定期昇給とベースアップの運用を整える企業向け。昇給時期や査定方法を定め、労働基準法第89条第2号の賃金の決定・計算方法の記載義務に対応します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
昇給規程
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本規程は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)の就業規則第【 】条及び賃金規程に基づき、労働者の昇給の時期、種類及び決定方法を定め、賃金制度の明確化を図ることを目的とする。
第2条(適用範囲) 本規程は、会社に雇用される正社員に適用する。契約社員、パートタイム労働者等の昇給については、それぞれの雇用区分の労働条件通知書又は個別契約の定めによる。
第3条(昇給の種類) 本規程における昇給は、次の各号に区分する。 (1) 定期昇給:毎年定期に行う、勤続年数及び年齢に応じた基本給の増額 (2) 考課昇給:人事考課の結果に基づき行う、個人の業績・能力評価に応じた基本給の増額 (3) ベースアップ:会社全体の賃金水準を底上げする改定であり、労使協議を経て実施の要否を決定する
第4条(定期昇給の時期) 1 定期昇給は、原則として毎年【4月1日】をもって実施する。 2 前項にかかわらず、会社の業績状況その他やむを得ない事由がある場合、会社は定期昇給の時期を変更し、又は当該年度の定期昇給を見送ることができる。この場合、会社は労働者に対しその理由を説明する。
第5条(定期昇給の基準) 1 定期昇給は、次の各号のいずれにも該当する労働者に対して行う。 (1) 昇給基準日において在籍していること (2) 昇給対象期間(前年【4月1日】から当年【3月31日】まで)における出勤率が【80%】以上であること (3) 直近の人事評価が著しく低い評価(会社が定める評価区分において下位【10%】に該当する評価等)に該当しないこと 2 定期昇給の号俸改定幅は、賃金規程別表【〇】に定める昇給表による。
第6条(考課昇給の基準) 1 考課昇給は、人事考課規程に基づき実施する年【1】回の人事評価の結果を反映し、次の算式により算定する。 昇給額 = 基本給 × 評価係数(S:【3.0%】、A:【2.0%】、B:【1.0%】、C:【0%】、D:【0%(降給検討)】) 2 評価係数の適用にあたっては、評価者による一次評価及び人事部門による二次評価を経て確定した評価区分を用いる。 3 考課昇給の実施は、定期昇給の実施と同時期に行うことを原則とするが、評価確定時期の都合により別途時期を定めることができる。
第7条(ベースアップの実施) 1 ベースアップの実施の要否及び改定率は、会社の業績、物価動向、労働市場の状況等を総合的に勘案し、経営会議において決定する。 2 ベースアップを実施する場合、会社は労働者の過半数を代表する者に対しその内容を事前に説明する。 3 ベースアップは、原則として全労働者の基本給を一律の率又は一律の額で改定するものとし、定期昇給及び考課昇給とは別枠で実施する。
第8条(昇給の限度) 定期昇給及び考課昇給による号俸改定は、賃金規程別表に定める当該職位・等級における上限号俸を超えないものとする。上限に達した労働者については、昇格による等級変更がない限り、当該号俸改定による昇給は行わない。
第9条(中途入社者・休職者の取扱い) 1 昇給対象期間の途中で入社した労働者については、入社日から昇給基準日までの在籍期間に応じて昇給額を按分して算定することができる。 2 私傷病休職、育児休業、介護休業等により昇給対象期間中に休業していた期間がある労働者については、実勤務期間の割合に応じて昇給額を按分する。ただし、産前産後休業及び育児・介護休業の取得を理由として、他の労働者と比較して不利益な按分方法を用いない。
第10条(降給) 会社は、人事考課の結果が著しく低い評価に該当する場合、懲戒処分を受けた場合又は職位・等級の引下げ(降格)を伴う場合に限り、就業規則及び賃金規程に定める手続に従い基本給を引き下げることができる。
第11条(労働条件の明示) 会社は、労働契約の締結に際し、昇給に関する事項(本規程の適用の有無、定期昇給・考課昇給・ベースアップの制度概要)を労働条件通知書又はこれに準ずる書面により明示する。
第12条(不利益変更の手続) 1 本規程の内容を労働者に不利益に変更する場合、会社は労働契約法第9条及び第10条の趣旨に従い、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉状況その他変更に係る事情を考慮したうえで、労働者の過半数を代表する者の意見を聴取し、変更内容を周知する。 2 前項の変更にあたっては、必要に応じて経過措置を設けることを検討する。
第13条(疑義の処理) 本規程の解釈又は運用に疑義が生じた場合は、会社と労働者代表とが協議のうえ決定する。
第14条(改廃) 本規程の改廃は、就業規則の変更手続に準じて行う。
附則 本規程は【20〇〇年〇月〇日】から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 定期昇給制度向け
年功的要素を重視し、勤続年数・年齢に応じた昇給表による定期昇給を制度の中心に据える企業向けの書き換えである。
修正条文例(第5条第2項の書き換え): 「定期昇給の号俸改定幅は、勤続年数に応じて次のとおりとする。勤続3年未満:2号俸、勤続3年以上10年未満:3号俸、勤続10年以上:4号俸。ただし人事評価がC評価以下の場合は前号の号俸数から1号俸を減じる。」
一言解説: 勤続年数を主軸としつつ最低限の評価連動要素を残す折衷的な設計例。年功要素のみに偏ると人件費の硬直化を招くため、低評価者への調整規定を残す設計が実務では多い。
B節: 評価連動昇給制度向け
年功的な定期昇給を廃止し、人事評価の結果のみに基づいて昇給を決定する企業向けの書き換えである。
修正条文例(第3条・第5条を統合する形での書き換え): 「昇給は、年【1】回の人事評価の結果のみに基づく考課昇給とし、勤続年数及び年齢を昇給額の決定要素としない。評価区分がC以下の場合、当該年度の昇給は行わない。」
一言解説: 定期昇給の概念自体を廃止し、考課昇給に一本化する例である。この設計に移行する場合、既存の年功的な昇給を前提としていた労働者にとっては不利益変更に該当し得るため、第12条の不利益変更手続を経ることが特に重要となる。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説(解説)
昇給規程の導入が適する場面は、昇給の時期や決定方法が担当者ごとに異なり運用の一貫性を欠いている企業、あるいは定期昇給から評価連動型への制度移行を検討している企業である。反対に、賃金体系が完全な年俸制であり毎年の契約更新時に個別交渉で賃金を決定する企業では、昇給という概念自体になじまず、本規程を形式的に導入するとかえって年俸制の趣旨と矛盾する記載になりかねないため、導入を避けるか年俸改定規程として別途設計すべきである。
根拠法令としては、労働基準法第89条第2号が就業規則の絶対的必要記載事項として「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を掲げており、昇給の有無及びその決定方法を就業規則又は付属の下位規程に記載することが法律上義務付けられている。また、同法第15条は労働契約締結時に昇給に関する事項を明示する義務を使用者に課しており、本規程第11条はこの明示義務に対応する条項である。もっとも、同条の明示義務は「昇給の有無」を示せば足りるとされ、必ずしも具体的な昇給額や算定式まで契約締結時に確定的に示す必要はないと解されている点には留意が必要である。
昇給制度の変更、特に定期昇給を縮小・廃止して評価連動型に移行するような改定は、既存労働者にとって将来の昇給期待を制約する不利益変更に該当し得る。労働契約法第9条は、使用者が労働者との合意なく就業規則を変更して労働条件を労働者の不利益に変更することを原則として禁止しており、同法第10条は、就業規則の変更が周知され、かつ変更の内容が労働者の受ける不利益の程度、労働条件変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものである場合に限り、変更後の就業規則の定めるところによるとしている。第12条はこの規定を踏まえた手続条項であり、制度変更時には必ず参照する必要がある。
実務上よくある失敗としては、第一に、定期昇給を「原則実施」としながら実際には長年見送りが続き、労働者から昇給請求権の存在を主張される例である。第4条第2項のように、見送りの理由説明義務をあらかじめ明記し、恣意的な運用と評価されないようにする対策が有効である。第二に、評価連動型への移行にあたって労働契約法第10条の合理性判断要素(不利益の程度、変更の必要性等)を検討せずに一方的に規程を改定し、後日変更の効力を争われる例である。第12条のように、変更手続と経過措置の検討を規程上明記しておくことが望ましい。第三に、昇給の上限(第8条の号俸上限)を定めずに運用し、高等級の労働者との間で昇給額の不公平感が生じる例である。等級別の上限を明確化しておくことで、この種のトラブルを防ぎやすくなる。
昇給制度の変更が労働契約法第9条・第10条との関係でどこまで有効と評価されるかは、変更の内容や経緯によって個別に判断が異なるため、制度改定を検討する際は弁護士等の専門家に個別事案として確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト(チェックリスト)
- [ ] 定期昇給・考課昇給・ベースアップの区分と決定方法を条文上明確に分けたか
- [ ] 定期昇給の実施時期と、見送る場合の説明義務を規定したか
- [ ] 考課昇給の評価係数と人事考課制度の評価区分との対応関係を明確にしたか
- [ ] 労働基準法第89条第2号に基づき昇給に関する事項を就業規則体系上に位置づけたか
- [ ] 労働基準法第15条に基づき労働条件通知書等で昇給の有無を明示する運用になっているか
- [ ] 号俸・等級ごとの昇給上限を定めたか
- [ ] 休職・休業期間中の按分計算方法と不利益取扱い禁止の原則を明記したか
- [ ] 降給を行う場合の要件と手続を明確にしたか
- [ ] 定期昇給制度から評価連動制度への移行等、不利益変更に該当し得る改定について労働契約法第9条・第10条を踏まえた手続を定めたか
- [ ] 制度変更時に労働者の過半数を代表する者への意見聴取及び周知の手順を定めたか