賃貸物件の明渡し後に敷金が返還されない場合に、民法第622条の2に基づき未返還額と通常損耗の負担区分を示して返還を求める書面です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
敷金返還請求書
第1部: 書式本文
敷金返還請求書
【賃貸人住所】 【賃貸人氏名・名称】 御中
【作成日:西暦年月日】
【賃借人住所】 【賃借人氏名・名称】 印
件名: 敷金返還請求について
賃借人は、賃貸人に対し、下記のとおり敷金の返還を請求する。
- 賃借人と賃貸人は、【物件所在地・部屋番号】(以下「本物件」という。)について、【契約締結日】付賃貸借契約(以下「本契約」という。)を締結した。
- 本契約は【契約終了日】をもって終了し、賃借人は【明渡日】に本物件の明渡しを完了した。
- 賃借人は、本契約締結時に敷金として金【敷金預託額】円を賃貸人に預託した。
- 賃貸人は【控除通知日】付書面により、原状回復費用等として金【控除希望額】円を敷金から差し引く旨を賃借人に通知した。
- 賃借人は、上記控除項目のうち、下記の費目については通常の使用及び収益によって生じた損耗(通常損耗)又は経年変化に該当し、民法第621条ただし書きにより賃借人が原状回復義務を負わないものと考える。
- 【控除項目1、例: 畳の日焼け・クロスの経年変色】
- 【控除項目2、例: 設備の自然損耗】
- 民法第622条の2第1項第1号により、賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ、賃借物の返還を受けたときは、敷金の額から賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を控除した残額を返還しなければならない。
- 上記各号を踏まえ、賃借人は、敷金預託額【敷金預託額】円から適法な控除額【賃借人が認める控除額】円を差し引いた残額金【請求額】円の返還を求める。
- 賃貸人は、控除額の算定根拠(工事見積書、請求書、写真等)を明らかにした明細書を、本書面到達後【回答期限、例:14日】以内に賃借人へ交付されたい。
- 賃貸人は、上記期限までに、金【請求額】円を下記口座へ振り込む方法により支払われたい。
- 振込先: 【金融機関名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義】
- 上記期限までに支払又は合理的な回答がない場合、賃借人は、民法第415条に基づく遅延損害金(年【法定利率】パーセントの割合)の請求及び法的手続の検討を行う。
- 賃借人は、明渡し時の写真、原状回復立会確認書その他本請求の裏付け資料を保有しており、必要に応じて開示に応じる用意がある。
- 敷金以外に礼金、更新料等の名目で預託された金員がある場合、当該金員の性質及び返還の要否は本請求とは別途整理する。
- 賃貸人が本請求を無視し、又は不当に低額の回答を行った場合、賃借人は、簡易裁判所における少額訴訟その他の法的手続の利用を検討する。
- 本書面は、賃借人の有するその他の権利を放棄する趣旨のものではない。
以上
本書面への回答送付先 【送付先住所】 【担当者名】 【電話番号・メールアドレス】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 賃借人側
修正文例:
賃借人は、明渡し時に立会いを行った際、賃貸人担当者から【発言内容】との説明を受けており、通常損耗を超える損傷が存在しないことを現地写真により確認している。よって、控除項目【控除項目名】については、通常損耗に該当するため控除を認めない。
一言解説: 明渡し立会い時の写真・動画・立会確認書は、通常損耗か特別損耗かを争う際の中心的な証拠となるため、具体的な撮影日時・箇所を特定して引用する。賃借人が単独で保管している資料だけでは説得力に欠けることがあるため、可能であれば立会い時に賃貸人担当者の署名又は押印を得た確認書を残しておくと、後日の主張が格段に通りやすくなる。
B. 賃貸人側
修正文例:
賃貸人は、賃借人に対し、敷金から控除すべき費目及び金額を下記のとおり明細化して通知する。控除額は特別損耗に該当する部分に限定しており、通常損耗及び経年変化に相当する部分は賃貸人の負担としている。
一言解説: 賃貸人側から発する場合は、請求ではなく通知・明細開示の形式に修正し、控除根拠を先に示すことで紛争化を防ぐ効果がある。控除項目ごとに写真・見積書等の裏付けを添付し、通常損耗に該当する部分をあらかじめ除外して提示しておくと、賃借人からの異議申立てを未然に減らすことができる。
第3部: 敷金返還請求書に関する解説
使う場面・使わない場面
本書式は、賃貸借契約が終了し、物件の明渡しが完了しているにもかかわらず、賃貸人が敷金の全部又は一部を返還しない場合、あるいは控除項目に納得できない場合に使用する。逆に、明渡しが未了の段階や、原状回復工事の内容そのものについて協議の余地がある初期段階では、後述の異議申立てや協議申入れの書式を先行させるほうが適切であり、本書式をいきなり用いると交渉の余地を狭めることがある。また、賃貸人が既に敷金を全額返還しており、争点が原状回復費用の追加請求(敷金を超える請求)である場合は、返還請求ではなく異議・反論の書式に切り替えたほうが、事案の実態に即した書面となる。
根拠法令
敷金の定義及び返還時期については民法第622条の2が定めており、同条第1項は、賃貸借終了かつ目的物返還時に、賃貸人が敷金から未払債務を控除して残額を返還すべき義務を負うことを明記した改正民法の条文である。また、原状回復義務の範囲については民法第621条が、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化については賃借人が原状回復義務を負わない旨を定めている。支払遅延に関しては民法第415条の債務不履行に基づく損害賠償請求が関係する。
実務でよくある失敗と条項上の対策
第一に、敷金預託額や控除項目の特定を怠り、後日「いくら請求したか」が争いになるケースが多い。本書式第3項・第7項のように、預託額と請求額を数字で明示することで、この失敗を防ぐ。第二に、通常損耗と特別損耗の区別を曖昧にしたまま全額返還を求めると、賃貸人側の態度が硬化しやすい。第5項のように、控除に応じられない費目を個別に列挙し、理由を明示する構成がこれを避ける。第三に、回答期限や振込先を明示しないまま送付し、後の督促が困難になる例もあるため、第8項・第9項で具体的な期限と振込先を必ず記載する。第四に、明渡し後、時間が経過してから請求を行うと、原状回復工事が既に完了しており立会い時の状況が確認できず、証拠関係で不利になることがある。明渡し後は速やかに本書式を準備し送付することが望ましい。
なお、控除額の当否は個別の物件状況・使用状況によって結論が異なるため、個別事案は専門家に確認のうえ、送付前に金額と根拠資料を精査することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 賃貸借契約書の写しを確認し、契約当事者・物件所在地・敷金預託額を正確に転記したか
- [ ] 明渡日及び明渡し立会いの記録(写真・立会確認書)を保有しているか
- [ ] 賃貸人からの控除通知書・見積書・請求書の内容を精査したか
- [ ] 控除項目ごとに通常損耗か特別損耗かを区分し、争う項目を具体的に特定したか
- [ ] 請求額の計算根拠(預託額から認める控除額を差し引いた金額)を数字で示したか
- [ ] 回答期限・振込先口座を具体的に記載したか
- [ ] 送付方法(内容証明郵便・配達証明の要否)を検討したか
- [ ] 遅延損害金の利率(法定利率)を最新の水準で確認したか
- [ ] 送付前に原状回復ガイドライン等の公的資料と照合したか
- [ ] 送付前に弁護士等の専門家へ相談し、内容の最終確認を行ったか