退職勧奨に際して退職金の上乗せや再就職支援など条件を書面で提示する様式です。強要と評価されないための説明文言を備えます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
退職勧奨提案書(条件提示)
第1部: 書式本文
退職勧奨に関するご提案について
【令和〇年〇月〇日】
【対象労働者】〇〇 殿
株式会社〇〇 代表者【代表取締役 〇〇】
貴殿におかれましては、平素より業務にご尽力いただき御礼申し上げる。この度、下記の事情及び条件により、貴殿に対して合意退職についてご提案申し上げる。本提案は退職を強制するものではなく、これに応じるか否かは貴殿の自由な意思による判断に委ねられていることを、あらかじめ明記する。
第1条(本提案の趣旨) 会社は、下記第2条記載の事情に基づき貴殿に合意退職を勧奨するものであり、本提案は労働契約を一方的に終了させる解雇の意思表示ではなく、退職を働きかける事実行為にとどまることを確認する。
第2条(勧奨に至った理由) 会社は【事業縮小・部門廃止・組織再編・配置転換の困難等の具体的事由】を理由として本提案を行う。
第3条(退職予定日) 本提案に応じる場合の退職日は【令和〇年〇月〇日】とする。
第4条(特別退職加算金) 通常の退職金規程による金額に加え、特別退職加算金として金【〇〇円】(算定根拠:基礎賃金【〇か月分】相当)を、退職日の翌月末日までに指定口座へ振り込む。
第5条(再就職支援) 会社は、貴殿の再就職活動を支援するため【再就職支援会社の紹介・求人情報の提供・推薦状の発行】のうち貴殿が希望するものを実施する。
第6条(有給休暇の取扱い) 退職日までの残存年次有給休暇は、業務引継ぎに支障のない範囲で取得を認める。取得しきれない日数の買上げについては別途協議する。
第7条(社会保険・税務手続の情報提供) 退職後の健康保険任意継続、雇用保険の離職票交付、住民税の徴収方法変更等について、会社は必要な情報を提供する。
第8条(回答期限) 貴殿は、本提案への諾否を【令和〇年〇月〇日】までに書面又は口頭で会社担当者に回答する。回答がないことをもって同意とみなすことはしない。
第9条(拒否した場合の取扱い) 貴殿が本提案を拒否した場合であっても、そのことを理由とする不利益取扱い(降格、減給、不当な配置転換、退職強要にわたる再勧奨等)は行わない。
第10条(面談の実施) 本提案の内容に疑問がある場合、貴殿は会社担当者【部署・氏名】に面談を申し入れることができる。面談の頻度及び1回あたりの時間は、社会通念上相当な範囲にとどめる。
第11条(強要の否定) 会社は、本提案の説明にあたり、退職を事実上強制すると評価され得る言動(執拗な繰り返し、多数人による威圧的な面談、人格を否定する発言等)を行わない。
第12条(合意書への移行) 貴殿が本提案に応じる場合は、別途「合意退職清算合意書」を取り交わすものとし、本書面のみをもって退職の効力は生じない。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 会社側の立場
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円満退職を急ぐ場面での修正例 「本提案は令和〇年〇月〇日までの回答を目安とするが、貴殿の判断に必要な期間についてはご相談に応じる」のように、期限を固定せず柔軟性を残す文言に修正する。期限を過度に短く区切ると、心理的圧迫を与えたと評価され後に紛争化するおそれがあるため、会社側としては余裕を持たせる方が結果的にリスクを抑えられる。
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業務上の問題を背景とする勧奨の場面での修正例 第2条の理由欄に「〇〇に関する業務上の問題」を記載する場合は、懲戒事由該当性を示唆する表現を避け、「今後のキャリアを踏まえた提案」という中立的な表現にとどめる。懲戒処分と誤解される記載は、後に解雇と同視されるリスクを生む。
B節: 会社側の立場(複数回勧奨を行わざるを得ない場面)
- 再勧奨を行う場面での修正例 初回提案から一定期間が経過しても回答がない場合の再勧奨には、「前回のご提案から〇か月が経過いたしましたが、改めてご検討いただけますでしょうか」のように、あくまで検討を促す表現にとどめ、期限を区切って心理的圧迫を与える表現(「今回が最終提案である」等)は避ける。再勧奨自体は直ちに違法となるものではないが、頻度と態様の積み重ねが相当性判断に影響するため、社内で勧奨の回数・日時・出席者を記録しておくことが望ましい。
A節: 対象労働者側の立場
- 条件交渉を行う場面での修正例 第4条について「特別退職加算金の金額は【〇〇円】以上とし、算定根拠及び他の退職者への支給実績の開示を求める」のように、金額の妥当性を検証するための情報開示要求を加える。労働者側は、提示額が社内の他事例と比較して不利でないかを確認する必要がある。あわせて、再就職支援の内容(第5条)についても、支援期間や具体的なサービス内容を書面で明示するよう求めることが望ましい。
B節: 対象労働者側の立場(勧奨を拒否し就労継続を希望する場面)
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拒否の意思表示の書面化 第8条の回答欄に「本提案には応じず、従前どおり就労を継続する意向である」旨を明記した回答書を作成し、拒否の意思表示を書面化しておく。口頭のみで拒否すると、後日「合意退職の合意があった」と主張された場合の反証が困難になるため、書面化が重要である。
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勧奨態様の記録 勧奨の回数や面談時間が相当な範囲を超えていると感じる場合には、「令和〇年〇月〇日、〇時〇分から〇時〇分まで、〇名の担当者から面談を受けた」のように、日時・場所・出席者・発言内容を時系列でメモに残す。将来的に不法行為に基づく損害賠償請求を検討する際、客観的な記録の有無が立証上重要な意味を持つ。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、会社が労働者に合意退職を促す場面、すなわち解雇ではなく双方の合意によって労働契約を終了させたい場面で用いる。退職勧奨は労働者に退職を促す事実行為であり、労働者には応じるか否かの自由がある。もっとも、裁判例の考え方によれば、勧奨の回数、期間、面談の態様等が社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には、退職の自由な意思決定を侵害する違法な行為として、民法第709条の不法行為に基づく損害賠償責任が生じ得るとされている。したがって、退職を拒否した労働者に対して執拗に勧奨を繰り返す場面や、多数人で長時間にわたり退職を迫る場面での使用は避けるべきである。
逆に、本書式を使ってはならない場面もある。たとえば、対象労働者がすでに明確に退職を拒否する意思を示しているにもかかわらず、繰り返し同一内容の提案を送付する場合や、退職に応じなければ懲戒解雇にするなどと告げて事実上の選択の余地を奪う場合には、本書式の体裁を整えても実質的には解雇の強要と評価されるおそれがある。このような場面では、退職勧奨ではなく、通常の人事評価制度や懲戒手続に則った対応を検討すべきである。
よくある失敗として、第一に、回答期限を極端に短く設定し、熟慮の機会を与えなかったと評価されるケースがある。対策として、第8条のように一定の期間を確保し、必要に応じて延長にも応じる姿勢を示す。第二に、拒否した場合の不利益取扱いをほのめかす発言を伴い、実質的な強要と評価されるケースがある。対策として、第9条のように拒否時の不利益取扱いを行わない旨を明文化する。第三に、面談担当者の人数や時間に配慮せず、威圧的な印象を与えるケースがある。対策として、第11条のように面談の態様を相当な範囲にとどめる旨を明記し、実際の運用でも複数名による長時間面談を避ける。個別事案は専門家に確認することが望ましく、業種や勧奨対象者の属性によって相当性の判断基準は異なり得る。
なお、本提案書はあくまで会社から労働者への働きかけの記録としての性質を持つにすぎず、これに労働者が署名押印したとしても、それだけで直ちに退職の効力が確定的に生じるものではない。退職の効力を確定させるためには、別途、退職日、退職金の支払方法、清算条項等を定めた合意書を取り交わす必要がある点に留意する。
第4部: 使用前チェックリスト
- 退職勧奨の理由が具体的かつ事実に基づいているか確認したか
- 特別退職加算金の算定根拠及び支給時期を明記したか
- 回答期限が労働者の熟慮を妨げない程度の長さになっているか
- 拒否した場合に不利益取扱いを行わない旨を明記したか
- 面談の回数・時間・参加人数について相当性に配慮した記載になっているか
- 再就職支援の内容が具体的に特定されているか
- 有給休暇や社会保険手続に関する案内を含めているか
- 合意成立時に別途合意書を取り交わす旨を明記したか
- 強要と評価され得る表現(繰り返し、威圧的言辞等)が含まれていないか
- 対象労働者の属性(年齢、勤続年数、心身の状況等)に応じた配慮が必要かを検討したか
- 過去に同様の勧奨を行い拒否された経緯がある場合、その履歴を踏まえた内容になっているか