量産前の試作品やモックアップの製作を委託する契約書。民法第632条の請負と下請法の製造委託規制を前提に、試作費・改良回数・図面の帰属を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
試作品製作委託契約書
第1部: 書式本文
試作品製作委託契約書
【甲】(以下「甲」という。委託者)と【乙】(以下「乙」という。受託者)は、甲が乙に対し試作品の製作を委託することに関し、次のとおり契約を締結する。
第1条(目的) 甲は、別紙「仕様書」に定める仕様に基づき、量産化検討のための試作品(以下「本試作品」という。)の製作を乙に委託し、乙はこれを受託する。本契約は請負契約としての性質を有し、乙は本試作品を完成させ甲に引き渡す義務を負う。
第2条(仕様及び図面の交付) 甲は、本試作品の製作に必要な仕様書及び図面(以下「支給図面等」という。)を乙に交付する。乙は、支給図面等の内容について疑義がある場合、速やかに甲に確認しなければならない。乙が支給図面等に基づき独自にノウハウを用いて設計を補完した部分(以下「乙補完設計」という。)がある場合、その範囲を別紙に明記する。
第3条(試作費用) 甲は、乙に対し、本試作品の製作対価として金【金額】円(消費税別)を支払う。支払時期は、本試作品の検収完了後【30】日以内とする。仕様変更等により追加費用が生じる見込みがある場合、乙は事前に甲に見積りを提示し、甲の承諾を得るものとする。
第4条(納期及び納品) 乙は、本試作品を【納期】までに甲の指定する場所に納品する。乙は、納期に遅延するおそれが生じたときは、直ちに甲にその理由及び見込み納期を通知しなければならない。
第5条(検収) 甲は、本試作品の納品を受けた日から【10】営業日以内に、仕様書との適合性を検査(以下「検収」という。)し、合格又は不合格を乙に通知する。当該期間内に甲から通知がないときは、検収に合格したものとみなす。
第6条(改良・修正の回数及び追加費用) 検収の結果、本試作品が仕様書に適合しないと認められた場合、乙は自己の費用負担で修正のうえ再度納品する。ただし、無償での修正対応は【2】回までとし、これを超える修正又は甲の指示変更による修正については、乙は追加費用を甲に請求することができる。甲の指示内容の変更に起因する修正は回数に算入しない。
第7条(図面等の帰属) 支給図面等の知的財産権は甲に帰属する。乙補完設計に係る知的財産権の帰属は、別紙に定めるところによる。別紙に定めがない場合、乙補完設計に係る知的財産権は乙に帰属し、甲は本試作品の評価及び量産検討の目的に限り無償でこれを使用できるものとする。
第8条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の遂行に関連して知り得た相手方の技術上又は営業上の秘密情報を、本契約の目的以外に使用せず、第三者に開示又は漏洩してはならない。乙は特に、支給図面等及び本試作品の存在自体を、甲の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。本条の義務は契約終了後【5】年間存続する。
第9条(量産化に至った場合の優先交渉) 本試作品の評価結果に基づき甲が量産化を決定した場合、甲は乙に対し量産委託先選定にあたり見積り提出の機会を与えるものとする。ただし、本条は乙が量産委託先として選定されることを保証するものではない。
第10条(試作品の所有権及び返還) 本試作品の所有権は、検収合格をもって乙から甲へ移転する。甲が乙に貸与した金型、治具その他の支給材(以下「支給材」という。)の所有権は甲に留保され、乙は本契約終了後、甲の指示に従い支給材を甲に返還する。
第11条(製造委託に伴う下請法上の義務) 甲が資本金の額その他の点で下請代金支払遅延等防止法上の親事業者に該当する場合、甲は同法第3条に基づき、給付内容、下請代金の額、支払期日その他法定事項を記載した書面を乙に交付する。甲は、乙の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、受領を拒み、下請代金を減額し、又は本試作品を返品してはならない。
第12条(危険負担) 本試作品が検収合格前に甲乙いずれの責めにも帰さない事由(天災等)により滅失又は毀損した場合、乙は遅滞なく甲に報告し、甲乙協議のうえ再製作の要否及び費用負担を定める。
第13条(契約不適合責任) 検収合格後に本試作品に契約内容との不適合が発見された場合、甲は乙に対し、当該不適合を知った時から【1】年以内に限り、修補、代替物の引渡し又は損害賠償を請求することができる。
第14条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後もこれが是正されない場合、本契約を解除することができる。
第15条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】 甲:【住所・商号・代表者名】(印) 乙:【住所・商号・代表者名】(印)
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 委託者(発注側)向け
A-1. 仕様変更時の費用負担ルールの明確化 修正後: 「第6条にかかわらず、甲の指示による仕様変更に起因する修正であっても、当該変更が支給図面等の軽微な誤記訂正にとどまる場合は無償修正の回数に算入するものとし、乙はこれを理由に追加費用を請求できない。」 一言解説: 発注側から見ると、乙が軽微な指摘対応まで有償修正として扱い費用が積み上がることを懸念しやすいため、軽微な訂正と実質的な仕様変更を区別する基準を設けておくことが有効である。
A-2. 秘密保持の実効性を高める競業避止条項の追加 追加条文例: 「乙は、本契約の目的物と類似する試作品又は製品の製作を、甲の書面による承諾なく、本契約締結時に甲と競合関係にあることが明らかな第三者から受託してはならない。本条の義務は本契約終了後【1】年間存続する。」 一言解説: 試作段階で開示した新製品構想が競合他社に流用されるリスクを避けるため、単なる秘密保持にとどまらず一定期間・一定範囲の競業避止義務を課す形で発注側の技術情報を保護する。
B. 受託者(試作メーカー)向け
B-1. 無償修正回数の上限と有償化の明確化 修正後: 「第6条の無償修正の回数は、本試作品全体を通じて累計【2】回を上限とし、個別の不具合ごとにカウントするものではない。上限到達後の修正は、甲の指示によるものか否かを問わず、乙は有償にて対応する。」 一言解説: 受託側にとって「不具合ごとに2回まで無償」という解釈が可能な曖昧な条文は際限のない無償対応を強いられるリスクがあるため、試作品全体としての累計上限であることを明記し、際限のない修正要求を防ぐ。
B-2. 乙補完設計の知的財産権を乙に留保する条項の強化 追加条文例: 「乙補完設計に係るノウハウ及び知的財産権は乙に帰属することを甲は確認し、甲が本試作品の評価結果を用いて自ら又は第三者に製造委託して量産する場合、乙補完設計を利用するときは甲乙間で別途実施許諾契約を締結し、乙に相当の対価を支払うものとする。」 一言解説: 試作段階で受託者が独自のノウハウを投入して設計を補完することは多く、その部分まで無償で量産に流用されると受託者の技術的貢献が正当に評価されないため、量産移行時の別途実施許諾及び対価支払を明記して保護する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本契約は、量産開始前の段階で試作品やモックアップの製作を外部の製作会社・試作専門メーカーに委託する場面で用いる。単純な仕様確認程度の軽微な作業依頼や、既に量産体制が確立している製品の通常量産委託には、本書式ではなく別途の製造委託契約・売買基本契約を用いるべきである。試作の性質上、仕様が製作途中で変更されることが常態化しやすいため、量産品の製造委託契約をそのまま流用すると、修正対応や追加費用の規律が実態に合わなくなる点に注意を要する。
根拠法令 試作品の製作委託は、仕事の完成を目的とする点で民法第632条の請負契約に該当するのが通常である。請負人である乙は仕事完成義務を負い、注文者である甲が契約不適合を発見した場合の担保責任については民法第636条以下の契約不適合責任の規定が適用される。また、甲が資本金の額等の点で下請代金支払遅延等防止法(下請法)上の親事業者に該当し、乙が下請事業者に該当する場合、試作品の製作委託は同法第2条第1項の「製造委託」に該当し得るため、同法第3条の書面交付義務、第5条の書類作成・保存義務、第4条の受領拒否・下請代金の減額・返品・買いたたき等の禁止行為に関する規律が適用される。試作という性質上、量産品に比べて仕様変更や修正が頻発しやすいため、これを口実にした不当な代金減額や追加作業の無償強要は下請法第4条第1項第3号(買いたたきの禁止)に抵触するおそれがある点に留意する必要がある。
実務でよくある失敗と対策 第一に、無償修正の回数や範囲を定めずに契約し、発注側が際限なく修正を要求して受託側の採算が悪化するケースが多い。無償修正の回数上限及び甲の指示変更による修正の取扱いを明確に区分することが有効である。第二に、乙が試作段階で独自に補完した設計やノウハウの帰属について取り決めがなく、量産移行時にその設計・ノウハウが無償で流用され紛争化する例がある。乙補完設計の範囲を明記し、量産移行時の実施許諾・対価支払のルールをあらかじめ定めておくべきである。第三に、試作段階での仕様変更を理由に代金を後付けで減額したり、検収を不当に長期間留保したりする例が見られ、これは下請法上の買いたたきや受領拒否に該当するおそれがある。検収期間を具体的日数で明記し、みなし合格規定を設けることで長期の検収留保を防止できる。
個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 試作品の仕様書・図面を別紙として具体的に添付したか
- [ ] 試作費用及び追加費用の見積り・承諾手続を明記したか
- [ ] 納期及び納期遅延時の通知義務を定めたか
- [ ] 検収期間及びみなし合格規定を明記したか
- [ ] 無償修正の回数上限とその算定方法(累計か個別不具合ごとか)を明確にしたか
- [ ] 支給図面等及び乙補完設計それぞれの知的財産権の帰属を定めたか
- [ ] 量産移行時のノウハウ利用に関する実施許諾・対価支払ルールを設けたか
- [ ] 甲が下請法上の親事業者に該当するか資本金区分を確認したか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲及び存続期間を明記したか
- [ ] 支給材(金型・治具等)の所有権及び返還手続を定めたか