既存システムから新環境への移行と保守引継ぎを定める契約書。民法第656条の準委任と経済産業省モデル契約の移行支援条項を踏まえ責任分界点を明確化。

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システム移行・引継ぎ契約書

第1部: 書式本文

第1条(目的) 甲(ユーザー)、乙(旧ベンダー)及び丙(新ベンダー)は、甲が現に運用する【対象システム名】について、乙から丙への移行及び保守引継ぎ(以下「本移行」という。)を円滑に実施するため、本契約を締結する。

第2条(移行範囲) 本移行の対象は、次の各号に定めるものとする。 一 ソースコード、設計書その他の技術資料一式 二 稼働環境の設定情報(サーバ構成、ミドルウェア設定、パラメータ等) 三 運用マニュアル、障害対応履歴及び保守契約に関する記録 四 本番データベース及びログの引継ぎ(範囲は別紙による)

第3条(乙の協力義務) 乙は、本移行の完了まで、丙及び甲からの合理的な照会に対し、善良な管理者の注意をもって(民法第644条)、誠実に情報提供及び質問対応を行う。乙の協力業務は準委任(民法第656条)の性質を有し、成果物の完成を約するものではない。

第4条(移行スケジュール) 移行作業は別紙工程表のとおり実施し、甲乙丙は各マイルストーンにおいて完了確認書を取り交わす。

第5条(責任分界点) 移行期間中に生じた不具合等について、切替日を基準として、切替日前に生じた原因に起因するものは乙が、切替日後に生じた原因に起因するものは丙が、それぞれ責任を負う。原因の切分けが困難な場合は、甲乙丙が協議のうえ分担を定める。

第6条(引継ぎ費用) 乙が本移行のために行う協力業務の対価は、【固定額/工数精算】とし、甲がこれを負担する。

第7条(知的財産権の帰属) 対象システムに関する著作権その他の知的財産権の帰属は、原契約(甲乙間の既存契約)の定めによるものとし、本契約によりこれを変更するものではない。丙は、引継ぎを受けた資料を本移行及びその後の保守業務の目的以外に利用してはならない。

第8条(秘密保持) 甲乙丙は、本移行を通じて知り得た相手方の営業秘密及び技術情報を、本移行及び保守業務の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。本条の義務は契約終了後【3年間】存続する。

第9条(旧環境の停止・データ消去) 丙への切替完了後、乙は甲の指示に基づき旧環境上のデータを消去し、消去完了報告書を甲に提出する。

第10条(契約不適合責任の期間制限) 移行完了後に発見された引継ぎ資料の不備については、民法第637条を踏まえ、完了確認書取り交わし後【〇か月】以内に乙に通知したものに限り、乙は無償で補完する。

第11条(協議事項) 本契約に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙丙が誠実に協議して定める。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 旧ベンダー向け

A-1. 協力義務の範囲を有償の追加工数に限定する修正

修正条文例:「乙の協力業務は、月間【〇時間】を上限とする無償対応の範囲とし、これを超える対応は甲乙間で別途合意する工数単価により有償とする。」 一言解説: 旧ベンダーが無償対応に際限なく引きずられることを防ぐため、上限時間と超過時の有償化を明記する。

A-2. 免責の明確化

修正条文例:「乙は、丙が引継ぎ資料に基づき構築した新環境の稼働性能及び瑕疵の有無について、一切の責任を負わない。」 一言解説: 新環境の構築品質は丙の責任範囲であることを明示し、旧ベンダーが二重の責任を負うリスクを避ける。

B. 新ベンダー向け

B-1. 引継ぎ資料の正確性に関する表明保証

修正条文例:「甲及び乙は、丙に提供する引継ぎ資料が現行システムの実態と相違ないことを表明し、相違が判明した場合の追加費用は甲の負担とする。」 一言解説: 引継ぎ資料の誤りに起因する手戻りコストを新ベンダーが一方的に負担しないための修正である。

B-2. 移行完了基準の客観化

修正条文例:「移行完了の判定は、別紙に定める受入テスト項目の合格をもって行い、甲は結果通知後【5営業日】以内に承認又は理由を付した否認を行う。」 一言解説: 完了の認定が曖昧なまま責任分界点が動かない事態を防ぐため、客観的な受入基準とみなし承認を設ける。

C. ユーザー向け

C-1. 移行期間中のサービス継続保証

修正条文例:「乙及び丙は、移行期間中、甲の本番業務に支障が生じないよう相互に調整し、切替に伴う計画停止時間は事前に甲の承認を得た範囲に限る。」 一言解説: ユーザーにとって最大の懸念である業務停止リスクを、事前承認制で統制する修正である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、既存システムの保守ベンダーを変更するにあたり、旧ベンダーから新ベンダーへ技術情報や運用ノウハウを引き継ぐ三者間の枠組みを整える場面で用いる。単なる新規開発契約や、旧ベンダーとの契約がまだ有効に存続し引継ぎ自体に旧ベンダーの協力が不要なケース(新ベンダーが独自に再構築する場合)には適さない。

根拠法令 乙の協力業務は、成果物の完成を目的とする請負(民法第632条)ではなく、事務処理を目的とする準委任(民法第656条、第644条)に整理するのが実務上一般的である。経済産業省が公表する「情報システム・モデル取引・契約書」及びその改訂版では、既存システムの現行機能の維持・改善を前提とした移行支援契約について、責任分界点の明確化と協力義務の限定が推奨されている。また、引継ぎ資料に個人データが含まれる場合は個人情報保護法第27条の第三者提供規制及び第25条の委託先監督義務との関係も整理する必要がある。

実務でよくある失敗と対策 第一に、旧ベンダーの協力義務の範囲を定めずに契約したため、旧ベンダーが際限のない無償対応を求められ紛争化する失敗がある。A-1のように上限時間と超過時の有償化を明記することが有効である。第二に、責任分界点を「切替日」とだけ定め、切替日前後にまたがる不具合の原因切分けで揉める失敗がある。第5条のように協議による分担のルールをあらかじめ定めておく必要がある。第三に、引継ぎ資料の正確性について何ら手当てせず、資料の誤りに起因する構築コスト増を新ベンダーが一方的に負担する失敗がある。B-1のような表明保証条項が対策となる。

個別の移行方式や責任分界の設計は対象システムの構成によって大きく異なるため、契約締結前に個別事案として専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 移行対象範囲(コード・設定・データ・ドキュメント)を別紙で具体的に特定したか
  • [ ] 旧ベンダーの協力義務の性質(準委任)と対価の有無・上限を明記したか
  • [ ] 切替日前後の責任分界点と原因切分けが困難な場合の分担ルールを定めたか
  • [ ] 移行完了の判定基準(受入テスト等)を客観的に定めたか
  • [ ] 知的財産権の帰属が原契約と矛盾しないことを確認したか
  • [ ] 秘密保持義務の存続期間を定めたか
  • [ ] 旧環境のデータ消去及び消去証明の手続を定めたか
  • [ ] 引継ぎ資料に個人データが含まれる場合の取扱いを個人情報保護法に沿って整理したか
  • [ ] 移行期間中の業務停止・計画停止に関する事前承認手続を定めたか
  • [ ] 移行完了後に発見された不備への対応期間・費用負担を明記したか