会社法第238条の募集事項を定める要項の様式です。付与数、行使価額、行使期間、行使条件、割当日の記載要領を整理します。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
新株予約権募集要項
第1部: 書式本文
本募集要項は、会社法238条1項に基づき、新株予約権(以下「本新株予約権」という)の募集事項を定めるものである。
第1項(新株予約権の名称) 本新株予約権を「【第○回】新株予約権」と称する。
第2項(募集新株予約権の数) 本新株予約権の数は、【○○】個とする(本新株予約権1個当たりの目的となる株式の数は【○○】株とする)。
第3項(新株予約権の目的である株式の種類及び数) 本新株予約権の目的である株式の種類は当会社【普通株式】とし、本新株予約権1個の行使により発行又は移転する株式数は【○○】株とする(会社法236条1項1号)。
第4項(払込金額) 1. 本新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しない。 (又は) 1. 本新株予約権1個当たりの払込金額は金【○○】円とし、当会社が依頼した第三者算定機関【○○】による公正価値評価に基づき算定した。
第5項(行使に際して出資される財産の価額(行使価額)) 本新株予約権の行使に際して出資される財産の価額は、本新株予約権1個当たり金【○○】円とする(会社法236条1項2号)。
第6項(行使期間) 本新株予約権の行使期間は、【○年○月○日】から【○年○月○日】までとする(会社法236条1項4号)。
第7項(行使条件) 1. 新株予約権者は、当会社の取締役、監査役又は従業員としての地位を、権利行使時においても保有していることを要する。ただし、当会社取締役会が正当な理由があると認めた場合はこの限りでない。 2. 新株予約権者は、割り当てられた本新株予約権につき、【権利確定条件(勤務期間、業績条件等)】を満たした場合に限り、行使することができる。 3. その他の行使条件は、当会社と新株予約権者との間で締結する新株予約権割当契約に定めるところによる。
第8項(割当日) 本新株予約権の割当日は【○年○月○日】とする(会社法236条1項)。
第9項(申込み及び割当ての方法) 1. 本新株予約権の割当てを受けようとする者は、当会社が別途定める申込期日までに、申込みを行う所定の書面を当会社に提出する(会社法242条)。 2. 当会社は、申込者の中から本新株予約権を割り当てる者及びその数を決定し、割当日の前日までに申込者に通知する(会社法243条)。
第10項(募集事項の決定機関) 本募集事項は、【当会社が公開会社でない場合: 株主総会の特別決議(会社法238条2項、309条2項6号)/当会社が公開会社である場合であって取締役会に委任している場合: 取締役会決議(会社法240条1項、239条1項)】により決定した。
第11項(新株予約権証券の不発行) 当会社は、本新株予約権に係る新株予約権証券を発行しない(会社法249条)。
第12項(譲渡制限) 本新株予約権を譲渡するには、当会社取締役会の承認を要する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 発行会社の立場からの修正パターン
発行会社が役職員のリテンション(引き留め)を重視する制度設計を志向する場合、行使条件を厳格化する修正が有効である。
修正例(第7項への追加): 「新株予約権者が自己都合により当会社を退職した場合、当該新株予約権者に割り当てられた本新株予約権のうち権利未確定分は当然に消滅するものとし、当会社は無償でこれを取得することができる。」 一言解説: 早期退職者による権利行使を防ぎ、長期在籍のインセンティブとして機能させる狙いがある。ただし消滅・取得条項を設ける場合は、会社法236条1項7号の取得事由該当性を意識し、募集事項において取得条項を明記しておく必要がある。
修正例(第4項への追加): 「本新株予約権は、当会社の取締役会が別途定める新株予約権割当契約の締結を条件として割り当てるものとし、当該契約において譲渡制限、権利行使の手続及び税務上の取扱いについて定める。」 一言解説: 募集要項だけでは網羅しきれない個別条件を割当契約に委ねることで、募集要項自体をシンプルに保ちつつ、個別の権利者ごとの調整を可能にする。
B節: 引受人(付与対象者)の立場からの修正パターン
引受人が権利行使の実効性を確保したい場合、行使条件の明確化や権利喪失事由の限定を求める修正が考えられる。
修正例(第7項第1項への修正): 「新株予約権者が、定年退職、会社都合による退職、死亡、傷病による退職その他取締役会が正当と認める事由により当会社の役員又は従業員の地位を喪失した場合には、地位喪失後も本新株予約権を行使することができるものとする。」 一言解説: 自己都合以外の理由で退職した場合にまで一律に権利を失うことは引受人にとって酷であるため、正当な事由による退職の場合は権利行使を認める例外を明記し、不合理な失権リスクを回避する。
修正例(第5項への追加): 「行使価額は、当会社の株式価値の算定根拠となった直近の資金調達における1株当たり株価又は当会社取締役会が定める公正価値のうちいずれか低い額とする。」 一言解説: 行使価額の算定根拠を明確化することで、引受人が不当に高い行使価額を設定されるリスクを抑え、有利発行規制との関係でも算定根拠を後日説明できるようにする。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
解説: 使う場面と使ってはいけない場面
本書式は、株式会社が役員又は従業員へのインセンティブ付与(いわゆるストックオプション)や資金調達の手段として新株予約権を発行する際に、会社法238条1項各号に定める募集事項を書面化するために用いる。無償で役職員に付与する税制適格ストックオプションを想定する場合と、有償で発行し資金調達を兼ねる場合とでは、払込金額の定め方や決定機関の要否が異なるため、いずれの類型かを明確にした上で使用する必要がある。他方、新株予約権付社債を発行する場合や、株式無償割当てによる新株予約権の交付(会社法277条以下)を行う場合は、規律が異なるため本書式をそのまま用いることはできない。
解説: 根拠法令
新株予約権の募集事項は会社法238条1項に列挙されており、募集新株予約権の内容及び数、払込みを要しないこととする場合はその旨、金銭の払込みを要する場合は払込金額又はその算定方法、割当日、払込期日等を定める必要がある。募集事項の決定機関については、公開会社でない株式会社では株主総会の特別決議(会社法238条2項、309条2項6号)が原則であり、公開会社では取締役会決議で足りるのが原則である(会社法240条1項)が、取締役会設置会社以外の株式会社が募集事項の決定を取締役等に委任する場合は会社法239条の委任決議が必要となる。新株予約権の内容は会社法236条1項各号に列挙されており、目的たる株式の種類及び数、行使価額、行使期間、行使条件、取得条項の有無等を定める。新株予約権を役職員に特に有利な条件で発行する場合(有利発行)には、株主総会の特別決議による承認が必要となる場合があり(会社法238条3項)、払込金額が公正な価額に比して特に有利であるかどうかは、算定根拠資料の準備を含めて慎重に判断する必要がある。募集及び割当ての手続については会社法241条(申込み及び割当て)の規律にも留意する必要がある。これらの該当性判断は会社の機関設計や発行条件によって異なるため、個別の発行に当たっては専門家に確認することが望ましい。
解説: よくある失敗と条項上の対策
第一に、募集事項の決定機関を誤り、本来株主総会の特別決議が必要な非公開会社において取締役会決議のみで発行してしまい、後日発行の有効性が争われるケースがある。対策として、第10項のように当会社が公開会社か非公開会社かを明確にした上で、該当する決定機関及び決議要件を募集要項に明記する運用を徹底する。第二に、無償発行のストックオプションであるにもかかわらず、実質的に有利発行に該当する条件設計(行使価額が著しく低い等)を行い、有利発行規制(会社法238条3項)への対応(株主総会特別決議や理由の開示)を怠るケースがある。対策として、行使価額の算定根拠を明確にし、有利発行に該当する可能性がある場合は必要な決議手続を履践する。第三に、行使条件の記載が不十分で、退職時の取扱いや業績条件の判定方法が曖昧なまま発行し、後日権利者との間で行使可否をめぐる紛争が生じるケースがある。対策として、第7項のように在籍要件、権利確定条件、例外事由を具体的に記載し、必要に応じて個別の割当契約で補完する。
第4部: 使用前チェックリスト
- 新株予約権の目的である株式の種類及び数が明記されているか(会社法236条1項1号)
- 行使価額又はその算定方法が明記されているか(会社法236条1項2号)
- 行使期間が明確に定められているか(会社法236条1項4号)
- 行使条件(在籍要件、業績条件等)が具体的に記載され、例外事由も検討されているか
- 割当日及び払込期日が明記されているか
- 払込金額を無償とするか有償とするかが明確で、その根拠が説明できるか
- 募集事項の決定機関(株主総会か取締役会か)が当会社の機関設計に照らして正しいか
- 有利発行に該当する可能性がある場合、必要な決議及び開示手続を検討したか
- 譲渡制限の有無及び取締役会承認の要否が明記されているか
- 取得条項(退職時の消滅等)を設ける場合、会社法236条1項7号との整合性を確認したか
- 申込み及び割当ての手続(会社法241条)が募集要項又は関連書類に反映されているか
- 税制適格ストックオプションを企図する場合、租税特別措置法上の要件充足を別途確認したか