iOS・Android向けアプリの開発を委託する契約書。民法第632条の請負と著作権法第21条以下の権利帰属を定め、ストア審査不通過時の取扱いも規定。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
スマートフォンアプリ開発委託契約書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。開発会社)と〇〇〇〇(以下「乙」という。発注者)とは、iOS及びAndroid向けアプリケーション(以下「本アプリ」という。)の開発について、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は、民法第632条に定める請負契約として、乙の指示に基づき本アプリを開発し、これを完成させて乙に引き渡す。
第2条(開発範囲) 開発範囲(対象OSバージョン、機能一覧、対応端末)は別紙のとおりとする。
第3条(開発スケジュール及び請負代金) 開発スケジュール及び請負代金は別紙のとおりとし、乙は別紙に定める支払条件に従い甲に対価を支払う。
第4条(検収) 1. 甲は、本アプリが完成したときは乙に引き渡し、乙は別紙に定める検収期間内に、仕様書との適合性を確認する。 2. 検収の結果、仕様との不一致が発見された場合、乙は甲に対し修補を求めることができる。
第5条(権利の帰属) 1. 本アプリのソースコード及びデザインにかかる著作権(著作権法第21条から第28条までに規定する権利を含む。)は、請負代金の完済を条件として乙に譲渡される。 2. 甲が本アプリの開発に利用した汎用性のあるライブラリ、フレームワーク又はオープンソースソフトウェアにかかる権利は前項の譲渡の対象外とし、甲はこれらについて乙が本アプリの利用に必要な範囲での利用権を確保する。 3. 甲は、著作権法第59条の著作者人格権を乙又は乙が指定する者に対して行使しない。
第6条(ストア審査対応) 1. 甲は、本アプリをApp Store及びGoogle Play(以下「各ストア」という。)の審査ガイドラインに適合する形で開発する。 2. 各ストアの審査に不通過となった場合、甲は不通過理由を分析し、合理的な範囲で無償にて修正対応を行う。ただし、乙の要望に起因する仕様が審査基準に反する場合、修正対応にかかる追加費用は別途協議する。 3. 各ストアへの申請及び審査対応窓口となるデベロッパーアカウントの名義は、別紙に定めるところによる。
第7条(OSアップデートへの対応) 甲は、開発完了後〇か月間、各ストアのOSの重大なアップデートにより本アプリの動作に支障が生じた場合、別紙に定める保守契約の範囲内で対応する。
第8条(プッシュ通知・位置情報等の取扱い) 甲は、本アプリがプッシュ通知、位置情報その他の端末情報を取得する機能を実装する場合、各ストアのプライバシーに関するガイドライン及び個人情報保護法上の同意取得の要件を満たすユーザーインターフェースを実装する。
第9条(契約不適合責任) 引き渡された本アプリに契約の内容に適合しない状態がある場合、乙は民法第562条から第564条までの規定に従い、甲に対し履行の追完、報酬減額、損害賠償又は契約の解除を請求することができる。当該請求は、乙が契約不適合を知った時から1年以内に甲に通知しなければならない。
第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行の過程で知り得た相手方の営業上の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第11条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し、保証する。
第12条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 開発会社向けの修正
A-1. ストア審査不通過時の免責範囲拡大
修正後:「各ストアの審査基準は予告なく変更されることがあり、甲の開発時点で審査基準に適合していた仕様が、審査時点で新基準に抵触した場合、甲は追加費用なしでの対応義務を負わない。」 一言解説: プラットフォーマーの審査基準変更という開発会社のコントロールが及ばない事情による不通過について、無償対応義務の範囲を限定する修正である。
A-2. デベロッパーアカウント名義の甲名義化
修正後:「本アプリの配信に用いるデベロッパーアカウントは甲の名義とし、乙は当該名義の使用について甲に協力する。契約終了時のアカウント名義変更に要する費用は乙の負担とする。」 一言解説: 複数の案件を扱う開発会社が自社アカウントで一元管理したい場合の修正であり、後述のB-1(発注者名義を求める修正)と対をなす。
B. 発注者向けの修正
B-1. デベロッパーアカウント名義を発注者に一本化
修正後:「本アプリの配信に用いるデベロッパーアカウントは乙の名義とする。甲は当該アカウントの開設及び申請作業に協力するにとどまり、審査対応終了後、乙が単独でアカウントを管理する。」 一言解説: 開発会社との契約終了後もアプリの運営を継続する必要がある発注者にとって、アカウント名義が開発会社にあると乗換えの障害となるため、自社名義化を求める修正である。
B-2. OSアップデート対応期間の延長
修正後:「甲は、開発完了後24か月間、各ストアのOSの重大なアップデートに起因する不具合について無償で対応する。」 一言解説: モバイルOSは年次で大型アップデートが行われるため、短期間の保守では複数回のOS更新に対応できない懸念があり、発注者側は対応期間の延長を求める傾向がある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、iOS・Android向けのネイティブアプリケーション又はクロスプラットフォームアプリケーションの新規開発を外部の開発会社に委託する場面で用いる。ゲームアプリのように継続的な運営・アップデートやマイルストン検収を伴う場合には、ゲーム開発委託契約書のようなより詳細な検収・権利処理条項を検討すべきであり、業務系Webシステムの開発には別途システム開発委託契約書を用いるのが一般的である。
根拠法令 本契約は、仕事の完成を目的とする請負契約(民法第632条)である。アプリのソースコード及びデザインは著作権法上のプログラムの著作物及び美術・デザインの著作物として保護され、その権利の譲渡は同法第61条に基づく契約により行われる。著作権を譲渡する場合、同法第61条第2項により、契約書中に「著作権法第27条(翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する権利)を譲渡する」旨を明記しなければ、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定される点に特に注意が必要であり、第5条第1項ではこれを明示している。また、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権等)は一身専属的な権利であって譲渡できないため(同法第59条)、実務上は不行使特約により対応する。ストア審査という民間プラットフォームの独自基準への対応は法令上の要求ではないが、審査不通過はアプリの配信自体を不可能にする重大な事業リスクであるため、契約上の責任分担を明確にしておくことが実務上極めて重要である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、著作権譲渡条項において著作権法第61条第2項所定の翻案権等・二次的著作物の利用権の譲渡が明記されておらず、開発会社に権利が留保されたままとなり、発注者による将来の機能追加・改変が制約される失敗がある。第5条第1項のように明記することが対策となる。第二に、デベロッパーアカウントの名義が開発会社のままとなっており、契約終了後にアプリの更新配信ができなくなる失敗がある。第6条第3項及びB-1のように名義の帰属を契約時点で明確にすることが対策となる。第三に、OSの大型アップデートによりアプリが正常に動作しなくなったにもかかわらず、保守契約の対象外として追加費用を請求され、発注者が想定外のコストを負担する失敗がある。第7条及びB-2のようにOSアップデート対応の期間と範囲を明確にすることが対策となる。
ストア審査基準は各プラットフォーマーにより随時変更されるため、開発時点の基準と申請時点の基準に齟齬が生じるリスクについて、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 開発範囲(対応OS・バージョン・機能一覧)を別紙で具体的に定めたか
- [ ] 著作権譲渡条項に著作権法第27条・第28条の譲渡を明記したか
- [ ] 著作者人格権の不行使特約を定めたか
- [ ] 利用するライブラリ・OSSの権利関係を確認したか
- [ ] デベロッパーアカウントの名義及び契約終了後の帰属を明確にしたか
- [ ] ストア審査不通過時の対応方針及び追加費用の要否を定めたか
- [ ] OSアップデート対応の期間及び範囲を定めたか
- [ ] プッシュ通知・位置情報取得機能の同意取得UIについて個人情報保護法上の要件を確認したか
- [ ] 契約不適合責任の通知期間を定めたか
- [ ] 検収の手続及び不合格時の修補プロセスを定めたか