パッケージソフトの障害修正やバージョンアップ提供を定める契約書。民法第656条の準委任を基礎に、著作権法第47条の3が認める複製の範囲も整理する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
ソフトウェア保守契約書
第1部: 書式本文
第1条(目的) 乙(ベンダー)は、甲(ユーザー)が使用する【対象ソフトウェア名】(以下「本ソフトウェア」という。)について、本契約に定める保守業務を提供する。
第2条(保守業務の内容) 乙が提供する保守業務は、次の各号のとおりとする。 一 本ソフトウェアの不具合の修正 二 本ソフトウェアのバージョンアップ版の提供 三 技術的な問合せへの対応 四 【その他業務】
第3条(業務の性質) 本契約に基づく乙の業務は準委任(民法第656条)とし、乙は善良な管理者の注意をもって(民法第644条)これを遂行するものとし、特定の成果の完成を約するものではない。
第4条(保守対象範囲) 保守対象は、乙が正式にリリースした本ソフトウェアの最新版及びその直前のメジャーバージョンとし、甲による無許可の改変が加えられた部分は保守対象から除外する。
第5条(複製及びバックアップ) 乙は、保守業務の実施に必要な範囲で本ソフトウェアを複製することができる。当該複製は、著作権法第47条の3が定める電子計算機における著作物の利用に付随する複製として行うものとし、保守業務の目的以外に利用してはならない。
第6条(問合せ対応時間) 乙は、【対応日・対応時間帯】において問合せを受け付け、【初動対応時間の目安】以内に第一次回答を行うよう努める。
第7条(バージョンアップの提供) 乙は、本ソフトウェアの機能改善又はセキュリティ対応のためのバージョンアップ版を提供する場合、事前に甲に通知し、甲の承認を得たうえで適用する。
第8条(保守料金) 保守料金は月額【金〇円】とし、甲は乙に対し【支払サイト】に従い支払う。
第9条(保守対象外の追加費用) 甲の個別カスタマイズ、旧バージョンの継続保守その他第4条の範囲を超える対応については、別途見積りのうえ甲乙協議して費用を定める。
第10条(免責) 乙は、次の各号に起因する不具合について責任を負わない。 一 甲又は第三者による無許可の改変又は誤使用 二 甲の指定した稼働環境の変更 三 第三者ソフトウェア又はミドルウェアの不具合
第11条(契約期間及び更新) 本契約の有効期間は【〇年〇月〇日】から【〇年〇月〇日】までとし、期間満了の【〇か月】前までにいずれの当事者からも解約の申出がない場合、同一条件で1年間自動更新する。
第12条(サポート終了(EOL)の予告) 乙は、本ソフトウェアのサポートを終了する場合、終了予定日の【〇か月】前までに甲に通知する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. ベンダー向け
A-1. 対応時間の努力義務化
修正条文例:「乙の問合せ対応時間はあくまで目安であり、通信障害、大規模障害発生時その他やむを得ない事由がある場合はこの限りでない。」 一言解説: 対応時間を確約と解釈されないよう努力義務であることを明確にし、遅延に対する債務不履行責任のリスクを下げる。
A-2. バージョンアップ強制適用条項
修正条文例:「セキュリティ上重大な脆弱性に対応するバージョンアップについては、甲の承認を要せず乙が適用できるものとし、乙は事後速やかに甲へ報告する。」 一言解説: 重大な脆弱性対応が承認待ちで遅延することを避けるための修正である。
B. ユーザー向け
B-1. 保守料金の据置期間の設定
修正条文例:「保守料金は、契約締結日から【〇年間】、消費者物価指数の急激な変動その他特段の事情がない限り改定しない。」 一言解説: 保守料金の恒常的な値上げリスクを一定期間抑えるための修正である。
B-2. サポート終了後の代替措置の義務化
修正条文例:「乙は、サポート終了に際し、甲の希望に応じて後継製品への移行支援又はソースコードの提供その他の代替措置を協議する。」 一言解説: サポート終了(EOL)によってユーザーが突然保守を受けられなくなる事態を避けるための移行支援条項である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、パッケージソフトウェアや自社開発システムについて、継続的な不具合修正やバージョンアップ提供を行う保守契約を締結する場面で用いる。個別のカスタマイズ開発や大規模な機能追加は請負契約(成果完成型)に該当することが多く、本書式のような準委任型の保守契約とは別立てで契約することが望ましい。
根拠法令 保守業務は、不具合の有無や発生時期が不確実であり、乙が特定の成果を確約することが困難な性質を持つため、実務上は準委任(民法第656条、第644条)として整理されることが多い。乙が保守業務のために本ソフトウェアを複製する行為は、原則として著作権者の許諾が必要となるが、著作権法第47条の3は、プログラムの著作物の複製物の所有者が、電子計算機における利用に必要な限度で複製・翻案できる旨を定めており、保守業務における一時的な複製もこの範囲内で整理されることが多い。ただし、同条はあくまで「複製物の所有者」による利用を前提とするため、ライセンス契約の内容によっては別途保守委託先への複製許諾を明記しておく必要がある。
実務でよくある失敗と対策 第一に、対応時間や初動対応時間を確定的な約束と誤解されるような表現で定め、遅延が生じた際に債務不履行として損害賠償を請求される失敗がある。A-1のように努力義務であることを明記することが対策となる。第二に、無許可のカスタマイズが加えられた部分について保守対象か否かを明確にせず、不具合発生時に責任範囲を巡って対立する失敗がある。第4条及び第10条のように保守対象範囲と免責事由を具体的に定める必要がある。第三に、サポート終了(EOL)の通知が直前になり、ユーザーが後継システムへの移行準備をする時間を確保できない失敗がある。第12条及びB-2のように予告期間と移行支援の枠組みを設けることが望ましい。
第四に、保守料金の改定条項を設けず、契約期間中に人件費や為替の変動があってもベンダーが料金を据え置かざるを得ず、結果として保守品質の低下を招く失敗もある。第11条の自動更新のタイミングに合わせて料金見直しの協議条項を組み込み、B-1のような据置期間と改定手続を明確にすることが対策となる。
保守業務の複製が著作権法上適法に行えるかは、ライセンス契約の内容や利用形態によって異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 保守業務の内容(不具合修正・バージョンアップ・問合せ対応等)を具体的に列挙したか
- [ ] 契約類型(準委任)と成果完成を約するものではないことを明記したか
- [ ] 保守対象範囲(バージョン、無許可改変部分の除外)を定めたか
- [ ] 保守目的の複製が著作権法第47条の3等の根拠に照らして適法な範囲か確認したか
- [ ] 対応時間・初動対応時間が努力義務であることを明確にしたか
- [ ] バージョンアップの適用方法(事前承認の要否)を定めたか
- [ ] 保守対象外の追加対応の費用負担ルールを定めたか
- [ ] 免責事由(無許可改変、稼働環境変更、第三者ソフト起因)を明記したか
- [ ] 契約期間・自動更新・解約予告期間を定めたか
- [ ] サポート終了(EOL)の予告期間及び移行支援の有無を定めたか