賃借人付きの一棟アパート・ビル等を投資用に売買する場面の契約書。民法第605条の2の賃貸人たる地位の移転や敷金・賃料の承継、宅地建物取引業法上の説明事項を整理。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
収益物件売買契約書
第1部: 書式本文
第1条(目的物件) 売主は、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下「本物件」といい、賃借人が存する状態を「オーナーチェンジ」という。)を買主に売り渡し、買主はこれを買い受ける。
第2条(売買代金及び支払方法) 売買代金は金〇〇円とし、買主は手付金〇〇円を契約締結時に、残代金を引渡日に支払う。
第3条(賃貸借契約の一覧及び承継) 本物件には別紙「賃貸借契約一覧表」記載の各賃貸借契約(以下「原賃貸借契約」という。)が付着しており、売主は引渡日をもって原賃貸借契約における賃貸人たる地位を買主に移転する。
第4条(敷金の承継) 売主は、原賃貸借契約に基づき預かっている敷金相当額を、引渡日における残代金から控除する方法又は別途現金で交付する方法により買主に承継させる。
第5条(賃料及び共益費の日割精算) 引渡日を基準として、当月分の賃料及び共益費を日割りで精算し、引渡日以降の分を買主に帰属させる。
第6条(未収賃料の取扱い) 引渡日以前に発生した未収賃料の請求権は売主に留保し、引渡日以降に発生する賃料請求権は買主に帰属する。ただし、当事者間で別途合意した場合はこの限りでない。
第7条(賃借人への通知) 買主は、引渡し後速やかに各賃借人に対し、賃貸人たる地位の移転及び賃料の振込先変更を通知する。
第8条(表明保証) 売主は、買主に対し、契約締結日現在において、原賃貸借契約の内容が別紙一覧表のとおりであること、賃借人との間で紛争が存しないこと、及び反社会的勢力でないことを表明し、保証する。
第9条(重要事項説明) 仲介業者は、宅地建物取引業法第35条に基づき、賃貸借の条件、敷金の状況、修繕履歴等について買主に説明する。
第10条(契約不適合責任) 引き渡された本物件が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は民法の定めるところにより履行の追完、代金減額、損害賠償又は解除を請求することができる。
第11条(危険負担) 引渡し前の滅失・毀損の危険は売主が、引渡し後は買主が負担する。
第12条(合意管轄) 本契約に関する紛争は、本物件所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 売主(オーナー)向けの修正
A-1. 表明保証の範囲を限定
修正後:「売主の表明保証は、売主が現に認識している事実の範囲に限るものとし、売主が過失なく知り得なかった事実については表明保証の対象としない。」 一言解説: 賃貸借契約の詳細な履歴(過去のクレーム等)まで無過失で保証することを避け、売主の責任範囲を限定する修正である。
B. 買主(投資家)向けの修正
B-1. 賃借人属性・滞納履歴の開示請求権の追加
追加条文例:「売主は、本契約締結前に、各賃借人の賃料滞納履歴(直近3年分)、原状回復に関する紛争の有無及び入居審査時の属性資料の写しを買主に開示しなければならない。」 一言解説: 収益物件では表面利回りだけでなく賃借人の支払能力・入居継続性が投資判断に直結するため、開示範囲を具体的に定める修正である。
B-2. 未収賃料の承継特約
修正後(第6条の代替):「引渡日以前に発生した未収賃料の請求権は買主に移転するものとし、買主は自己の名において回収に努める。売主は回収に協力する。」 一言解説: 買主が管理を一括して引き継ぎ、未収賃料も含めて回収実務を担う方式に変更する修正であり、売主・買主の管理コストの分担に応じて選択される。
C. 仲介業者向けの修正
C-1. 収益還元法による価格根拠の記載明確化
追加条文例:「仲介業者は、本物件の想定表面利回り及びNOI(純収益)の算定根拠を記載した資料を重要事項説明書に添付して交付する。」 一言解説: 収益物件特有の価格説明として、単純な取引事例比較法だけでなく収益還元法の根拠資料を残しておくことがトラブル防止に資する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、賃借人が居住又は営業中の一棟アパート・マンション・ビル等をオーナーチェンジの形で投資用に売買する場面で用いる。空室物件を実需目的(自己使用)で購入する場合は、賃貸人たる地位の移転に関する条項は不要となるため、通常の不動産売買契約書を用いるべきである。
根拠法令 民法第605条の2は、不動産の賃貸借において対抗要件を備えた賃借人がいる場合、当該不動産の譲渡により賃貸人たる地位が譲受人に当然に移転する旨を定める。同条第3項は、敷金の返還債務及び賃借人に対する費用償還債務が譲受人に承継される旨を定めており、敷金の承継は法律上当然の効果であるため、契約書上もこれを明確に記載しておくことが望ましい。宅地建物取引業法第35条は重要事項説明義務を定め、収益物件については賃貸借の条件に関する説明が重要事項となる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、敷金の承継額を確定させないまま契約し、引渡し後に賃借人から敷金返還を求められた買主が売主に精算を求める紛争が生じる失敗がある。第4条のように敷金相当額の精算方法を具体的に定めることで防止する。第二に、賃借人一覧表(レントロール)の内容と実際の賃貸借契約書の内容(賃料、契約期間、特約)が相違しており、買主が想定した利回りを実現できない失敗がある。第8条の表明保証及びB-1の開示請求権により是正を図る。第三に、賃貸人たる地位の移転を賃借人に通知せず、賃借人が旧オーナーに賃料を振り込み続けてしまう失敗がある。第7条のとおり引渡し後速やかな通知を徹底する必要がある。
第四に、サブリース契約(いわゆる家賃保証契約)が付着している物件について、サブリース業者との契約内容(賃料改定条項、解約条件)を精査せずに購入し、想定していた賃料保証額が引渡し後まもなく減額される失敗もある。サブリース契約が付着している場合は、原賃貸借契約一覧表とは別にサブリース契約書の写しを取得し、賃料改定サイクルと解約予告期間を確認しておくことが望ましい。
収益物件の評価や表明保証の範囲は個別の物件事情により異なるため、契約締結前に専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] レントロール(賃借人一覧表)と原賃貸借契約書の内容を突合したか
- [ ] 敷金の承継額及び精算方法を確認したか
- [ ] 未収賃料の請求権の帰属(売主留保か買主承継か)を確認したか
- [ ] 賃借人への通知文案及び送付時期を準備したか
- [ ] 原状回復・敷金精算に関する過去の紛争の有無を確認したか
- [ ] 表面利回り・NOIの算定根拠資料を確認したか
- [ ] 建物の修繕履歴及び直近の大規模修繕の実施状況を確認したか
- [ ] サブリース契約が付着していないか確認したか
- [ ] 管理会社との管理委託契約の承継又は解約の要否を確認したか
- [ ] サブリース契約が付着している場合、賃料改定条項及び解約予告期間を確認したか
- [ ] 反社会的勢力該当性に関する表明保証条項を確認したか