発明者への支払額と決定手続を具体化する基準書。特許法第35条第5項および経済産業省の指針に沿った協議・開示・意見聴取を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
職務発明の相当の利益に関する取扱基準
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本基準は、【会社名】(以下「会社」という。)の職務発明規程第7条に基づき、従業者等が行った職務発明について会社が付与する相当の利益の内容、算定方法、決定手続及び支払時期を定めることを目的とする。
第2条(適用範囲) 本基準は、会社が特許を受ける権利を取得したすべての職務発明を対象とする。実用新案登録を受ける権利及び意匠登録を受ける権利を目的とする考案等についても、本基準を準用する。
第3条(相当の利益の類型) 相当の利益は、次の各号のいずれか又はこれらの組み合わせにより構成する。 一 出願時一時金 発明の届出及び出願がされた時点で支払う一時金 二 登録時一時金 特許権の設定登録がされた時点で支払う一時金 三 実績補償金 当該発明の実施により会社が得た利益の実績に応じて支払う金銭 四 その他の経済上の利益 株式、ストックオプション、留学機会の付与等、金銭以外の経済上の利益
第4条(出願時一時金) 会社は、届け出られた発明について出願を行ったときは、発明者に対し、金【3】万円を出願時一時金として支払う。
第5条(登録時一時金) 会社は、特許権の設定登録がされたときは、発明者に対し、金【5】万円を登録時一時金として支払う。
第6条(実績補償金の算定基礎) 1 実績補償金は、当該発明の実施により会社が得た利益(自己実施による超過利益、ライセンス収入その他これらに準ずるものをいう。)を基礎として算定する。 2 前項の利益の算定に当たっては、発明の会社の利益への貢献度、他の代替技術の有無、発明者の寄与度その他の事情を考慮する。
第7条(実績補償金の算定方法) 実績補償金の額は、次の計算式により算定する。 実績補償金 = 対象期間における当該発明の実施に係る利益額 × 発明者貢献率(【 】%) × 発明者寄与率(【 】%)
第8条(支払時期) 1 出願時一時金は、出願手続完了後【1】か月以内に支払う。 2 登録時一時金は、設定登録後【1】か月以内に支払う。 3 実績補償金は、毎事業年度終了後【3】か月以内に、当該事業年度分を算定のうえ支払う。
第9条(基準の策定に関する協議) 1 会社は、本基準の策定又は改定に当たり、あらかじめ従業者等の代表者又はこれに準ずる者との間で協議を行う。 2 協議の日時、出席者、協議事項及び結論は、書面又は電磁的記録により記録し、【5】年間保存する。
第10条(基準の開示) 会社は、策定した本基準を、就業規則等の閲覧に準じた方法により、常時従業者等が閲覧できる状態に置く。
第11条(意見の聴取) 1 会社は、個別の発明について相当の利益の内容を決定するに当たり、当該発明をした従業者等に対し、算定根拠となる資料を示した上で意見を聴取する機会を設ける。 2 会社は、発明者から開示された意見の内容及びこれに対する会社の回答を書面に記録する。
第12条(不服申立て及び再協議) 1 発明者は、決定された相当の利益の内容について不服があるときは、通知を受けた日から【30】日以内に、書面により再協議を申し立てることができる。 2 会社は、前項の申立てを受けたときは、遅滞なく発明者と再協議を行う。
第13条(記録の保存) 会社は、算定根拠資料、協議記録、開示記録及び意見聴取記録を、当該発明に係る権利の消滅後【10】年間保存する。
第14条(基準の見直し) 会社は、事業環境の変化、経済産業省の指針の改定その他の事情を考慮し、本基準を定期的に見直す。
第15条(附則) 本基準は、【年月日】から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 人事・知財部門向け
人事・知財部門が算定実務を担う場合、恣意的な運用を避けるため算定式と承認フローを明確にしておく必要がある。第7条を以下のように書き換える例を示す。
書き換え例:「実績補償金の算定は知的財産部門が一次案を作成し、人事部門及び【担当役員】の承認を経て確定する。算定に用いた利益額、貢献率及び寄与率の根拠資料は、決定通知とあわせて発明者に開示する。」
一言解説: 算定プロセスに複数部門の承認を組み込み、根拠資料を発明者へ開示することで、意見聴取の実質化と説明責任の確保につながる。
B. 発明者への説明用
発明者向けに配布する版では、専門用語を平易にし、算定の仕組みを具体例で示すことが望ましい。第7条に加えて以下の説明条項を追加する例を示す。
追加例:「実績補償金の計算例:対象期間の利益額が1,000万円、発明者貢献率が10%、発明者寄与率が50%の場合、実績補償金は1,000万円×10%×50%=50万円となる。」
一言解説: 数値例を明示することで発明者の理解を助け、後日の「説明を受けていない」という主張を防止する効果が期待できる。
C. 実績補償型/一時金型
実績補償型と一時金型は資金繰りと事務負担のバランスで選択が分かれる。両者を選択できる設計にする書き換え例を示す。
書き換え例:「会社は、発明の実施状況及び算定の実務負担を考慮し、発明ごとに実績補償型又は一時金型のいずれかを選択できるものとする。一時金型を選択した場合、第4条及び第5条の一時金の合計額をもって当該発明に係る相当の利益の全部とし、以後の実績補償は行わない。」
一言解説: 一時金型は事務負担を軽減できる一方、発明が想定を超えて収益化した場合に不合理と評価されるリスクがあるため、一時金の水準設定には利益予測の合理的根拠を残しておく必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本基準を使う場面は、職務発明規程で相当の利益の付与を定めたものの、算定方法や手続の詳細を別途具体化する必要がある場合である。逆に、算定対象となる発明の実施実績が乏しく将来予測が困難な創業間もない企業では、確定額の一時金型を基本としつつ、将来の実施状況に応じて基準自体を見直す前提を明記する設計の方が実務的であり、精緻な実績算定式をそのまま導入すべきではない。
根拠法令は特許法第35条第4項から第7項である。第4項は相当の利益を受ける権利の発生を、第5項は契約・勤務規則等で相当の利益を定める場合に、その内容の決定手続(協議の状況、基準の開示の状況、意見聴取の状況等)を考慮して不合理と認められるものであってはならない旨を定める。第6項は、第5項により不合理と判断された場合に、相当の利益を受けるべき者が使用者等から受ける経済上の利益、発明に関連して使用者等が行う負担・貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない旨を定める。第7項は、経済産業大臣が発明を奨励するため産業構造審議会の意見を聴いて指針を定め、公表するものとする旨を定めており、実務上は経済産業省「発明を奨励するための相当の利益について定める場合の考慮すべき事項に関する指針」への準拠が事実上の実務標準となっている。
実務でよくある失敗の第一は、算定式のみを定め、協議・開示・意見聴取という手続的要素を軽視することである。第5項の不合理性判断は算定金額の多寡だけでなく手続の適正性を重視するため、第9条から第11条の手続条項を実質的に機能させる必要がある。
第二の失敗は、実績補償型を採用しながら実施状況の追跡体制を整備せず、支払いが恒常的に遅延・欠落するケースである。対策として第8条に支払時期を明記し、事業年度ごとの算定・支払サイクルを社内の会計・知財管理システムと連動させることが望ましい。
第三の失敗は、一時金型のみを採用し、想定を大きく超える収益が発明から生じた場合の見直し規定を置かないケースである。指針は算定基礎となる利益予測の根拠を重視するため、第14条のような定期見直し条項を設け、著しい乖離が生じた場合の再協議の余地を残すべきである。
個別事案は専門家に確認してください。特に、経済産業省指針は改定される可能性があり、また算定式の合理性は業種・発明の性質・企業規模によって個別に判断されるため、最新の指針及び裁判例を踏まえた検討が必要である。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 相当の利益の類型(一時金型・実績補償型・その他経済上の利益)が明確に定められているか
- [ ] 実績補償金の算定式及び算定基礎となる利益の定義が具体的に規定されているか
- [ ] 出願時・登録時・実施時それぞれの支払時期が明記されているか
- [ ] 基準の策定・改定に際して従業者等との協議を行う手続が定められているか
- [ ] 協議の記録(日時・出席者・結論)を保存する体制があるか
- [ ] 策定した基準を従業者等が常時閲覧できる方法で開示しているか
- [ ] 個別発明の相当の利益決定に際して発明者から意見を聴取する手続があるか
- [ ] 発明者への算定根拠資料の開示方法が定められているか
- [ ] 不服申立て・再協議の手続及び期限が明記されているか
- [ ] 経済産業省の指針の内容を踏まえた設計になっているか
- [ ] 算定根拠資料・協議記録・意見聴取記録の保存期間が定められているか
- [ ] 【】のプレースホルダがすべて自社の実情に置き換えられているか