創業者株式に権利確定期間を設ける合意書です。ベスティング期間、クリフ、早期退任時の買戻価格と手続を規定します。ひな型をもとに数分で自社仕様に調整できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
創業者株式のベスティング合意書
第1部: 書式本文
創業者株式のベスティング合意書
【会社名】(以下「会社」という)及び【投資家名(該当する場合)】(以下「投資家」という。投資家が存在しない場合は会社のみを当事者とする)と、【創業者氏名】(以下「創業者」という)は、創業者が保有し又は保有する予定の会社株式(以下「対象株式」という)に関し、以下のとおり合意書(以下「本合意書」という)を締結する。
第1条(目的) 本合意書は、対象株式について権利確定(ベスティング)の仕組みを設けることにより、創業者が会社の事業に長期的に関与するインセンティブを確保するとともに、創業者が早期に退任した場合の株式の取扱いを明確にすることを目的とする。
第2条(対象株式) 本合意書の対象となる株式は、創業者が保有する会社の普通株式【 】株(発行済株式総数【 】株に対する割合【 】%)とする(以下「対象株式」という)。
第3条(ベスティング期間及びクリフ) 1. 対象株式のベスティング期間は、権利確定開始日(【 】年【 】月【 】日。以下「ベスティング開始日」という)から起算して【4】年間とする。 2. ベスティング開始日から【1】年間(以下「クリフ期間」という)は権利が確定しないものとし、クリフ期間経過時に対象株式の【25】%が一括して権利確定する。 3. クリフ期間経過後は、残余の対象株式について、【月次・四半期】ごとに均等に権利が確定するものとし、ベスティング期間の満了時点で対象株式の全部の権利が確定する。 4. 権利確定済み(ベスト済み)の株式については、第5条に定める早期退任時の買戻しの対象とならない。
第4条(早期退任) 1. 「早期退任」とは、創業者が、ベスティング期間の満了前に、会社の取締役、代表取締役その他の会社の経営に関与する地位を辞任し、若しくは解任され、又は雇用契約若しくは委任契約が終了することをいう。 2. 早期退任が創業者の自己都合による場合、正当な理由のない解任による場合、及び会社に対する重大な背信行為による場合のいずれであるかにより、第5条の買戻価格の取扱いを区別することができる。区別する場合はその基準を別紙に定める。
第5条(早期退任時の買戻し) 1. 創業者が早期退任した場合、会社は、未権利確定(アンベスト)の対象株式の全部又は一部を、創業者に対し書面で通知することにより買い戻すことができる。 2. 買戻価格は、【アンベスト株式の払込価額(取得価額)】【直近の資金調達における1株当たり株価から一定のディスカウントを適用した価額】のいずれかとし、本合意書締結時点では【 】を採用する。買戻価格の算定基準は、税務上の時価評価との乖離が生じないよう、会社の顧問税理士等の助言を踏まえて設定するものとする。 3. 会社が買戻権を行使しない場合、投資家又は会社が指定する第三者がこれに代わって買い取ることができるものとする。 4. 買戻しの対価は、会社が別途定める支払方法(一括払い又は分割払い)により、買戻通知から【 】日以内に創業者に支払う。 5. 権利確定済み(ベスト済み)の株式は、本条による買戻しの対象としない。ただし、創業者と会社又は投資家との間で別途締結される株主間契約に基づく譲渡制限・先買権等の規定が適用される場合はこの限りでない。
第6条(買戻手続) 1. 会社が買戻権を行使する場合、早期退任の事実を知った日から【90】日以内に、創業者に対し書面で買戻しの意思表示を行うものとする。当該期間内に意思表示がない場合、会社は買戻権を放棄したものとみなす。 2. 創業者は、買戻しに応じるにあたり必要な株式譲渡承認手続(会社法137条に基づく譲渡承認請求等、対象株式が譲渡制限株式である場合)に協力するものとする。 3. 買戻しの実行にあたり、会社は取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)の承認その他会社法上必要な手続を履践する。
第7条(定款及び登記への反映) 1. 対象株式について、取得条項付株式(会社法107条1項3号、108条1項6号)として定款に定める場合、会社は本合意書締結後速やかに株主総会の特別決議その他必要な手続を経て定款変更を行う。 2. 定款に取得条項の定めがない場合、本条による買戻しは契約上の予約完結権又は創業者との個別合意に基づく株式譲渡として実行するものとし、その法的構成の違いにより必要な手続が異なることに留意する。
第8条(加速条項) 会社の支配権の変動(M&A、株式交換等)が生じた場合、対象株式の未権利確定部分について、【全部・一部( %)】が前倒しで権利確定する【・しない】ものとする。加速条項を設ける場合、その発動条件(シングルトリガー・ダブルトリガーの別)を別紙に定める。
第9条(表明事項) 創業者は、本合意書の内容及び対象株式の権利確定条件について理解したうえで本合意書を締結するものであり、本合意書の内容が税務上の取扱いに影響を及ぼす可能性があることを認識している。
第10条(協議及び準拠法) 本合意書に定めのない事項については当事者が誠実に協議する。本合意書は日本法に準拠し、紛争が生じた場合は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本合意書締結の証として本書【2・3】通を作成し、各当事者記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】
会社:【住所・名称・代表者名】㊞ 投資家(該当する場合):【住所・名称・代表者名】㊞ 創業者:【住所・氏名】㊞
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 会社・投資家側が有利になる修正
- クリフ期間及び買戻価格の投資家保護強化 第5条2項の買戻価格を「アンベスト株式の払込価額(取得価額)」に固定し、時価を選択肢から除外することで、早期退任者への過大な対価流出を防止する。あわせて第4条2項の区分に「重大な背信行為による退任の場合、買戻価格は【1円・払込価額の一部】とする」との懲罰的な低価格買戻し条項を追加することも考えられるが、著しく低い価格設定は公序良俗違反や労働法上の問題(退職に伴う不利益取扱い)を指摘されるリスクがあるため、慎重な検討を要する。
- 買戻権行使期間の延長 第6条1項の「90日以内」をより長期(例:180日)に延長し、資金繰りの都合等により買戻しの実行時期を柔軟に調整できるようにする。
- 加速条項を制限 第8条の加速条項を「シングルトリガー(M&A発生のみで即時加速)」ではなく「ダブルトリガー(M&A発生かつ創業者の非自発的退任)」に限定し、M&A時の未確定株式の希薄化リスクを抑える。
B節: 創業者側が有利になる修正
- 買戻価格に時価要素を組み込む 第5条2項を「直近の資金調達における1株当たり株価から【 】%を上限とするディスカウントを適用した価額」とし、単純な取得価額固定ではなく一定の時価連動性を持たせることで、企業価値向上への貢献に見合った対価を確保する。
- 正当理由のない解任時の保護 第4条2項に「会社又は投資家の一方的な都合による解任(正当な理由のない解任)の場合、当該解任時点で未権利確定部分の全部が権利確定したものとみなす」とのグッドリーバー条項を追加し、不当解任リスクから創業者を保護する。
- クリフ・ベスティング条件の緩和 第3条2項のクリフ期間を「6か月」に短縮し、早期の権利確定割合を高めることで、比較的早期の離脱であっても一定の対価を確保できるようにする。
- 加速条項の獲得 第8条の加速条項について「ダブルトリガーが成立した場合、未権利確定部分の全部を即時加速する」と明記し、M&A後に望まない継続雇用を強いられるリスクを回避する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面の解説
本書式は、創業者が保有する株式に権利確定の仕組みを導入する場面、典型的にはシード・シリーズA等の資金調達に際して投資家から要求される場合や、複数創業者間で早期離脱のリスクに備えて自主的に導入する場面で用いる。既に発行済みの株式に事後的に制限を付す場合(いわゆる「リバース・ベスティング」)は、株主である創業者本人の同意が不可欠であり、一方的に会社が制限を課すことはできない点に注意する。設立前でこれから発行する株式に予めベスティング条件を付す場合は、発行時点で取得条項を定款に定めることも選択肢となる。単なる従業員向けストックオプションの権利確定条件については、別途ストックオプション関連の書式を用いるべきであり、本書式をそのまま流用すべきではない。
根拠法令の解説
創業者株式に取得条項を付す法的構成としては、会社法107条(株式の内容についての特別の定め)に基づき、全部の株式を取得条項付株式とする方法、又は同法108条に基づき種類株式として取得条項付株式を発行する方法がある。取得条項付株式とする場合、定款にその内容(取得事由、取得の対価等)を定める必要があり、株主総会の特別決議(会社法309条2項11号等)を要する場合がある。対象株式が譲渡制限株式である場合、買戻しに伴う株式の移転についても会社法137条(株式の譲渡の承認の請求)に定める譲渡承認手続への留意が必要となる場合がある。また、税務面では、著しく低い価額での株式の取得・譲渡は所得税法上のみなし譲渡課税(所得税法59条、贈与等の場合の譲渡所得等の特例)や、受贈者側の一時所得・贈与税課税の問題を生じさせる可能性があるため、買戻価格の算定にあたっては税務上の時価評価との整合性に十分留意する必要がある。
よくある失敗と条項上の対策
- 買戻価格算定基準の欠如による税務否認リスク。買戻価格を「時価」とのみ記載し、算定方法を具体化しないまま契約を締結すると、実際の買戻時に評価額の妥当性を巡って争いが生じ、税務上も低額譲渡と否認されるリスクがある。第5条2項のように、取得価額連動か時価連動かを明確にし、税理士等の助言を踏まえて設定する旨を明記することが望ましい。
- クリフ未設定による早期離脱者への過大な株式付与。クリフを設けずに設立直後から権利確定が進行する設計にすると、設立後数か月で離脱した創業者にも相応の株式が確定してしまい、残存創業者や投資家との公平性を欠く。第3条のように、1年程度のクリフを設定し、クリフ期間内の離脱時には未確定株式の全部を買戻対象とすることが一般的な実務慣行である。
- 取得条項の定款反映漏れ。契約書上でベスティング・買戻しの合意をしたにもかかわらず、定款に取得条項を反映しておらず、実際に買戻しを実行しようとした際に会社法上の手続的根拠が不十分となるケースがある。第7条のように、定款変更の要否を確認し、必要な場合は速やかに手続を履践することが重要である。
なお、ベスティングに伴う株式取得の税務上の適正性及び会社法上の手続の詳細は、会社の資本構成や発行済株式の内容により結論が異なるため、個別事案については弁護士・税理士等の専門家に確認することが必要である。
第4部: 使用前チェックリスト
- ベスティング開始日を明確に定めているか(創業日、資金調達実行日等)。
- ベスティング期間(一般的な目安は4年)及びクリフ期間(一般的な目安は1年)を明記しているか。
- クリフ経過時の一括確定割合及びクリフ後の確定サイクル(月次・四半期)を定めているか。
- 早期退任の定義(辞任・解任・契約終了等)を具体的に記載しているか。
- 自己都合退任・正当理由のない解任・背信行為による退任を区別する場合、その基準を定めているか。
- 買戻価格の算定基準(取得価額基準か時価基準か)を明確にし、税務上の時価との整合性を検討したか。
- 買戻権の行使期間及び不行使の場合の効果(投資家等による代替買取りの可否)を定めているか。
- 買戻対価の支払時期・方法を定めているか。
- 対象株式が譲渡制限株式である場合、会社法137条の譲渡承認手続との関係を確認したか。
- 取得条項付株式として定款に反映する必要の有無を確認し、必要な場合は株主総会特別決議等の手続を予定しているか。
- M&A等の支配権変動時の加速条項(シングルトリガー・ダブルトリガー)の要否を検討したか。
- 権利確定済み(ベスト済み)株式が買戻対象から除外されることを明記しているか。