ソースコードを第三者機関に寄託し倒産時等に開示する三者契約。著作権法第21条以下の複製権処理と、破産法上の解除リスクに備えた開示事由を規定。

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ソースコードエスクロー契約書

第1部: 書式本文

ソースコードエスクロー契約書

【ユーザー名】(以下「甲」という。)、【ベンダー名】(以下「乙」という。)及び【エスクロー機関名】(以下「丙」という。)は、乙が甲に提供するソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)のソースコード等を丙に寄託し、一定の事由が生じた場合に甲に開示する仕組み(以下「本エスクロー」という。)について、三者契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(目的) 本契約は、甲が本件ソフトウェアの継続利用に必要なソースコード等(以下「寄託物」という。)を、乙の協力が得られない場合でも入手できるよう、丙を寄託者兼開示管理者として関与させる枠組みを定める。

第2条(寄託物の範囲) 寄託物は次の各号のとおりとする。 一 本件ソフトウェアのソースコード一式 二 ビルド手順書及びビルド環境情報 三 データベーススキーマその他の設計文書 四 【 】(その他必要に応じ指定するもの)

第3条(寄託行為に伴う複製権処理) 1 乙は、寄託物について著作権法上の著作権(同法第21条の複製権を含む。)を有し、又は正当な権原に基づき本契約の履行に必要な範囲でこれを利用する権限を有することを表明する。 2 乙は丙に対し、寄託物を本契約の履行(受領、保管、複製、更新及び開示)のため必要な範囲で複製することを許諾する。丙による複製は本項の許諾に基づく適法な利用として行われる。 3 丙は、寄託物を本エスクローの目的以外に使用し、又は甲及び乙以外の第三者に開示してはならない。

第4条(寄託の実施及び更新) 1 乙は、本契約締結後【 】日以内に、初回の寄託物を丙が指定する方法で丙に引き渡す。 2 乙は、本件ソフトウェアの内容に重要な変更(バージョンアップ、大規模な機能追加等)が生じた場合、変更後【30】日以内に変更後の寄託物を丙に追加又は差し替えの方法で寄託する(以下「更新寄託義務」という。)。 3 丙は、寄託物受領の都度、甲及び乙に受領証(内容物一覧を含む。)を交付する。 4 甲は丙に対し、寄託物の完全性について年【1】回を上限に検証(以下「検証テスト」という。)を求めることができ、費用は【甲/乙/甲乙折半】の負担とする。

第5条(開示事由) 丙は、次の各号のいずれかの事由(以下「開示事由」という。)が生じ、甲から書面で開示請求を受けた場合、第6条の手続に従い寄託物を甲に開示する。 一 乙について破産、民事再生、会社更生その他これらに準ずる倒産手続の申立てがあったとき 二 乙が事業を廃止し、又は保守・サポート業務を正当な理由なく放棄したとき 三 乙が別途の保守契約上の重大な義務違反を犯し、相当期間の催告後も是正されないとき 四 その他甲乙間で別途合意する事由

第6条(倒産手続における留意事項) 1 乙について破産手続が開始された場合、破産法第53条は双方未履行の双務契約について破産管財人に解除又は履行の選択権を認めており、甲乙間のライセンス契約又は保守契約が解除される可能性がある。 2 甲及び乙は、丙からの開示請求権が、甲乙間の別途の契約(ライセンス契約等)の存続とは独立した本契約固有の権利であることを確認する。 3 丙は、開示請求を受けた場合、開示事由の存否について乙に【10】営業日の期間を定めて意見を求め、意見提出がない場合又は事由の存在を合理的に認める場合、期間経過後に寄託物を甲に開示する。

第7条(開示後の利用) 1 甲は、寄託物の開示を受けた場合、本件ソフトウェアの保守、修正及び継続利用に必要な範囲でのみこれを使用できる。 2 甲は、開示された寄託物を、乙の書面承諾がない限り利用目的を超えて第三者への提供、再許諾又は販売等に用いてはならない。 3 前二項の定めは、開示が乙の著作権その他の知的財産権を消滅させるものではないことを前提とする。

第8条(丙の善管注意義務) 1 丙は、寄託物の保管、複製、更新管理及び開示に関する事務を善良な管理者の注意で行う。 2 丙は、寄託物を権限のない第三者からアクセスされないよう合理的な安全管理措置を講じる。 3 丙は、故意又は過失により寄託物を滅失、毀損し、又は誤って開示したことで甲又は乙に損害を生じさせた場合、これを賠償する。ただし責任範囲は年間手数料の【 】年分相当額を上限とする。

第9条(費用) 丙への手数料(初期費用及び年間維持費用)は【甲/乙/甲乙折半】が負担し、額及び支払方法は別紙【手数料明細】に定める。

第10条(有効期間) 本契約の有効期間は【 】年【 】月【 】日から、甲乙間のライセンス契約又は保守契約が終了する日までとする。ただし、甲乙丙が別途合意した場合はこの限りでない。

第11条(秘密保持) 甲、乙及び丙は、本契約の履行を通じて知り得た他の当事者の秘密情報(寄託物を含む。)を、事前の書面承諾なく第三者に開示・漏えいしてはならない。

第12条(協議) 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項については、甲乙丙誠実に協議のうえ解決する。

以上、本契約締結の証として本書3通を作成し、甲乙丙記名押印のうえ各自1通を保有する。

【 】年【 】月【 】日

甲(ユーザー) 住所: 名称: 代表者: 印

乙(ベンダー) 住所: 名称: 代表者: 印

丙(エスクロー機関) 住所: 名称: 代表者: 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. ユーザー向けの修正例

開示事由の拡張 第5条に次の一号を追加する。 「五 乙が重大な脆弱性について、甲の通知後合理的な期間内に修正パッチを提供せず、甲の事業に重大な支障が生じるおそれがあるとき」 一言解説:倒産・事業廃止だけでなく、セキュリティ対応の懈怠も開示事由に含め実効性を高める。

検証テストの頻度強化 第4条第4項を次のように修正する。 「甲は丙に対し、検証テストを年【2】回まで求めることができ、費用は乙の負担とする。」 一言解説:寄託物がビルド不能な状態で放置されるリスクを防ぐため、頻度を増やし費用をベンダー負担とする。

B. ベンダー向けの修正例

開示事由該当性を争う機会の確保 第6条第3項を次のように修正する。 「丙は乙に対し【20】営業日の期間を定めて意見を求め、乙が不存在を疎明する資料を提出した場合、合意又は裁判所若しくは仲裁機関の判断が示されるまで開示を留保する。」 一言解説:安易な開示請求による営業秘密流出を防ぐため、意見陳述の機会と留保の仕組みを確保する。

開示後利用範囲の限定強化 第7条第2項に次の一文を追加する。 「甲は、開示された寄託物を用いて乙の競合品を開発し、又は第三者に開発させてはならない。」 一言解説:保守目的の開示がベンダーの競合製品開発に利用されることを防ぐ競業避止的な限定を付す。

C. エスクロー機関向けの修正例

責任範囲の明確化 第8条第3項を次のように修正する。 「丙は寄託物の内容について保証せず、義務は保管・複製・開示事務の履行に限られる。損害賠償責任は故意又は重過失がある場合に限り、年間手数料の1年分相当額を上限とする。」 一言解説:エスクロー機関は技術的内容を検証する専門性を通常有しないため、内容面の保証責任を負わない旨を明記する。

開示手続の免責 第6条に次の一項を追加する。 「4 丙は、開示事由の存否について合理的な判断を行った場合、結果的に誤りであっても故意又は重過失がない限り損害賠償責任を負わない。」 一言解説:開示事由の存否は難しい法的評価を伴うため、エスクロー機関に過大な負担を負わせない免責規定である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

この書式を使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、ユーザーがベンダー独自開発のソフトウェアに業務上重要な依存をしており、倒産・事業撤退時に自らソースコードを入手できなくなるリスクをヘッジしたい場合に用いる。ユーザー自身が著作権を保有するカスタム開発では入手に支障がないため必要性は低い。また、中立的な第三者機関(丙)を選定せずベンダーの関連会社等を寄託先とすると独立性が担保されず、実効性が疑わしくなるため避けるべきである。

根拠法令 寄託物の複製・保管という行為自体が著作権法第21条の複製権の対象となりうるため、乙から丙への複製許諾を契約上明確にする必要がある。倒産時の開示事由については、破産法第53条が双方未履行双務契約について破産管財人の解除権・履行選択権を定めており、乙の破産により甲乙間のライセンス契約が解除されても開示請求権が独立して機能するよう設計することが重要である。

実務でよくある失敗と対策 第一に、初回寄託のみを行い以後の更新寄託を怠るケースが多い。第4条の更新寄託義務と検証テストで、寄託物が最新かつビルド可能な状態にあることを定期確認することが対策となる。第二に、開示事由を「乙の倒産」のみに限定し、実質的にサポートを放棄している中間的事態に対応できないケースがある。第5条第二号の事業放棄事由を含めることが有効である。第三に、エスクロー機関の責任範囲があいまいなケースがある。第8条のように善管注意義務の対象を事務処理に限定することが望ましい。

破産手続下の帰趨や開示事由の該当性は事案で異なるため、専門家に確認のうえ契約設計を行うことが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 寄託物の範囲(ソースコード、ビルド手順書、設計文書等)が具体的に列挙されているか
  • [ ] 乙から丙への複製許諾が著作権法第21条を踏まえて明記されているか
  • [ ] 更新寄託義務の発生条件・期限、検証テストの頻度・費用負担が定められているか
  • [ ] 開示事由が倒産だけでなく事業放棄等も含めて定められているか
  • [ ] 破産法第53条の双方未履行双務契約の解除リスクへの対応が整理されているか
  • [ ] 乙が開示事由の存否について意見を述べる機会が確保されているか
  • [ ] 開示後の利用範囲(保守目的限定、競業避止等)が明記されているか
  • [ ] 丙の善管注意義務及び責任の上限が明記されているか
  • [ ] 手数料の負担割合・支払方法が明確か
  • [ ] 有効期間及び別契約との連動関係が明記されているか