事業譲渡やブランド売却に伴い商標権を移転する契約書。商標法第24条の2の移転規律を踏まえ、特許庁への移転登録申請手続を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
商標権譲渡契約書
第1部: 書式本文
商標権譲渡契約書
【譲渡人名】(以下「甲」という)と【譲受人名】(以下「乙」という)は、甲が保有する商標権の譲渡に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(譲渡対象商標権) 甲は乙に対し、次の商標権(以下「本商標権」という)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。 ・登録番号:【第◯◯◯◯◯◯号】 ・商標(標章):【商標見本を末尾別紙に添付】 ・指定商品/指定役務及び区分:【区分・商品役務名の全部】
第2条(譲渡の範囲) 1. 本商標権の譲渡は、指定商品又は指定役務の全部を対象とする全部譲渡とする。 2. 指定商品又は指定役務の一部のみを譲渡する場合であっても、商標法第24条の2第4項により、類似の関係にある指定商品又は指定役務を異なる商標権者に分属させることはできないため、甲乙は移転登録申請前に特許庁の審査基準に照らし分割の可否を確認するものとする。
第3条(譲渡対価) 1. 乙は甲に対し、本商標権の譲渡対価として金【◯◯◯◯】円(消費税別)を、【支払時期・方法】により支払う。 2. 対価の支払は、第5条に定める移転登録申請手続の前提条件とする。
第4条(表明保証) 甲は乙に対し、契約締結日現在において次の事項を表明し保証する。 ・本商標権が有効に存続し、第三者の専用使用権・通常使用権・質権の設定その他の負担がないこと(ただし別紙記載のものを除く) ・本商標権に関し、無効審判、不使用取消審判その他の審判・訴訟が係属していないこと ・本商標権の商標登録に商標法第4条第1項各号の不登録事由に該当する無効理由を甲が知らないこと
第5条(移転登録手続) 1. 甲及び乙は、本契約締結後速やかに、共同して特許庁長官に対し本商標権の移転登録申請を行う。 2. 商標権の移転は、特許庁における移転登録をもってその効力を生ずる(商標法第24条の2第1項の反対解釈及び商標登録簿への登録が権利移転の効力発生要件であることによる)。本契約の締結のみによっては本商標権は移転せず、乙は移転登録が完了するまで本商標権を第三者に対抗することができない。 3. 移転登録に要する登録免許税及び手続費用は、【甲乙折半/乙負担】とする。 4. 甲は、移転登録申請に必要な書類(譲渡証書、印鑑証明書等)を、乙の求めに応じ遅滞なく交付・押印しなければならない。
第6条(既存ライセンスの承継) 1. 本商標権に設定された専用使用権又は通常使用権が存する場合、乙は移転後、当該実施権者との関係を承継するものとし、甲は当該実施権の内容(相手方、範囲、対価等)を別紙に開示する。 2. 商標法上、専用使用権は移転登録により当然に新権利者に対抗力を維持し、通常使用権は当然対抗制度(第31条の2)により新権利者に対抗できる。乙は既存の実施許諾契約の内容を承継する前提で本契約を締結する。
第7条(混同防止・不登録事由への対応) 1. 甲は、本商標権の譲渡により、譲渡後の甲の事業に係る商品又は役務との間で出所の混同を生じさせる譲渡を行わないものとする。 2. 甲乙は、譲渡後の商標の使用により商標法第4条第1項第10号又は第15号等に該当する混同のおそれが生じないよう、必要に応じて事業の切分け方法を協議する。
第8条(競業避止) 甲は、本契約締結日から【◯】年間、本商標権に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品又は役務について、本商標と類似する標章を使用又は出願してはならない。
第9条(事業譲渡に伴う移転の特則) 本商標権の譲渡が事業譲渡契約に付随して行われる場合、甲乙は当該事業譲渡契約の効力発生日と本商標権の移転登録日にずれが生じ得ることを踏まえ、事業譲渡契約の効力発生日から移転登録完了日までの間の商標の使用について、甲が乙に対し無償の使用を許諾する旨を別途合意する。
第10条(解除) 甲又は乙が本契約に違反し、相当期間の催告後も是正しないときは、相手方は本契約を解除できる。ただし、既に移転登録が完了している場合の原状回復方法は甲乙協議の上定める。
第11条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
【西暦】年【月】月【日】日
甲:【住所】【会社名】【代表者名】 印 乙:【住所】【会社名】【代表者名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:譲渡人向け
第4条の表明保証範囲を「甲の知る限りにおいて」に限定し、第10条に「移転登録完了後は原則として契約を解除できない」旨を追加する例が多い。一言解説:移転登録後の巻き戻しは第三者の権利関係を複雑にするため、譲渡人は解除よりも損害賠償による解決を志向する条項設計が現実的である。
B節:譲受人向け
第5条第4項に「甲が書類交付を怠った場合、乙は甲の費用負担で単独申請できるよう委任状を事前取得する」旨を加え、第4条の表明保証違反時の補償上限を撤廃又は高額化する例がある。一言解説:移転登録が完了するまで乙は商標権者として第三者に対抗できないため(商標法第24条の2)、書類授受の遅延リスクを契約上でどれだけ潰せるかが実務上の要である。
C節:事業譲渡に伴う移転
第9条を拡充し、事業譲渡契約書における「知的財産の移転」条項と齟齬が生じないよう、両契約の効力発生要件・対価配分・表明保証の内容を突合する確認条項を追加する例がある。一言解説:事業譲渡契約とは別に商標権の移転登録申請という商標法固有の手続が必要であり、事業譲渡契約書に「商標権を譲渡する」と書くだけでは移転登録の効力は生じない点に注意を要する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、事業譲渡、ブランド売却、グループ内でのブランド保有主体の変更等、商標権そのものを第三者又は関連会社へ完全に移転する場面で用いる。ライセンス許諾のように使用権のみを与える場面には適さず、その場合は使用許諾契約を用いるべきである。また、出願中で未登録の商標(権利化前の地位)を移転する場合は、移転登録ではなく名義変更届の手続によるため本書式をそのまま流用すべきではない。
本書式の核心的な法的ポイントは、商標権の移転が特許庁における移転登録によって効力を生ずるという点である。商標法上、商標権の移転は登録が効力発生要件とされており、契約当事者間で譲渡契約を締結しただけでは商標権は移転しない。これは債権譲渡や動産譲渡が意思表示のみで効力を生じる原則とは異なる点であり、契約書に「本契約締結をもって商標権は乙に移転する」といった誤った文言を入れると実務上の混乱を招く。第5条第2項はこの点を明記している。
もう一つの重要な論点は、商標法第24条の2第4項が定める類似指定商品等の分属禁止である。指定商品又は指定役務が二以上ある場合にその一部のみを譲渡することは可能だが、類似の関係にある指定商品又は指定役務を異なる商標権者に分属させることはできない。これは同一又は類似の商標が異なる主体により使用されることによる需要者の混同を防止する趣旨であり、事業の一部門のみを切り出して商標権を譲渡する際に見落とされやすい。第2条第2項のとおり、分割譲渡を検討する場合は事前に特許庁の審査基準を確認する必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に移転登録手続を後回しにし、対価は支払ったが登録未了のまま長期間放置し、その間に譲渡人が第三者に二重譲渡してしまうリスクがある。第5条のように移転登録手続を契約上の主要義務として明記し、必要書類の交付期限を定めることが有効である。第二に、既存のライセンス契約の承継を定めずに譲渡し、譲受人が知らないうちに実施権者が存在していたというトラブルがある。第6条のような開示・承継条項を設けるべきである。第三に、表明保証の範囲が曖昧で、無効理由や不使用取消リスクの負担が譲渡後に争いになるケースがある。第4条のように具体的な表明保証事項を列挙することが望ましい。
移転登録の申請書類や登録免許税の算定は個別の指定商品数等により異なるため、個別事案は専門家に確認してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 譲渡対象の商標権の登録番号・指定商品役務・区分を登録原簿で確認したか
- [ ] 全部譲渡か一部譲渡かを明確にし、一部譲渡の場合は類似指定商品の分属禁止(商標法第24条の2第4項)に抵触しないか確認したか
- [ ] 譲渡対価の金額・支払時期・移転登録との連動関係を定めたか
- [ ] 表明保証の対象事項(負担の不存在、係属審判の有無、無効理由の不知等)を具体的に列挙したか
- [ ] 移転登録が効力発生要件である旨を条文上明記したか
- [ ] 移転登録申請に必要な書類(譲渡証書・印鑑証明書等)の授受方法と期限を定めたか
- [ ] 登録免許税・手続費用の負担者を定めたか
- [ ] 既存の専用使用権・通常使用権の有無を確認し、承継方法を定めたか
- [ ] 事業譲渡に付随する場合、事業譲渡契約との効力発生時期のずれへの対応を定めたか
- [ ] 混同防止のための競業避止条項の要否・期間を検討したか
- [ ] 解除時の原状回復(移転登録完了後の扱い)を検討したか