配偶者に全財産を相続させる内容を夫婦それぞれが作成する遺言書文例です。同時死亡や予備的な帰属先の定め方も示します。関連書式とあわせて使うことで手続の漏れを防げます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
夫婦相互遺贈の遺言書文例
第1部: 書式本文
【夫の遺言書】
遺言者【夫の氏名】は、次のとおり遺言する。
第1条(全財産の相続) 遺言者は、その死亡時に有する一切の財産を、妻【妻の氏名】(生年月日:【生年月日】)に相続させる。
第2条(予備的遺言) 前条の相続をさせるべき妻が、遺言者の死亡以前に死亡し、又は遺言者と同時に死亡したものと推定される場合には、遺言者は、次の者に前条の財産を相続させる。 長男【氏名】 2分の1 長女【氏名】 2分の1
第3条(生命保険金受取人に関する付言) 遺言者は、生命保険契約(保険会社【保険会社名】、証券番号【証券番号】)の死亡保険金受取人を妻【妻の氏名】に指定していることを確認し、変更の必要が生じた場合は速やかに手続を行うものとする。
第4条(遺言執行者の指定) 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。 住所【住所】 氏名【氏名】
第5条(付言事項) 遺言者は、長年連れ添った妻への感謝を込め、本遺言を作成する。子らにおいては、母の生活が安定するよう配慮してほしい。
以上 作成日【日付】 遺言者【夫の氏名】印
【妻の遺言書】
遺言者【妻の氏名】は、次のとおり遺言する。
第6条(全財産の相続) 遺言者は、その死亡時に有する一切の財産を、夫【夫の氏名】(生年月日:【生年月日】)に相続させる。
第7条(予備的遺言) 前条の相続をさせるべき夫が、遺言者の死亡以前に死亡し、又は遺言者と同時に死亡したものと推定される場合には、遺言者は、次の者に前条の財産を相続させる。 長男【氏名】 2分の1 長女【氏名】 2分の1
第8条(祭祀主宰者の指定) 遺言者は、夫【夫の氏名】が既に死亡している場合、長男【氏名】を祭祀主宰者に指定する。
第9条(遺言執行者の指定) 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。 住所【住所】 氏名【氏名】
第10条(付言事項) 遺言者は、家族が互いに助け合い、円満な生活を続けることを願う。
以上 作成日【日付】 遺言者【妻の氏名】印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 夫の遺言を作成する場面での書き換え
A-1 前婚の子がいる場合の予備的遺言の修正
第2条を次のとおり修正する。 「前条の相続をさせるべき妻が遺言者より先に死亡した場合には、遺言者は、前条の財産のうち2分の1を長男【氏名】に、2分の1を前婚の子【氏名】に相続させる。」 一言解説: 前婚の子と後婚の配偶者の子が併存する家族構成では、予備的遺贈先の記載を誤ると遺留分をめぐる紛争が生じやすいため、続柄を明確にする。
A-2 事業用資産を含む場合の切り分け
第1条に次の一文を追加する。 「ただし、遺言者が営む個人事業に係る事業用資産(屋号【屋号】)については、別途第【 】条の定めによる。」 一言解説: 全財産包括ではなく事業用資産のみ別扱いにしたい場合、財産の切り分けを条文上明確にしておくことで執行時の混乱を避けられる。
A-3 別居や離婚協議中に遺言を見直したい場合
第1条の末尾に次の一文を加える。 「なお、遺言者と妻が別居し、又は離婚協議を開始した場合には、遺言者は本遺言の内容を速やかに見直すものとする。」 一言解説: 離婚が成立すれば配偶者としての相続権は当然に失われるが、離婚協議中の別居段階では法律上なお配偶者であるため、心情や関係性の変化に応じて遺言を都度更新する前提を明記しておくと安心である。
B節 妻の遺言を作成する場面での書き換え
B-1 実家からの相続財産を特定財産としたい場合
第6条に次のただし書を加える。 「ただし、遺言者が実家から相続した不動産(所在【所在地】)については、遺言者の実姉【氏名】に遺贈する。」 一言解説: 妻側の固有財産(実家由来の財産)を夫の家系に移したくない意向がある場合、全財産包括の原則に対する例外を明記する必要がある。
B-2 再婚等により連れ子がいる場合の調整
第7条の予備的遺言部分を次のとおり修正する。 「前条の財産は、遺言者の連れ子である【氏名】に相続させる。」 一言解説: 夫婦双方に連れ子がいる家族構成では、予備的遺贈先を実子・連れ子のいずれにするか明確にしないと、法定相続分による分割に流れてしまう可能性がある。
B-3 夫の判断能力低下に備えた後見的配慮
第6条に次の一文を加える。 「妻は、夫の判断能力が低下した場合に備え、任意後見契約の締結について夫と事前に協議することを希望する。」 一言解説: 配偶者が高齢で今後の判断能力低下が懸念される場合、遺言の作成だけでなく任意後見制度の活用もあわせて検討しておくと、財産管理が滞る空白期間を防ぐことができる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、子のいない夫婦や、配偶者の生活保障を最優先したい夫婦が、互いに全財産を相続させる内容の遺言をそれぞれ作成する場面で使用する。夫婦の一方のみが遺言を作成すると、その者が先に死亡した場合にしか効力が発揮されず、他方が先に死亡した場合には従前の法定相続分による分割となるため、原則として夫婦双方が同時に作成することが望ましい。他方、内縁関係(婚姻届未提出)の場合は法定相続人に該当しないため、本書式の「相続させる」旨の文言ではなく「遺贈する」旨の文言に修正する必要がある点に注意する。
根拠法令として、民法第985条は遺言の効力が遺言者の死亡の時から生じる旨を定め、民法第994条は受遺者が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その遺贈は効力を生じない旨を定める。夫婦がほぼ同時期に死亡する事故や災害が生じた場合には、民法第32条の2の同時死亡の推定が適用される可能性があり、この場合も配偶者への遺贈(相続させる旨の遺言)は効力を生じないと解されるため、予備的な帰属先を定める条項(予備的遺言)を設けておくことが重要である。
よくある失敗として、第一に、夫婦の一方の遺言にのみ予備的遺言を設け、他方に設けなかったため、片方の遺言だけが機能しないという事態が挙げられる。対策として、夫婦双方の遺言に同内容の予備的遺言条項を対で設けることが望ましい。第二に、生命保険金の受取人指定と遺言の内容が矛盾しているにもかかわらず放置してしまう失敗がある。生命保険金は原則として受取人固有の財産であり遺産分割の対象外であるため、対策として、遺言に保険契約の確認事項を付言し、受取人変更の要否を都度点検する条項を設けるとよい。第三に、同時死亡が推定される場面を想定せず、配偶者のみを受益者とした結果、遺言全体が意図どおりに機能しなくなってしまう失敗がある。対策として、同時死亡の推定に関する条項を明記し、その場合の帰属先(子、兄弟姉妹等)まで具体的に定めておく。
なお、遺言者に子がなく、父母等の直系尊属が存命である場合には、直系尊属にも遺留分が認められる(民法第1042条)ため、配偶者に全財産を相続させる内容の遺言であっても、直系尊属から遺留分侵害額請求を受ける可能性がある点に留意が必要である。他方、遺言者に子も直系尊属もおらず、兄弟姉妹のみが法定相続人となる場合には、兄弟姉妹に遺留分は認められないため、配偶者への全部相続が比較的実現しやすい。いずれの場合も、家族構成によって遺留分の有無が大きく異なるため、個別の事案については専門家(弁護士・司法書士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 夫婦双方がそれぞれ遺言書を作成しているか(片方のみになっていないか)
- [ ] 同時死亡の推定が適用された場合の帰属先を条項に定めているか
- [ ] 内縁関係の場合、「相続させる」ではなく「遺贈する」の文言になっているか
- [ ] 生命保険金の受取人指定と遺言内容に矛盾がないか確認したか
- [ ] 前婚の子や連れ子がいる場合、予備的遺贈先の続柄を明記しているか
- [ ] 遺言執行者を夫婦それぞれの遺言に指定しているか
- [ ] 事業用資産や実家由来の財産など、包括の対象から除外すべき財産がないか確認したか
- [ ] 遺留分を有する子がいる場合、遺留分侵害の可能性を検討したか
- [ ] 作成日・署名押印など方式要件を夫婦双方の遺言で満たしているか
- [ ] 遺言書の保管方法(自筆証書遺言書保管制度の利用等)を検討したか
- [ ] 直系尊属や兄弟姉妹の存否など、遺留分の有無に影響する家族構成を確認したか
- [ ] 別居・離婚協議中など関係性の変化があった場合の遺言見直しルールを定めているか