共同事業でブランドを共有する場面の合意書。商標法第35条が準用する特許法第73条を踏まえ、持分の処分制限と使用条件を取り決めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
商標の共同保有に関する合意書
第1部: 書式本文
商標の共同保有に関する合意書
【当事者A名】(以下「甲」という)と【当事者B名】(以下「乙」という)は、共同で出願・保有する商標権(以下「本商標権」という)に関し、次のとおり合意(以下「本合意」という)する。
第1条(本商標権の表示及び持分) 1. 本商標権の内容は次のとおりとする。 ・登録番号(又は出願番号):【第◯◯◯◯◯◯号】 ・商標(標章):【商標見本を末尾別紙に添付】 ・指定商品/指定役務及び区分:【区分・商品役務名】 2. 甲乙の持分割合は、甲【◯】%、乙【◯】%とする。持分割合は、共同開発に対する費用負担割合及び貢献度を基礎として定めたものであり、出願費用・維持費用の負担割合とも一致させる。
第2条(幹事会社) 1. 甲乙は、本商標権に関する特許庁との窓口業務、更新登録申請、年金(登録料)納付その他の管理事務を行う幹事会社として【甲/乙】を選任する。 2. 幹事会社は、出願・登録・更新に関する重要な手続を行う前に、他方当事者に事前に通知し、承認を得るものとする。 3. 幹事会社が管理事務を懈怠し本商標権の消滅等の不利益が生じた場合、幹事会社は他方当事者に対しその責任を負う。
第3条(単独実施の原則) 1. 甲及び乙は、商標法第35条が準用する特許法第73条第2項に基づき、本合意に別段の定めがある場合を除き、他方の同意を得ることなく、自己の事業において本商標を指定商品又は指定役務について単独で使用することができる。 2. ただし、甲及び乙は、相手方の事業と出所の混同を生じさせるおそれのある態様、又は本商標の信用を毀損する態様で使用してはならない。 3. 甲乙間で使用地域、使用商品・役務の範囲を分掌する場合は、別紙【使用範囲分掌表】に定めるところによる。
第4条(持分の処分制限) 1. 甲及び乙は、商標法第35条が準用する特許法第73条第1項に基づき、他方当事者の書面による事前同意を得なければ、自己の持分を第三者に譲渡し、又は質権その他の担保権を設定することができない。 2. 前項の同意を求められた当事者は、正当な理由なくこれを拒んではならないが、譲受人が競業関係にある事業者である場合その他本商標権の価値・信用を害するおそれがある場合は、同意を拒絶できる。
第5条(第三者への使用許諾) 1. 甲及び乙は、商標法第35条が準用する特許法第73条第3項に基づき、他方当事者の同意を得なければ、本商標権について専用使用権を設定し、又は通常使用権を許諾することができない。 2. 第三者への使用許諾を行う場合の対価配分は、甲乙の持分割合に応じて按分する。ただし、幹事会社が徴収窓口となる場合は、幹事会社は受領後【1か月】以内に相手方の取得分を精算する。
第6条(費用負担) 出願費用、登録料、更新登録費用、防護標章に関する費用及び侵害対応に要する費用は、甲乙の持分割合に応じて負担する。ただし、いずれか一方の単独の使用に起因して生じた費用(不正使用取消審判対応費用等)は、当該当事者が負担する。
第7条(侵害対応) 1. 第三者による本商標権の侵害を発見した場合、発見した当事者は速やかに他方に通知する。 2. 差止請求権の行使は各共有者が単独で行うことができるが、損害賠償請求は原則として甲乙共同して行うものとし、対応方針及び和解条件について事前協議する。
第8条(不使用取消審判等への対応協力) 甲及び乙は、本商標権について不使用取消審判(商標法第50条)その他の審判が請求された場合、相互に使用の事実を証する資料を提供し、答弁書の作成その他の防御に協力する。
第9条(存続期間及び脱退) 1. 本合意は、本商標権が存続する限り効力を有する。 2. いずれかの当事者が事業を廃止し、又は共同保有を継続する必要がなくなった場合、当事者は協議の上、持分の買取り、放棄又は権利全部の一方への集約等の方法により本合意関係を解消できる。
第10条(準拠法及び管轄) 本合意は日本法に準拠し、本合意に関する紛争は【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本合意締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
【西暦】年【月】月【日】日
甲:【住所】【会社名】【代表者名】 印 乙:【住所】【会社名】【代表者名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:共同事業当事者間
第3条第3項の使用範囲分掌表を厚く作成し、地域・商品カテゴリを詳細に区分した上で「相手方の分掌範囲では使用しない」旨の相互不可侵条項を追加する例が多い。一言解説:単独実施が原則自由である反面、無制限だと共同事業のブランド価値が希釈するため、契約で使用範囲を実質的に制限することが実務上多い。
B節:幹事会社向け
第2条に「幹事会社は年金納付を怠った場合、故意又は重過失がある場合に限り損害賠償責任を負う」旨の免責的な文言を加える例がある。一言解説:管理事務を一手に引き受ける幹事会社にとって、無限責任を負うと事務負担に見合わないため、責任の範囲を限定するのが一般的である。
C節:持分処分制限型
第4条に「持分の譲渡は、グループ内の完全子会社への譲渡を除き禁止する」といったグループ内例外を設ける例や、逆に「相手方に先買権(優先交渉権)を付与する」条項を追加する例がある。一言解説:特許法第73条第1項の準用により持分譲渡には原則として他の共有者の同意が必要だが、グループ再編等の実務上の柔軟性を確保するため例外を明文化しておくことが望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、複数の事業者が共同でブランドを開発・展開し、商標を共有名義で出願・保有する場面(共同開発、ジョイントベンチャー、業務提携等)で用いる。単独の当事者が商標権を保有し他方に使用のみを許諾する場合はライセンス契約の書式を用いるべきであり、共有関係が存在しない場面には本書式は適さない。
本書式の中心的な法的ポイントは、商標法第35条が準用する特許法第73条による共有商標権の規律である。第一に、特許法第73条第2項の準用により、各共有者は契約で別段の定めをしない限り、他の共有者の同意を得ずに指定商品又は指定役務について本商標を単独で使用(自己実施)することができる。これは商標権が財産権であると同時に、共有者間の合意により使用範囲を自由に調整できることを意味し、持分割合と使用の自由とは直接連動しない。持分割合はむしろ費用負担割合や、第三者への使用許諾料の分配割合を定める基準として機能する点に留意すべきである。第二に、特許法第73条第1項の準用により、持分の譲渡や質権設定には他の共有者の同意が必要であり、勝手に第三者へ持分を売却することはできない。第三に、同条第3項の準用により、専用使用権の設定や通常使用権の許諾にも他の共有者の同意が必要である。これらは共有者以外の第三者が関与することで商標の信用や共有関係のバランスが損なわれることを防ぐ趣旨である。
実務でよくある失敗として、第一に持分割合を定めただけで使用範囲の分掌を定めず、双方が同一市場で同一商標を使い続けた結果、需要者の混同や社内での顧客の奪い合いが生じるケースがある。第3条のように使用範囲分掌表を設けることが有効である。第二に、幹事会社を定めずに更新登録の期限管理が曖昧になり、双方とも管理を怠って商標権が消滅してしまうケースがある。第2条のように幹事会社を明確に指定し、責任範囲を定めるべきである。第三に、第三者からの侵害や不使用取消審判への対応方針を定めずに、いざという時に共有者間で足並みが揃わず防御が遅れるケースがある。第7条・第8条のような協力義務を明記することが望ましい。
持分割合の決め方や、使用範囲分掌の適法性の判断は事業構造により異なるため、個別事案は専門家に確認してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 共有に係る商標権(又は出願)の登録番号・指定商品役務・区分を確認したか
- [ ] 持分割合とその算定根拠(費用負担・貢献度等)を明確にしたか
- [ ] 幹事会社を選任し、管理事務の範囲と責任を定めたか
- [ ] 単独実施(自己使用)が原則自由であることを踏まえ、使用範囲の分掌が必要か検討したか
- [ ] 持分の譲渡・質権設定に他方の同意が必要である旨を明記したか
- [ ] 第三者への使用許諾に他方の同意が必要である旨を明記したか
- [ ] 第三者からの許諾料の配分方法を持分割合に基づき定めたか
- [ ] 費用負担(出願・登録・更新・侵害対応)の分担方法を定めたか
- [ ] 第三者による侵害発見時の通知・対応方針を定めたか
- [ ] 不使用取消審判への相互協力義務を定めたか
- [ ] 共有関係解消(持分買取り・放棄等)の方法を定めたか