工事や点検のため他人の敷地・建物へ立ち入る際に所有者の承諾を得る書式。民法第209条の隣地使用権を踏まえ、立入日時と範囲、原状回復および損害負担を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
施設への立入りに関する承諾書
第1部: 書式本文
【所有者・管理者名】(以下「甲」という)は、【立入りを行う事業者名】(以下「乙」という)に対し、次のとおり施設への立入りを承諾する。
第1条(目的) 本書は、乙が甲の所有又は管理する施設(以下「対象施設」という)に立ち入り、工事、点検その他の作業(以下「本作業」という)を行うことについて、甲が承諾する条件を定めることを目的とする。
第2条(対象施設) 対象施設は【所在地・施設名】とする。
第3条(立入りの目的及び作業内容) 乙が行う本作業の内容は【作業内容(工事・点検・調査等)】とする。
第4条(立入日時) 立入りの日時は【立入予定日時】とする。日時を変更する場合、乙は事前に甲の承諾を得る。
第5条(立入範囲) 乙が立ち入ることができる範囲は【立入範囲】とし、これを超える範囲への立入りは行わない。
第6条(立入りに際しての遵守事項) 乙は、本作業にあたり、甲の指示する動線及び時間帯を遵守し、対象施設の利用者又は近隣住民の生活に支障を与えないよう配慮する。
第7条(原状回復) 乙は、本作業により対象施設に変更又は損傷を生じさせた場合、自己の費用で原状に回復する。
第8条(損害の負担) 本作業に起因して甲又は第三者に損害が生じた場合、乙は自己の責めに帰すべき事由による損害を賠償する。
第9条(保険への加入) 乙は、本作業の実施にあたり、第三者に対する損害賠償責任保険に加入するものとする。
第10条(立入りの中止・変更) 甲は、天候その他やむを得ない事情がある場合、立入りの中止又は延期を求めることができる。
第11条(承諾の有効期間) 本承諾の有効期間は【開始日】から【終了日】までとする。
第12条(作業員の身元確認) 乙は、本作業に従事する作業員の氏名を事前に甲へ通知し、甲の求めがあるときは身分証明書の提示に応じる。
第13条(騒音・振動等への配慮) 乙は、本作業に伴い騒音、振動、粉じん等が発生する場合、法令に定める基準を遵守し、対象施設の利用者及び近隣への影響を最小限にとどめる措置を講じる。
以上、上記の内容を確認し、承諾する。
【承諾日】 甲: 【氏名・名称】 印 乙: 【氏名・名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 工事・施工管理者の立場から
工事・施工管理者としては、複数日にわたる工事の場合、立入日時を一律に固定せず、作業工程表を添付する形式にすることが実務的である。
修正例:「立入りの日時は、別紙工程表に記載する各作業日とし、工程に変更が生じた場合、乙は前日までに甲に通知する。」
一言解説:工期が長期にわたる工事では、当初の承諾内容を工程変更のたびに取り直すのは煩雑であるため、通知による柔軟な運用を認めておくことが望ましい。
B. 設備保守担当の立場から
設備保守担当としては、定期点検のように反復して立ち入る場合、年間の点検スケジュールを一括して承諾を得る形式にすることが有効である。
修正例:「甲は、乙が別紙年間点検計画に記載する日程で対象施設に立ち入ることを、本承諾の有効期間中包括して承諾する。ただし、緊急点検の場合は事前に甲へ連絡するものとする。」
一言解説:毎回個別の承諾を取得する運用は現実的でない場合があるため、年間計画に基づく包括承諾と、計画外の緊急対応時の連絡ルールを分けて定めることが実務に適している。
C. 不動産オーナーの立場から
不動産オーナーとしては、賃貸物件の入居者のプライバシーに配慮し、入居者への事前告知を乙の義務として明記することが望ましい。
修正例:「乙は、対象施設内の賃貸区画への立入りを要する場合、甲を通じて当該区画の入居者に対し、立入り予定日時を事前に告知する。」
一言解説:所有者の承諾のみでは入居者との関係が整理されないため、入居者への告知義務を明確にしておくことがトラブル防止につながる。
不動産オーナーとしては、立入りにより生じ得る騒音・振動等の近隣影響について、乙に対しあらかじめ対応方針の提示を求めることも有効である。
修正例:「乙は、本作業に伴い著しい騒音又は振動が発生することが見込まれる場合、事前に近隣への周知文書を配布するものとし、その内容を甲に報告する。」
一言解説:所有者としては自らの物件の評判や入居者との信頼関係を維持する必要があるため、近隣対応についても乙の義務として具体化しておくことが望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、工事業者や設備保守業者が、他人の所有又は管理する敷地・建物に立ち入って作業を行う際に、所有者又は管理者の承諾を書面で得る場面で使用する。緊急を要する災害対応など、事前の承諾取得が現実的に不可能な場面には別途の対応が必要となる。
根拠法令としては、民法第209条が、境界又はその付近における工事のため必要な範囲内で隣地の使用を請求できる旨を定めており、令和3年民法改正によりこの隣地使用権の要件と手続が整理された。もっとも同条は一定の要件下での使用の請求権を定めるものであり、実際の立入りにあたっては本書式のように相手方の承諾を得て条件を明確化しておくことが望ましい。また、無承諾での立入りは住居侵入罪(刑法第130条)に問われる可能性があるほか、損害が生じた場合は民法第709条の不法行為責任が問題となり得る。
実務でよくある失敗として、第一に、立入範囲を口頭で確認したのみで書面に残さなかったため、作業員が承諾された範囲を超えて敷地内に立ち入り、所有者とのトラブルになるケースがある。立入範囲を図面等で具体的に特定することが対策となる。第二に、原状回復の負担者や損害賠償の範囲を明確にしないまま作業を開始し、作業により生じた損傷の補修費用を巡って争いになるケースがあり、原状回復義務と損害負担条項をあらかじめ明記する必要がある。第三に、賃貸物件において所有者の承諾のみを得て入居者への告知を怠り、入居者から抗議を受けるケースがあり、入居者への事前告知義務を条項化しておくことが望ましい。
第四に、立入りの作業員が誰であるかを甲が把握しないまま作業が行われ、施設内で盗難等のトラブルが発生した際に加害者の特定ができないケースがあり、作業員名簿の事前提出及び身分証明書の携行を義務付けることが対策となる。
隣地使用権の行使要件や損害賠償の範囲は個別の事案により判断が異なるため、実際の運用にあたっては弁護士等の専門家に個別に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象施設の所在地・範囲を具体的に特定したか
- [ ] 立入りの目的及び作業内容を明記したか
- [ ] 立入日時及び変更時の手続を定めたか
- [ ] 立入範囲を図面等で具体的に特定したか
- [ ] 原状回復義務を明記したか
- [ ] 損害賠償の負担ルールを明記したか
- [ ] 損害賠償責任保険への加入を確認したか
- [ ] 立入りの中止・延期に関する条件を定めたか
- [ ] 承諾の有効期間を明記したか
- [ ] 賃貸物件等における入居者への事前告知義務を検討したか
- [ ] 作業員の身元確認(氏名通知・身分証明書提示)を定めたか
- [ ] 騒音・振動等が生じる場合の近隣対応方針を定めたか