訟代理等関係業務は同条第2項に基づき法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)のみが行うことができ、対象となる訴訟の目的の価額は140万円以下に限られる。本人確認情報の作成については不動産登記法第23条第4項に定めがあり、登記識別情報を提供できない場合の代替手段として位置づけられる。また、司法書士は犯罪による収益の移転防止に関する法律上の特定事業者として取引時確認義務を負う。
実務でよくある失敗と対策 第一に、認定を受けていない司法書士が訴訟に関する相談・代理まで対応してしまい、法第3条第2項の資格要件を欠く業務を行ってしまう失敗がある。第2条2項のように認定の有無及び価額要件を契約上明記して抑止する。第二に、本人確認が不十分なまま登記申請を行い、後日なりすまし等が判明して登記が無効とされるリスクを招く失敗がある。第3条のように本人確認の方法を具体的に規定する。第三に、登録免許税の見積りが不正確で、依頼者との間で費用を巡る紛争になる失敗がある。第5条2項のように事前提示を明記する。これらは一般的な留意点であり、登記の種類や個別の権利関係に応じた対応は司法書士に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 委任事務の対象(不動産登記・商業登記等)を具体的に特定したか
- [ ] 簡裁訴訟代理等関係業務を含む場合、甲が認定司法書士であり価額要件を満たすか確認したか
- [ ] 本人確認の方法及び登記識別情報を提供できない場合の対応(本人確認情報の作成)を定めたか
- [ ] 犯罪収益移転防止法上の取引時確認事項を反映したか
- [ ] 登記識別情報等の重要書類の交付方法・保管上の留意事項を説明する旨を定めたか
- [ ] 報酬金と登録免許税等の実費を区分し、事前に見込額を提示する旨を定めたか
- [ ] 乙の協力義務(必要書類の提出期限)と資料不備時の免責を規定したか
- [ ] 相続関係など権利関係が未確定の場合の申請保留ルールを検討したか
- [ ] 秘密保持義務及び解除時の精算方法を定めたか
- [ ] 反社会的勢力排除条項を設けたか