育成者権者が生産者へ登録品種の栽培・増殖を許諾する契約書。種苗法の自家増殖許諾制と栽培地・輸出制限、許諾料の算定方法を明記した書式です。
種苗の利用許諾契約書
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
第1部: 書式本文
育成者権者〇〇〇〇(以下「甲」という。登録品種に係る育成者権を有する種苗会社)と利用者〇〇〇〇(以下「乙」という。当該登録品種を栽培する生産者)とは、甲が保有する登録品種の種苗の利用に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は乙に対し、末尾記載の登録品種(以下「本件品種」という。)について、種苗法第20条以下に定める育成者権に基づき、栽培及び増殖を目的とした利用を許諾し、乙はこれを受ける。
第2条(許諾範囲) 本契約に基づく許諾の範囲は、末尾別紙記載の栽培地における本件品種の種苗の栽培、収穫及び当該収穫物の販売とする。許諾の範囲を超える利用は本契約の対象としない。
第3条(栽培地の限定) 乙は、本件品種を末尾別紙記載の栽培地以外の場所で栽培してはならない。栽培地を変更する場合は、事前に甲の書面による承諾を得るものとする。
第4条(自家増殖) 乙が本件品種の収穫物の一部を用いて自家増殖を行おうとするときは、種苗法第21条に定める許諾の要否を踏まえ、その都度甲の書面による許諾を得るものとし、無断で自家増殖を行ってはならない。
第5条(輸出制限) 乙は、本件品種の種苗及びその収穫物を、甲の書面による事前の承諾を得ることなく、末尾別紙記載の地域外に輸出し、又は輸出目的で第三者に譲渡してはならない。
第6条(許諾料) 乙は、甲に対し、本件品種の許諾料として、【栽培面積に応じた定額】又は【収穫物の販売数量に応じた従量制】により算定される許諾料を、末尾別紙記載の方法により支払う。
第7条(表示義務) 乙は、本件品種の種苗を第三者に譲渡する場合、種苗法に定める指定種苗の表示に関する規定を遵守し、品種名その他必要な事項を表示する。
第8条(栽培基準の遵守) 乙は、甲が指定する栽培基準に従って本件品種を栽培し、品質及び特性の維持に努める。
第9条(許諾期間) 本契約に基づく許諾期間は〇〇〇〇年〇月〇日から〇年間とする。期間満了後も継続して利用する場合は、甲乙協議の上、更新の可否を決定する。
第10条(育成者権侵害への対応) 乙は、本件品種に関し第三者による育成者権侵害の事実を知ったときは、速やかに甲に通知する。甲は、当該侵害への対応方針を乙に説明する。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方の技術情報及び取引情報を第三者に開示してはならない。
第12条(契約解除) 甲は、乙が第3条から第5条までの規定に違反したときは、催告を要せず直ちに本契約を解除することができる。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【甲の主たる事務所の所在地を管轄する】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 育成者権者(種苗会社)向けの修正
A-1. 栽培地域外流出時の違約金
修正後:「乙が第3条又は第5条に違反し、本件品種の種苗若しくは収穫物を許諾範囲外の地域に流出させたことが判明した場合、乙は甲に対し、当該違反に係る種苗の取引価額の〇倍に相当する違約金を支払う。」
一言解説: 登録品種の海外流出は育成者権者にとって回復困難な損害となり得るため、通常の損害賠償に加えて違約金額をあらかじめ定めることで抑止力を持たせる修正である。
A-2. 自家増殖の都度許諾制の徹底
修正後:「乙は、自家増殖を行おうとする都度、増殖予定数量及び用途を記載した申請書を甲に提出し、甲の書面による許諾を得た場合に限り自家増殖を行うことができる。無許諾での自家増殖が判明した場合、甲は本契約を解除することができる。」
一言解説: 種苗法第21条により登録品種の自家増殖には育成者権者の許諾を要する取扱いとなっていることを踏まえ、許諾手続を具体的な申請様式に落とし込み、無許諾増殖への牽制を明確化する修正である。
B. 利用者(生産者)向けの修正
B-1. 許諾料の従量制への変更
修正後:「許諾料は、乙が本件品種の収穫物を販売した数量に基づき、販売数量1キログラム当たり〇円として算定し、乙は毎月の販売実績を甲に報告した上で翌月末日までに支払う。」
一言解説: 定額の許諾料は不作の年でも固定費として生産者の負担となるため、販売実績に連動する従量制に改めることで収量変動リスクを甲乙間で分散させる修正である。
B-2. 品種特性不適合時の責任限定
修正後:「乙が甲の指定する栽培基準に従って栽培したにもかかわらず、本件品種が甲の提供した特性説明と著しく異なる結果を示した場合、乙は当該収量減少について甲と協議の上、許諾料の減額を求めることができる。」
一言解説: 品種特性は栽培環境によって変動し得るが、甲が提供する特性説明と実際の栽培結果が乖離した場合の救済手段を用意しておくことで、生産者が一方的にリスクを負う事態を避ける修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、種苗法上の登録品種について、育成者権者が生産者に対し栽培・増殖の利用を許諾する場合に用いる。品種登録がされていない在来種や登録期間が満了した品種の種苗を取引する場合は、育成者権に基づく許諾という構成自体が成り立たないため、本書式ではなく通常の種苗売買契約を用いるべきである。また、育成者権者が種苗そのものを単純に販売するにとどまり、栽培地の限定や自家増殖制限といった許諾条件を課さない取引の場合も、本書式の骨格は過剰であり簡易な売買契約で足りる。
根拠法令
種苗法は、新品種を育成した者に対し、当該品種の種苗等を業として利用する権利である育成者権を付与しており(同法第20条以下)、育成者権者の許諾を得ない登録品種の利用は権利侵害となり得る。同法第21条は、農業者が収穫物の一部を種苗として用いる自家増殖について、原則として育成者権者の許諾を要する制度を定めており、許諾の範囲や条件は当事者間の合意によって具体化される。また、種苗の流通に際しては、種苗法上、指定種苗について品種名その他の事項を表示すべき義務が定められており、表示を欠いた種苗の譲渡は同法上の問題を生じ得る。
実務でよくある失敗と対策
第一に、許諾の範囲となる栽培地を明確にしないまま契約し、生産者が他地域でも栽培を行った結果、育成者権侵害が問題となる例が多い。栽培地は住所や圃場番号等で具体的に特定すべきである。第二に、自家増殖について包括的な許諾を与えたつもりで契約したところ、実際には種苗法上の許諾範囲が不明確で、後日紛争になる例も見られる。自家増殖を認める場合は、対象品種、数量及び許諾手続を具体的に定めておくことが望ましい。第三に、輸出制限条項を置かずに種苗を譲渡し、意図せず海外への流出を招いてしまう例がある。輸出や国外への譲渡を制限する条項をあらかじめ設け、違反時の措置も明記しておくべきである。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 許諾対象の登録品種を品種登録番号等で特定したか
- [ ] 許諾範囲(栽培・増殖・販売)を具体的に定めたか
- [ ] 栽培地を圃場単位まで特定し、変更時の手続を定めたか
- [ ] 自家増殖を認める場合の許諾手続を種苗法第21条を踏まえて規定したか
- [ ] 輸出及び国外への譲渡制限を明記したか
- [ ] 許諾料の算定方法(定額制・従量制)及び支払方法を定めたか
- [ ] 指定種苗の表示義務の履行方法を確認したか
- [ ] 栽培基準の内容及び遵守方法を明確にしたか
- [ ] 許諾期間及び更新条件を定めたか
- [ ] 育成者権侵害を発見した場合の通知・対応手続を規定したか
- [ ] 違反時の解除事由及び違約金の要否を検討したか