建替えや自己使用を理由に借家人へ立退料を支払い退去を求める合意書。借地借家法第28条の正当事由を補完する要素として、立退料の額、支払時期、明渡条件を定める。
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立退料支払合意書
第1部: 書式本文
【貸主商号・氏名】(以下「甲」という。)と【借主商号・氏名】(以下「乙」という。)は、下記物件に係る建物賃貸借契約(以下「原契約」という。)につき、甲が【建替え計画/自己使用の必要性】を理由として原契約の更新拒絶又は解約申入れを行うに際し、借地借家法第28条にいう正当事由を補完する要素として立退料を支払うことを内容として、次のとおり合意する(以下「本合意書」という。)。
第1条(対象物件) 本合意書の対象物件は【所在地】【建物名・号室】(以下「本物件」という。)とする。
第2条(原契約の終了) 甲及び乙は、原契約が令和【 】年【 】月【 】日をもって、甲乙間の合意により終了することを確認する。
第3条(立退きの理由) 甲は、本物件について【老朽化に伴う建替え計画/甲自身又は甲の親族による使用の必要性】があることを理由として乙に立退きを求めるものであり、本合意書に定める立退料は、借地借家法第28条にいう正当事由の判断要素のひとつとして、乙が立退きにより被る営業上・生活上の不利益を補償する趣旨で支払われるものであることを甲乙間で確認する。
第4条(明渡期限) 乙は、令和【 】年【 】月【 】日限り(以下「明渡期限」という。)、本物件内の乙の所有物一切を収去し、原状回復のうえ本物件を甲に明け渡す。
第5条(立退料の額) 甲は、乙に対し、本合意に基づく立退料として金【 】円(内訳: 移転実費相当分金【 】円、営業補償相当分金【 】円、借家権相当分金【 】円)(以下「本件立退料」という。)を支払う。
第6条(立退料の支払時期及び方法) 1. 甲は、本件立退料のうち金【 】円を本合意書締結日から【 】日以内に、乙が指定する口座に振り込む方法により支払う。 2. 甲は、残額金【 】円を、乙による本物件の明渡し完了確認後【 】日以内に支払う。
第7条(原状回復費用との関係) 本件立退料は、乙が負担すべき原状回復費用及び未払賃料等を清算した後の金額として定めるものであり、甲は本件立退料から当該費用等を別途控除しない。
第8条(明渡し不履行の場合の措置) 1. 乙が明渡期限までに本物件の明渡しを完了しないときは、甲は第6条第2項の残額の支払を明渡し完了まで留保することができる。 2. 前項の場合、乙は明渡期限の翌日から明渡し完了日まで、1か月あたり金【 】円(1日あたりの日割計算による。)の使用損害金を甲に支払う。
第9条(移転費用の実費精算) 甲は、乙の求めに応じ、引越業者の見積書、内装工事費の見積書その他移転に要する実費を証する資料の提示を乙に求めることができ、実費が第5条の移転実費相当分を著しく超える場合、双方協議のうえ増額の要否を検討する。
第10条(営業補償の算定根拠) 第5条の営業補償相当分は、乙が本合意書締結日以前【 】か月間の平均売上及び利益率を基礎として算定したものであることを甲乙間で確認し、乙は当該算定根拠となった資料(確定申告書、決算書等)を甲に提出したことを確認する。
第11条(不動産会社の関与) 本物件の仲介又は立退交渉に関与した【不動産会社商号】は、甲乙間の本合意書締結にあたり、条件の説明及び書面の確認について仲介者としての説明義務を尽くしたことを確認する。
第12条(公租公課の取扱い) 本件立退料に係る税務上の取扱い(譲渡所得、一時所得等の区分)については、乙が自らの責任において確認するものとし、甲は当該取扱いについて保証しない。
第13条(清算条項) 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、原契約に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。
第14条(合意管轄) 本合意書に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(貸主) 住所:【 】 氏名:【 】 印 乙(借主) 住所:【 】 氏名:【 】 印 立会人(不動産会社) 商号:【 】 宅地建物取引業免許番号:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 貸主向け
A-1 第6条の修正例 「甲は、本件立退料の全額を、乙による本物件の明渡し完了及び鍵の返還確認後【 】日以内に一括して支払う。」 一言解説: 貸主にとっては、立退料を先払いした後に乙が明渡しを履行しないリスクを避けたいという要請が強い。全額後払い方式に変更することで、支払と明渡しの牽連性を強め、不履行リスクを抑えることができる。
A-2 第3条の修正例 「甲は、本物件の建替え計画について、設計図面、建築確認申請予定時期その他計画の具体性を示す資料を乙に開示したことを確認する。」 一言解説: 正当事由の判断において、建替え計画の具体性・実現可能性は重要な考慮要素とされる。貸主側では、計画が単なる名目ではないことを示す資料を合意書作成段階から整理し、後日の紛争(実際には建替えが行われなかった等)に備えることが望ましい。
B節: 借主向け
B-1 第10条の修正例 「営業補償相当分の算定にあたっては、乙が営業を再開するまでに要する休業期間中の逸失利益を含むものとし、休業期間は【 】か月と見積もる。」 一言解説: 借主(特に事業用テナント)にとっては、移転先での営業再開までの空白期間の損失が重大な不利益となる。移転実費のみならず休業損失を明記した算定根拠を残しておくことで、立退料の水準についての交渉材料となる。
B-2 第8条の修正例 「乙が明渡期限までに明渡しを完了できない場合であっても、その遅延が甲の残額支払遅延又は移転先物件の引渡遅延等、乙の責めに帰することのできない事由による場合は、乙は使用損害金の支払を要しない。」 一言解説: 立退きの場面では、貸主側の支払遅延や移転先の事情により明渡しが遅れることも少なくない。借主に帰責事由がない遅延について使用損害金の発生を免除する規定を設けることで、一方的に不利益を負わない内容とする。
C節: 不動産会社向け
C-1 第11条の修正例 「不動産会社は、甲乙双方に対し、本合意書締結前に立退料の算定根拠及び明渡期限の法的意味について書面で説明を行い、乙から当該説明を受けた旨の確認書を取得する。」 一言解説: 不動産会社が仲介者として関与する場合、宅地建物取引業法第35条の重要事項説明とは別に、立退交渉特有の説明を尽くしたことを記録化しておくと、後日の説明義務違反の主張を防ぎやすい。
C-2 第9条の修正例 「不動産会社は、乙の移転先物件の紹介及び移転実費の見積り取得について協力し、取得した見積書の写しを甲乙双方に提供する。」 一言解説: 移転先探しにも関与する場合、実費算定の透明性を高めるため、見積書の共有を仲介者の役割として明記すると、金額をめぐる甲乙間の対立を緩和しやすい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、建物賃貸借契約について貸主が建替えや自己使用の必要性を理由に借主へ立退きを求める場面のうち、当事者間の協議により立退料の支払と明渡し条件について合意に至った場合に使用する。借地借家法第28条は、建物の賃貸人による更新拒絶又は解約申入れには正当事由が必要であるとし、その判断にあたっては建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、財産上の給付(立退料)の申出を考慮要素として掲げている。すなわち立退料は、それ自体で正当事由を創出するものではなく、他の事情と併せて正当事由の充足を補完する要素と位置づけられる点に注意が必要である。したがって、貸主の使用の必要性がほとんど認められない事案において立退料の額のみで正当事由を補おうとする合意書は、後日その前提を欠くものとして紛争化するおそれがある。
実務でよくある失敗の第一は、立退料の内訳(移転実費、営業補償、借家権相当額等)を示さず総額のみを記載してしまうことである。内訳が不明確だと、後日、乙が「本来受け取るべき額より低い」と主張したり、税務上の区分(譲渡所得か一時所得か等)が判然としないといった問題が生じる。第5条・第10条のように算定根拠を明記し、資料の提出・保管を条項化することが対策となる。第二に、明渡しと立退料支払の先後関係を曖昧にしたまま合意書を作成し、乙が立退料を受領しながら明渡しを履行しない、又は甲が明渡し後に残額を支払わないといった一方の債務不履行が生じる例がある。第6条・第8条のように、支払を複数回に分け、明渡し完了を後払い部分の条件とする牽連関係を明記することが望ましい。第三に、事業用テナントの立退きにおいて、休業期間中の逸失利益や什器備品の移転費用といった営業補償の要素を十分に検討せず、後日、乙から増額請求を受ける例がある。営業補償の算定期間や基礎資料を条項上に残し、双方が合意した根拠を明確にしておくことが有効である。
立退料の額に相場や算定式が法定されているわけではなく、個別の事案ごとに使用の必要性の程度、契約の経過年数、借主の営業実態等を総合的に考慮して当事者間で合意される性質のものである。正当事由の充足性や立退料の適正な水準、税務上の取扱いについては、事案の具体的な事実関係に応じて弁護士・税理士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 貸主の使用の必要性(建替え計画又は自己使用の理由)を裏付ける資料を確認した
- [ ] 立退料の内訳(移転実費、営業補償、借家権相当額等)を項目ごとに算定したか確認した
- [ ] 営業補償の算定根拠となる乙の売上・利益資料の提出を受けたか確認した
- [ ] 立退料の支払時期を明渡し完了との関係で牽連させたか確認した
- [ ] 明渡期限を、乙の移転先確保に要する現実的な期間を踏まえて設定した
- [ ] 原状回復費用・未払賃料等が立退料の算定に含まれているか、別途精算とするか明確にした
- [ ] 明渡し不履行時の使用損害金の要否・金額・免責事由を検討した
- [ ] 不動産会社が関与する場合、その役割(説明・見積り取得等)と宅地建物取引業法上の説明義務との関係を確認した
- [ ] 立退料の税務上の取扱い(所得区分)について乙に確認を促す文言を入れた
- [ ] 合意管轄裁判所及び本合意書締結後の異議申立て手段の有無を確認した