倉庫内の在庫全体を流動的に担保に取るABL向けの契約書。集合物の特定方法と動産・債権譲渡特例法に基づく登記、在庫の補充義務を定めています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
集合動産譲渡担保契約書
第1部: 書式本文
【譲渡担保権者(金融機関)商号】(以下「甲」という。)と【設定者(事業者)商号】(以下「乙」という。)とは、乙の在庫商品等の集合動産を担保としてABL(動産・売掛金担保融資)を実行することに関し、次のとおり集合動産譲渡担保契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(被担保債権) 本契約が担保する債権は、甲乙間の【〇〇年〇〇月〇〇日】付融資取引契約に基づき現在及び将来生じる一切の債権(以下「被担保債権」という。)とする。
第2条(集合物の特定) 乙は、被担保債権を担保するため、下記の場所に存在する下記種類の動産の集合体(構成部分の変動する集合物。以下「本件集合動産」という。)につき、その所有権を甲に譲渡し、甲はこれを譲り受ける。 記 1. 所在場所:【倉庫所在地】 2. 種類:【商品名・品目】 3. 特定方法:量的範囲(数量又は評価額の上限)及び場所的範囲により特定する。
第3条(占有改定による引渡し) 本件集合動産の所有権は本契約締結と同時に乙から甲に移転するが、乙は引き続きこれを占有し、以後甲のために占有するものとする(占有改定、民法第183条)。
第4条(通常の営業の範囲内における処分) 乙は、通常の事業の範囲内において、本件集合動産を構成する個々の動産を、通常の取引条件により第三者に売却することができる。当該売却により本件集合動産から離脱した動産は譲渡担保の目的から外れ、これに代えて新たに搬入された同種動産が本件集合動産に含まれる(集合物の流動性)。
第5条(動産譲渡登記) 甲及び乙は、本契約締結後速やかに、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条に基づき、本件集合動産について動産譲渡登記を行う。登記に要する費用は乙の負担とする。
第6条(在庫の補充義務) 乙は、本件集合動産の評価額を被担保債権額に対し常時【 】パーセント以上に維持するよう、在庫の補充に努める。
第7条(在庫報告及び実地棚卸) 1. 乙は、甲に対し、【毎月】末日時点における本件集合動産の数量及び評価額を記載した報告書を提出する。 2. 甲は、【四半期】ごとに乙の倉庫に立ち入り実地棚卸を行うことができ、乙はこれに協力する。
第8条(保険の付保) 乙は、本件集合動産につき火災保険その他の損害保険に付し、当該保険金請求権に甲のために質権を設定する。
第9条(通常の営業範囲を超える処分の制限) 乙は、通常の事業の範囲を超える一括処分、著しく低廉な価格での売却その他本件集合動産の担保価値を不当に減少させる行為を行ってはならない。
第10条(実行方法) 被担保債権について期限の利益の喪失事由が生じたときは、甲は乙の通常の営業の範囲内における処分権限を失わせ(固定化)、本件集合動産を処分することにより優先弁済を受けることができる。処分価額から処分費用を控除した残額に余剰が生じた場合、甲はこれを乙に返還する。
第11条(協議及び合意管轄) 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印 (乙) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 譲渡担保権者(金融機関)向け書き換え
A-1. 複数倉庫に在庫が分散している卸売業者向け
第2条修正例:「本件集合動産の所在場所は、乙が事業のために使用する倉庫として甲に事前に届け出た全ての場所とし、新たな倉庫を使用する場合は事前に甲に通知する。」 解説: 在庫が複数拠点に分散する場合、場所的特定の方法を届出制とすることで担保範囲の把握漏れを防ぐ。
A-2. 在庫の評価額低下時の早期警戒を強化したい場面
第6条修正例:「本件集合動産の評価額が被担保債権額の【100】パーセントを下回った場合、乙は7日以内に甲に報告し、甲乙協議の上、追加担保の提供その他の対応を検討する。」 解説: 補充努力義務にとどまらず、具体的な低下時の報告・協議プロセスを設け早期の与信管理を可能にする。
B. 設定者(事業者)向け書き換え
B-1. 季節変動が大きい業種で在庫量が変動する場面
第6条修正例:「在庫の補充義務は、乙の事業の季節性を考慮し、四半期ごとの平均評価額を基準として判定する。」 解説: 特定時点の在庫水準ではなく期間平均で判定することで、季節的な繁閑による一時的な水準低下を補充義務違反としない。
B-2. 実地棚卸の頻度・負担を軽減したい場面
第7条2項修正例:「実地棚卸は【半年】ごとに実施し、乙の通常業務に支障が生じないよう甲乙事前に日程を調整する。」 解説: 頻繁な立入りが業務負担となる中小事業者向けに、頻度を抑えつつ事前調整による円滑な実施を図る。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、倉庫内の在庫商品のように構成部分が流動的に変動する集合動産を一体として担保に取り、事業者の在庫・売掛金を裏付けとした資金調達(ABL)を行う場面で用いる。特定の機械設備のように個別に特定される動産のみを担保に取る場合は、動産譲渡担保契約書を用いるべきであり、集合物としての特定を要する本書式とは対象の性質が異なる。また通常の営業の範囲を超える処分を伴わない静的な担保としたい場合は、本書式の流動性を前提とした条項設計にはなじまない。
根拠法令 集合動産譲渡担保は、最高裁判例(最判昭和54年2月15日等)により、量的範囲、場所的範囲等の一定の方法により目的物の範囲が特定される限り、集合物を一個の物として譲渡担保の目的とすることができるとされている。対抗要件については、動産・債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条に基づく動産譲渡登記制度により、占有改定によらずに第三者対抗要件を具備することができる。通常の営業の範囲内における処分は、集合物の流動性の本質的要素として当然に許容されると解されており、処分された動産は担保の目的から離脱し、新たに搬入された同種動産が担保の目的に含まれる(いわゆる流動集合動産譲渡担保)。
実務でよくある失敗と対策 第一に、集合物の特定方法(場所的範囲・量的範囲)が曖昧で、後日どの範囲の在庫が担保の目的物であったか特定できない失敗がある。第2条のように所在場所及び種類を具体的に記載する。第二に、通常の営業の範囲を超える処分の制限を定めず、乙が担保価値を不当に減少させる大量売却等を行っても是正できない失敗がある。第9条のように制限を明記する。第三に、在庫水準のモニタリング体制を構築せず、実行時に評価額が想定を大きく下回っていたことが判明する失敗がある。第7条のように定期報告及び実地棚卸の仕組みを組み込む。ABLにおける評価方法や固定化のタイミングについては専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本件集合動産の所在場所・種類・量的範囲を具体的に特定したか
- [ ] 占有改定による引渡し及び通常の営業範囲内での処分権限を明記したか
- [ ] 動産譲渡登記の実施及び費用負担を定めたか
- [ ] 在庫の補充義務及びその基準(評価額の割合等)を明記したか
- [ ] 定期報告及び実地棚卸の頻度・方法を定めたか
- [ ] 保険の付保及び保険金請求権への質権設定を検討したか
- [ ] 通常の営業範囲を超える処分の制限を明記したか
- [ ] 期限の利益喪失時の固定化及び実行方法を定めたか
- [ ] 複数拠点に在庫がある場合の場所的特定の管理方法を確認したか