不動産の所有権移転登記の時期・費用・必要書類を当事者間で確認する覚書。民法第177条の対抗要件と不動産登記法上の共同申請義務を踏まえ責任分担を整理する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
所有権移転登記に関する覚書
第1部: 書式本文
第1条(前提) 売主〇〇〇〇(以下「甲」という。)と買主〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、別紙物件目録記載の不動産(以下「本物件」という。)に係る売買契約に基づく所有権移転登記手続について、次のとおり確認する。
第2条(登記の時期) 甲及び乙は、残代金の支払と同時に、本物件について所有権移転登記の申請を行う。
第3条(申請の方式) 本登記は、甲及び乙が共同して登記所に申請する共同申請の方式によるものとし、双方は登記識別情報の提供その他の共同申請に必要な行為を行う。
第4条(登記手続の委任) 甲及び乙は、登記手続を司法書士〇〇〇〇に委任し、双方が当該司法書士に対する委任状を作成する。
第5条(必要書類の準備) 甲は、登記識別情報(又は登記済証)、印鑑証明書(発行後3か月以内)、固定資産評価証明書その他登記手続に必要な書類を準備し、決済当日に司法書士に提示する。乙は、住民票、印鑑証明書その他必要書類を準備する。
第6条(登記費用の負担) 登録免許税及び司法書士報酬は、乙(買主)の負担とする。ただし、抵当権抹消登記に係る費用は甲(売主)の負担とする。
第7条(決済及び登記申請の同時履行) 残代金の授受、本物件の引渡し及び登記申請書類一式の司法書士への交付は、同一の場所において同時に行う。
第8条(登記完了後の対応) 登記完了後、司法書士は登記識別情報通知書及び登記事項証明書を乙に交付する。
第9条(抵当権等の抹消) 本物件に甲を債務者とする抵当権その他の担保権の登記が存する場合、甲は決済までに当該担保権の抹消登記手続に必要な書類を準備し、乙への所有権移転登記と同時又はその前に抹消登記を完了させる。
第10条(登記手続の懈怠に対する措置) 甲又は乙が正当な理由なく登記手続に協力しないときは、相手方は登記手続への協力を求める旨を書面で催告し、なお協力が得られないときは法的措置を検討する。
第11条(表示変更登記の要否確認) 甲及び乙は、決済に先立ち、登記簿上の氏名・住所と現在の実態に相違がないかを確認し、相違がある場合は登記名義人表示変更登記を先行して行う。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 売主向けの修正
A-1. 抵当権抹消の確実な履行を担保する記載
追加条文例:「甲は、決済日までに抵当権者から抹消登記に必要な書類一式を取得し、司法書士に事前に確認を受けるものとする。抹消書類が整わない場合、決済を延期することができる。」 一言解説: 売主に住宅ローンの残債がある場合、抵当権抹消の書類準備が決済の前提となるため、事前確認プロセスを明記する修正である。
B. 買主向けの修正
B-1. 登記の同時履行を確保する条項の強化
追加条文例:「乙は、残代金の支払を、甲の所有権移転登記手続への協力及び担保権抹消登記の完了(見込みを含む)と同時履行の関係に立たせるものとし、司法書士による本人確認及び書類の完備が確認できない限り、決済を留保することができる。」 一言解説: 買主が代金を支払ったにもかかわらず登記が完了しないリスク(いわゆる「決済したのに登記が入らない」事態)を防ぐための修正である。
C. 司法書士向けの確認記載
C-1. 本人確認・意思確認の実施記録の追加
追加条文例:「司法書士は、不動産登記法第23条及び本人確認に関する規則に基づき、甲及び乙の本人確認及び登記申請意思の確認を行い、その結果を記録する。」 一言解説: 司法書士による本人確認・意思確認は、なりすまし等による不正登記を防止するための重要な手続であり、決済当日の対応フローを明確にしておくことが望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、不動産売買契約の当事者が、決済(残代金の支払と引渡し)にあわせて行う所有権移転登記の手続、必要書類、費用負担及び担当司法書士を事前に確認しておく場面で用いる。売買契約書本体に登記に関する条項が既に詳細に定められている場合は重複となるため、契約書の記載を補完する趣旨で用いるか、契約書とは別に決済日の実務フローを確認するための覚書として位置付けるのが実務的である。
根拠法令 民法第177条は、不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法の定めるところに従いその登記をしなければ第三者に対抗することができない旨を定める。不動産登記法第60条は、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない旨(共同申請主義)を定めており、売主(登記義務者)と買主(登記権利者)が共同して申請することが原則となる。同法第22条は登記識別情報の提供を、同法第25条各号は登記官による審査(却下事由)を定めており、書類の不備は登記申請の却下事由となりうる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、抵当権抹消書類の準備が決済当日に間に合わず、決済及び所有権移転登記が延期される失敗がある。第9条・A-1のように事前の書類確認プロセスを設けることで防止する。第二に、代金の支払と登記申請書類の交付を同時に行わず、買主が代金を支払った後に売主側の協力が得られなくなるリスクを負う失敗がある。第7条・B-1のように同時履行の原則を明確にすることが重要である。第三に、登記費用(登録免許税、司法書士報酬)の負担者を明確にしないまま決済当日に争いになる失敗がある。第6条のようにあらかじめ負担者を定めておくことが望ましい。
第四に、売主の氏名や住所が登記簿上の記載と現在の実態(婚姻による氏の変更、住所移転等)とで異なっている場合に、前提として登記名義人表示変更登記が必要となることを見落とし、決済当日に所有権移転登記の前提を欠く失敗もある。決済前に登記事項証明書と売主の本人確認書類(印鑑証明書、住民票の除票等)を突合し、表示変更登記の要否を確認しておく必要がある。第五に、共有名義の物件について共有者全員の協力が得られるか確認しないまま決済日を設定し、一部の共有者の書類が整わず決済が頓挫する失敗もある。共有名義の場合は、決済前に全共有者の必要書類の準備状況を個別に確認することが望ましい。
登記手続の実務は司法書士の専門領域であり、個別事案は専門家に確認することが望ましい。必要書類や手続の詳細は事案ごとに異なるため、決済前に担当司法書士へ確認することが不可欠である。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 担当司法書士を決定し、双方が委任状を準備したか
- [ ] 甲(売主)の登記識別情報又は登記済証の所在を確認したか
- [ ] 印鑑証明書等の有効期限(発行後3か月以内等)を確認したか
- [ ] 抵当権等の担保権の抹消書類の準備状況を事前に確認したか
- [ ] 登記費用(登録免許税・司法書士報酬)の負担者を確認したか
- [ ] 決済及び登記申請書類交付を同時履行とする段取りを確認したか
- [ ] 決済場所(金融機関、司法書士事務所等)を確定したか
- [ ] 登記完了後の書類(登記識別情報通知書等)の受渡方法を確認したか
- [ ] 登記名義人表示変更登記(氏名・住所の変更)の要否を確認したか
- [ ] 共有名義の場合、全共有者の必要書類の準備状況を確認したか