専門知識を持つ人材や定年退職者を嘱託として期間を定めて雇用する場面の契約書。労働基準法第15条の労働条件明示と労働契約法第17条の中途解約制限に配慮。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
嘱託社員雇用契約書
第1部: 書式本文
【会社名: 株式会社〇〇】(以下「甲」という。)と【従業員氏名: 〇〇〇〇】(以下「乙」という。)は、乙を嘱託社員として雇用するにあたり、次のとおり有期労働契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(嘱託社員としての雇用) 甲は、乙を嘱託社員として雇用する。嘱託社員とは、専門的知識・経験を活かして特定の業務に従事する有期雇用の従業員をいい、甲の正社員とは異なる雇用区分とする。
第2条(契約期間) 1. 本契約の期間は、【西暦〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】から【西暦〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】までの【 】年間とする。 2. 前項の契約期間は、労働基準法第14条第1項第1号に定める高度の専門的知識、技術又は経験を有する者との契約であることに基づき、5年を上限として定めるものであり、乙は同号に定める要件(【資格・経験の内容】)を満たす。
第3条(更新の有無及び判断基準) 1. 本契約は、甲乙合意の上、更新することができる。 2. 更新の判断は、契約期間満了時の業務量、乙の勤務成績及び態度、心身の状況を考慮して行う。 3. 本契約の更新は、通算契約期間【 】年又は更新回数【 】回を上限とする。
第4条(業務内容) 乙の業務内容は、【専門的業務の内容】とし、甲は業務遂行について乙の専門性を尊重し、原則として広範な裁量を認める。
第5条(勤務日及び勤務時間) 乙の勤務日は【週〇日】、勤務時間は【〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで】とする。
第6条(報酬) 1. 乙の報酬は、月額【〇〇〇〇円】とする。 2. 報酬の見直しは、契約更新時に業務内容及び成果を勘案して行う。
第7条(契約期間途中の解約) 1. 甲又は乙は、労働契約法第17条第1項に定める「やむを得ない事由」がある場合に限り、契約期間の途中で本契約を解約することができる。 2. 前項の解約をしようとする場合、少なくとも【30】日前に相手方に通知するものとする。ただし、緊急やむを得ない場合はこの限りでない。
第8条(秘密保持及び競業避止) 乙は、本契約期間中及び契約終了後【 】年間、業務上知り得た甲の営業秘密を第三者に漏洩し、又は自己のために利用してはならない。
第9条(社会保険等の適用) 乙について、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の適用要件を満たす場合は、法令に従い加入手続を行う。
第10条(無期転換申込権に関する説明) 甲は、乙の本契約に基づく通算契約期間が5年を超えた場合、乙が労働契約法第18条に基づき期間の定めのない労働契約への転換を申し込むことができる旨を、契約締結時及び更新時に書面で説明する。
第11条(服務規律及び就業規則の準用) 本契約に定めのない事項については、甲の就業規則(嘱託社員に適用される規程がある場合はそれを優先する)の定めによる。
第12条(契約の解除事由) 乙に次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、甲は本契約を解除することができる。 (1) 重大な非違行為があったとき (2) 心身の故障により業務の遂行に堪えないとき (3) その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【西暦〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
甲: 【住所・会社名・代表者名】 印 乙: 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 会社側
A-1 第3条の修正例 「本契約の更新は、通算契約期間3年を上限とし、これを超える更新は行わない。乙は、この上限が更新の期待を生じさせるものでないことを確認する。」 一言解説: 更新上限を明記しないまま更新を重ねると、労働契約法第19条の雇止め法理により更新への期待が保護され、雇止めが無効と判断されるリスクが高まるため、上限を当初から明示しておく。
A-2 第7条の修正例 「甲は、乙の業務遂行能力が著しく期待水準に達しないと甲が合理的に判断した場合、書面による通知の上、本契約を解約することができる。」 一言解説: ただし単なる業績不振や経営上の都合のみでは「やむを得ない事由」に該当しないため、解約事由を具体的な行為・状況で特定しておく必要がある。
B節: 従業員側
B-1 第3条の修正例 「甲は、本契約を更新しない場合、契約期間満了の【30】日前までに、更新しない理由を書面で乙に通知するものとする。」 一言解説: 更新拒絶の理由を書面で求める規定を置くことで、雇止めの合理性を事後に検証できるようにし、突然の雇止めによる不利益を防ぐ。
B-2 第6条の修正例 「乙の報酬は、契約更新の都度、物価変動及び業界水準を考慮して見直すものとし、正当な理由なく引き下げない。」 一言解説: 専門職としての報酬水準を維持するため、見直しの考慮要素を契約書上に明記しておく。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式を使用すべき場面は、専門的な知識・技術・経験を有する人材を、正社員とは異なる雇用区分として期間を定めて雇用する場面である。定年退職者を継続雇用する場合にも用いられることがあるが、その場合は高年齢者雇用安定法第9条の雇用確保措置の趣旨との整合を別途確認する必要があり、専ら定年後の継続雇用のみを目的とする場合は定年後再雇用契約書を用いる方が整合的である。本書式を使用してはならない場面は、実際の業務内容が正社員と同様の恒常的・基幹的な業務であり、専門性や有期性を裏付ける実態が乏しいにもかかわらず、形式上のみ嘱託社員として処遇する場面であり、この場合は労働契約の実態に応じた区分の見直しが必要になる。
根拠法令として、労働基準法第14条第1項は、有期労働契約の期間の上限を原則3年とした上で、高度の専門的知識等を有する者との契約及び満60歳以上の者との契約については5年を上限とする特例を定めている。また、労働基準法施行規則第5条は、令和6年4月の改正により、労働条件明示事項として更新上限の有無及びその内容を明示することを使用者に義務付けている。契約期間途中の解約については労働契約法第17条第1項が「やむを得ない事由」がある場合に限ってこれを認め、期間満了時の更新拒絶(雇止め)については労働契約法第19条が一定の要件のもとで制限を課している。
実務でよくある失敗の一つ目は、令和6年4月の労働基準法施行規則改正で新設された更新上限の明示を怠り、契約締結当初は上限を示さないまま更新を重ねた後になって上限を追加しようとし、既に生じていた更新への期待と矛盾して雇止めが争われることである。二つ目は、契約期間途中の解約条項に会社の広範な任意解除権を定めてしまい、労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」の要件を満たさないまま解約を行い、解約自体が無効と判断されることである。三つ目は、労働基準法第14条第1項第1号の高度専門的知識等を有する者として5年の契約期間を設定したが、実際の業務内容が同号の要件に該当せず、上限が原則どおり3年に制限されてしまうことである。契約締結時の職種・資格要件の該当性については専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 契約期間の上限(原則3年、高度専門的知識者等は5年)の根拠となる要件を満たしているか確認したか
- [ ] 更新の有無及び判断基準を具体的に記載したか
- [ ] 更新上限(通算契約期間又は更新回数)を明示したか(労働基準法施行規則第5条対応)
- [ ] 契約期間途中の解約事由を「やむを得ない事由」に該当する内容に限定したか
- [ ] 業務内容が専門性・有期性の実態を伴っているか確認したか
- [ ] 無期転換申込権に関する説明を契約締結時・更新時に行う旨を定めたか
- [ ] 秘密保持・競業避止条項の範囲が過度に広くなっていないか確認したか
- [ ] 報酬の見直し基準を明記したか
- [ ] 社会保険・雇用保険の加入要件充足の有無を確認したか
- [ ] 更新拒絶(雇止め)の場合の予告・理由開示の方法を定めたか