医療機関が患者の自己負担分を回収する際の書面。診療契約上の債務であることと民法第166条の消滅時効の進行に触れて支払を促します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
診療費未収金請求書
第1部: 書式本文
診療費未収金請求書
【送付日】年月日
【患者住所】 【患者氏名】 様(【患者との関係(本人・保護者等)】)
【医療機関住所】 【医療機関名称】 【担当部署・氏名】
第1条(診療契約の確認) 貴殿は、当院との間で【初診日】に診療契約を締結し、以後【診療期間】にわたり診察・検査・処置・投薬等の診療を受けられました。この診療契約は、患者の症状に応じて医師が適切な医療行為を行うことを内容とする準委任契約(民法第656条、第643条)としての性質を有し、貴殿は診療を受けたことにより診療報酬債務(自己負担分)を負担するものです。
第2条(未収金の内訳) 下記のとおり、自己負担分の診療費に未収金が生じています。 ・診療年月日 【 】 ・診療内容 【 】(初診料・再診料・検査料・投薬料・入院料等) ・保険適用後の自己負担額 金【 】円 ・既にお支払いただいた金額 金【 】円 ・未収金残額 金【 】円
第3条(高額療養費等の案内) 未収金の額が高額療養費制度の対象となる可能性がある場合、貴殿において限度額適用認定証の申請又は高額療養費の払戻し手続を行うことで負担が軽減される場合があります。手続についてご不明な点があれば、当院医事課までお問い合わせください。また、入院を伴う診療で経済的にお困りの事情がある場合は、社会福祉制度や院内の相談窓口をご案内できる場合がありますので、あわせてご相談ください。
第4条(請求額及び支払方法) 上記未収金残額【 】円について、本請求書到達後【 】日以内に、下記いずれかの方法でお支払いください。 (1) 当院窓口での現金・カードでのお支払 (2) 下記口座への振込 【振込先金融機関・口座情報】
第5条(分割払いの相談) 一括でのお支払が困難な事情がある場合は、【 年 月 日】までに当院医事課へご連絡いただければ、分割払いについてご相談に応じます。
第6条(消滅時効に関する留意) 本診療費債権は、民法第166条第1項に基づき、当院が権利を行使できることを知った時(通常は診療費が発生した時)から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間で時効消滅します。当院は時効完成前に本請求を行うものであり、時効の完成猶予・更新のための措置を講じる場合があることを申し添えます。
第7条(支払われない場合の対応) 上記期限までにお支払いいただけない場合、督促を重ねてもなお解消されないときは、やむを得ず法的手続(支払督促、少額訴訟、通常訴訟等)への移行を検討いたします。
第8条(問い合わせ先) 【担当者名(医事課等)・電話番号・受付時間】
以上
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A: 医療機関側として送付する場合
第2条の未収金内訳は、診療報酬明細(レセプト)や会計伝票と突合し、保険点数の計算誤りや自己負担割合(1割・2割・3割)の適用誤りがないかを確認したうえで記載する。患者に生活困窮等の事情がうかがえる場合は、第5条の分割払い相談の案内を強調し、社会福祉制度(無料低額診療事業等の院内制度がある場合はその案内)へのつなぎを検討する条項を追加することで、督促の実効性と患者への配慮を両立させる。
B: 患者側として金額を確認・異議申立てする場合
第2条の自己負担額の算定根拠(保険適用の有無、高額療養費の適用状況)に疑義がある場合は、診療報酬明細書の開示を求める条項を追加した回答書を作成する。「診療報酬明細書の写しの交付を求めます。開示を受けた上で、未収金額について改めて確認させていただきます」といった形で第4条の支払期限を一時留保する申入れを行う。分割払いを希望する場合は第5条を援用し、具体的な分割回数・月額を提案する回答書とする。また、高額療養費の払戻し手続が未了であるために一時的に負担額が大きくなっている場合は、限度額適用認定証の申請状況を説明し、認定証交付後の再計算を依頼する条項を追加することが考えられる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使わない場面
本書式は、健康保険が適用される診療において、患者の自己負担分(窓口負担分)が未払いとなっている場合に、医療機関が支払を促す場面で使用する。医療保険者に対する診療報酬(レセプト請求分)の未収金には別途の手続が必要であり、本書式はあくまで患者本人(又は保護者等の支払義務者)に対する請求に用いる。生活保護受給者など公費負担医療の対象者に対しては、自己負担が生じない、又は減免される場合があるため、送付前に公費負担の適用状況を確認する必要がある。自由診療(保険外診療)の未収金については診療契約の内容や合意された報酬額が異なるため、本書式の第2条・第3条を自由診療の実情に応じて修正した上で使用する必要がある。
根拠法令
診療契約は、判例・通説上、患者の症状に応じた医療行為を医師の裁量によって行うことを目的とする準委任契約(民法第656条が準用する第643条以下)としての性質を有すると解されており、手術等の一定の結果を目的とする場合には請負的性質を帯びるとの見解もある。診療報酬債権の消滅時効については、民法第166条第1項により、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年のいずれか早い方で完成する。旧法下では医師の診療報酬債権に短期消滅時効(旧民法第170条、3年)が適用されていたが、現行民法(2020年施行の改正民法)によりこの区分は廃止され、上記の一般原則が適用される点に留意が必要である。なお、施行日前に生じた診療報酬債権については経過措置により旧法の短期消滅時効が適用される場合があるため、診療日が施行日の前後いずれかを個別に確認する必要がある。
実務でよくある失敗と対策
第一に、旧法下の3年の短期消滅時効の感覚のまま督促を先延ばしにし、時効管理を誤る失敗がある。院内の会計システムで長期未収金が放置されるケースも多く、定期的な未収金一覧の棚卸しと時効起算日の一元管理が有効な対策となる。第6条で現行民法第166条の期間を明示し、診療日ごとに時効起算日を管理する体制を整えることが対策となる。第二に、保険点数や自己負担割合の計算誤りに気づかず請求額を確定してしまう失敗があり、第2条でレセプトとの突合を行った上で内訳を記載することが有効である。第三に、生活困窮等の事情を考慮せず一律の督促文言を送付し、かえって支払意欲を損なう失敗があり、第3条・第5条のように高額療養費制度の案内や分割相談の窓口を明記することで、回収実効性と患者対応の適切性を両立させる。個別の事案については弁護士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 未収金の対象が患者の自己負担分であり、保険者請求分と混同していないか
- [ ] 診療報酬明細書(レセプト)と未収金内訳が一致しているか
- [ ] 自己負担割合(1割・2割・3割)の適用に誤りがないか
- [ ] 公費負担医療・生活保護等の適用状況を確認したか
- [ ] 高額療養費制度の案内が必要な金額かを確認したか
- [ ] 消滅時効(民法第166条第1項)の起算日と期間を確認したか
- [ ] 分割払いの相談窓口を明記したか
- [ ] 患者本人以外(未成年者の保護者等)への送付先が適切か確認したか
- [ ] 個人情報である診療内容の記載を必要最小限にとどめたか
- [ ] 支払期限・振込先情報に誤りがないか