退職金を在職中に前払いする企業向け。支給率や中途選択の手続を定め、労働基準法第89条第3号の2の退職手当に関する記載義務に沿って明文化します。

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退職金前払い制度規程

第1部: 書式本文

第1条(目的) 本規程は、就業規則第【 】条に基づき、退職金の全部又は一部を在職中に前払いする制度(以下「前払い制度」という。)について、支給率、選択手続その他必要な事項を定めることを目的とする。本規程は、労働基準法第89条第3号の2に定める退職手当に関する事項として就業規則に添付し、周知するものとする。

第2条(適用対象者) 前払い制度は、勤続【 】年以上の正社員であって、第4条に定める選択手続を経た者に適用する。

第3条(制度の選択) 従業員は、退職金の受取方法として、次の各号のいずれかを選択することができる。 一 退職時一括受給(会社の退職金規程に基づき、退職時に退職金を一時金として受給する方法) 二 前払い受給(本規程に基づき、在職中、毎月の給与に加算して前払い分を受給する方法) 三 前払い受給と退職時一括受給の併用(前払い対象部分の割合を従業員があらかじめ指定する方法) 2 選択は、入社時又は毎年【 】月に実施する見直し手続の際に行うものとし、選択の変更は原則として年1回とする。

第4条(選択手続) 前払い受給を希望する従業員は、【退職金前払い選択届】を人事部に提出しなければならない。 2 会社は、選択届の内容を確認し、次回の見直し時期まで当該選択を適用する。 3 従業員が選択を変更しない限り、前回の選択が継続するものとする。

第5条(前払い額の算定) 前払い受給を選択した従業員に対する前払い額(月額)は、退職金規程に定める基本退職金額の算定方法に準じ、次の算式により算定する。 前払い額(月額)= 基本給 × 【 】パーセント 2 前払い額は、給与規程に定める賃金支払日に、毎月の給与に加算して支給する。 3 前払い額は、労働基準法第11条にいう賃金に該当し、割増賃金の算定基礎、社会保険の標準報酬月額の算定基礎及び雇用保険料の算定基礎に、通常の賃金と同様に算入する。

第6条(退職時一括受給との調整) 前払い受給を選択した期間に対応する退職金は、退職時に支給する退職金の算定から除外する。 2 一部の期間のみ前払いを選択した従業員については、退職金規程に定める退職金の算定基礎期間から、前払いを選択していた期間を控除して退職時の退職金額を算定する。

第7条(前払い分の賃金該当性及び全額払いの原則) 前払い額は、労働基準法第24条第1項に定める賃金の全額払いの原則の適用を受ける通常の賃金として支給するものとし、退職時に精算又は返還を求めることはない。 2 前払い額の支給後に従業員が懲戒解雇その他の事由により退職した場合であっても、既に支給した前払い額の返還は求めない。ただし、退職金規程において懲戒解雇の場合に退職金を減額又は不支給とする定めがある場合、当該定めは退職時一括受給部分についてのみ適用し、既払いの前払い分には遡及して適用しない。

第8条(税務上の取扱い) 前払い額は、所得税法上、退職所得ではなく給与所得として取り扱われ、退職所得控除の適用を受けない。会社は、前払い額を毎月の給与に合算し、所得税法の定めるところにより源泉徴収を行う。 2 会社は、前払い制度の選択に当たり、退職時一括受給を選択した場合との税負担の違いについて、従業員に対し事前に説明するものとする。

第9条(制度の周知) 会社は、前払い制度の内容、選択手続及び税務上の取扱いについて、制度導入時及び毎年の見直し時期に、説明会又は書面により従業員に周知する。

第10条(退職時の手続) 従業員が退職する場合、会社は退職金規程及び本規程に基づき、前払い受給の実績を踏まえた退職時一括受給分の金額を算定し、退職後【 】日以内に支払う。

第11条(制度の廃止及び経過措置) 会社が前払い制度を廃止する場合、既に前払い受給を選択している従業員については、廃止時点までの選択内容に基づく取扱いを継続し、廃止後は退職時一括受給に統一する等、経過措置を別途定める。

第12条(規程の改廃) 本規程の改廃は、労働基準法第89条及び第90条の定めるところにより、従業員代表の意見を聴取したうえで会社が行う。

附則 本規程は、【西暦】年【 】月【 】日から施行する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: ベンチャー企業向け

創業間もない企業では、将来の退職金原資の積立てより、当期の人材確保・現金給与の魅力向上を優先したいというニーズが強い。

修正条文例(第3条の書き換え): 「1 会社は、退職金制度の代替として、原則としてすべての従業員に前払い受給を適用する。退職時一括受給の制度は設けない。 2 従業員は、入社時に前払い額の算定率について会社の提示する条件に同意するものとする。」

一言解説: 退職金制度を持たずに前払いのみで運用する設計は、将来の退職給付債務を抱えないというメリットがある一方、労働基準法第89条第3号の2の「退職手当」に関する定めそのものを設けない選択も可能となる。ただし、採用時の説明が不十分だと、入社後に「退職金がない」との誤解や不満を招きやすいため、前払い額が退職金相当額であることを募集要項・雇用契約書段階から明記すべきである。

B節: 選択制併用企業向け

既存の退職金制度(退職時一括受給)を維持しつつ、従業員の希望に応じて前払いを選択できる併用型である。

修正条文例(第3条第2項の書き換え): 「2 選択の変更は、原則として年1回、毎年【4】月に実施する見直し手続の際に行うものとする。ただし、住宅取得、子の進学等のライフイベントが生じた場合、会社の承認を得て臨時に選択を変更することができる。 3 前払い受給から退職時一括受給への変更を選択した場合、既に前払い受給した金額を退職時一括受給分に組み入れることはできない。」

一言解説: 併用型では選択の柔軟性を高めるほど、退職金規程との整合性(算定基礎期間の管理)が煩雑になる。年1回の定期見直しを原則としつつ、臨時変更を認める場合の要件を限定的に明記することで、人事労務管理上の負担を抑えることができる。

第3部: 書き方と法的ポイントの解説

本規程は、退職金制度を新設する際に前払い方式を選択肢として設ける場面、既存の退職一時金制度に前払いの選択肢を追加する場面、又は退職給付債務の圧縮とキャッシュフローの平準化を図りたい場面で導入する。他方、従業員の多くが長期勤続を前提とし、退職所得控除による税制優遇を重視する組織や、前払い制度の導入により実質的な退職金の減額(不利益変更)を狙う場合には、労働契約法第9条・第10条上の問題が生じ得るため、慎重な検討を要する。特に、既存の退職一時金制度を前払い制度に一方的に切り替える改定は、労働条件の不利益変更として合理性が争われるリスクが高い点に留意すべきである。

根拠法令としては、労働基準法第89条第3号の2により、退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法及び支払時期に関する事項を就業規則に記載しなければならず、前払い制度もこの相対的必要記載事項に含まれる退職手当の一形態として明文化する必要がある。また、前払い額は毎月の給与に上乗せして支給される通常の賃金であるため、労働基準法第24条第1項の賃金全額払いの原則の適用を受け、退職時に精算・返還を求める定めを置くことは同原則に抵触するおそれがある(第7条参照)。税務上は、退職所得は所得税法第30条により退職所得控除等の優遇措置が適用されるのに対し、前払い額は給与所得として課税され、退職所得控除の適用を受けない。この税負担の違いは制度選択における重要な判断材料であり、従業員への説明義務を規程上明記することが望ましい(第8条第2項)。

実務上よくある失敗として、第一に、前払い額の算定率を退職金規程の算定式と整合させないまま設計し、前払いを選択した従業員と一括受給を選択した従業員との間で総支給額に不合理な差が生じるケースがある。対策として、第5条のように退職金規程の算定方法に準じた算定式を明記し、選択による有利・不利が生じにくい設計とすることが有効である。第二に、前払い額が退職所得控除の対象外となり給与課税されることを従業員に十分説明しないまま導入し、後になって「思ったより手取りが少ない」といった苦情や紛争を招くケースがある。対策として、第8条・第9条のように税務上の取扱いの違いを説明する義務を条文上明記し、選択時に書面で同意を取得する運用とすることが望ましい。第三に、懲戒解雇時に退職金を減額・不支給とする退職金規程の定めが、既に支給済みの前払い分にまで及ぶかどうかが曖昧なまま運用され、賃金全額払いの原則との抵触が疑われるケースがある。対策として、第7条第2項のように、既払いの前払い分には遡及適用しない旨を明記することが重要である。

なお、前払い制度の導入が既存の退職金制度の不利益変更に該当するか、選択制の設計が社会保険料・税務上どのような影響を及ぼすかについては、個別の制度設計や従業員構成によって結論が異なり得るため、実際の導入に当たっては社会保険労務士、税理士又は弁護士等の専門家に確認することを推奨する。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 前払い制度を退職手当に関する定め(労働基準法第89条第3号の2)として就業規則に位置づけたか
  • [ ] 適用対象者の範囲(勤続年数要件等)を明確にしたか
  • [ ] 前払い額の算定率が退職金規程の算定方法と整合しているか
  • [ ] 前払い額を毎月の賃金として支給し、割増賃金・社会保険・雇用保険の算定基礎に算入する旨を明記したか
  • [ ] 前払い分について退職時の精算・返還を求めないことを明記し、労働基準法第24条の全額払い原則に抵触しない設計になっているか
  • [ ] 懲戒解雇等の場合の退職金減額・不支給規定が、既払いの前払い分に遡及しない旨を明記したか
  • [ ] 前払い額が所得税法上給与所得となり、退職所得控除が適用されない旨を従業員に説明する条項を設けたか
  • [ ] 選択・選択変更の手続(時期、頻度、臨時変更の可否)を明確にしたか
  • [ ] 一部期間のみ前払いを選択した場合の退職時一括受給分の算定方法を定めたか
  • [ ] 既存の退職金制度からの変更となる場合、労働契約法第9条・第10条の不利益変更法理に照らして合理性を検討したか
  • [ ] 制度廃止時の経過措置を定めたか