退職や異動でパソコン・制服・入館証など会社貸与物を回収する場面の確認書式。未返還時の取扱いを定めつつ、賃金全額払を定める労働基準法第24条にも配慮する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
貸与物返還確認書
第1部: 書式本文
本書式は条文形式ではなく、実務で用いる記載項目の一覧として構成する。書面作成時は下記の項目を漏れなく記載すること。
1. 表題・作成年月日・当事者の表示
【株式会社〇〇】(以下「会社」という)と【〇〇 〇〇】(以下「本人」という)は、会社が本人に貸与した物品(以下「貸与物」という)の返還状況について、本書のとおり確認する。
2. 貸与物一覧表
| 品目 | 数量 | 貸与年月日 | 返還予定日 | 返還状況 |
|---|---|---|---|---|
| 【ノートパソコン(資産番号〇〇)】 | 【1台】 | 【20〇〇年〇月〇日】 | 【20〇〇年〇月〇日】 | 【返還済/未返還】 |
| 【入館証・社員証】 | 【1枚】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 |
| 【制服・作業着】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 |
| 【携帯電話・SIMカード】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 |
| 【会社印・名刺】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 | 【 】 |
3. 返還期限
返還期限は【退職日/異動発令日】から【〇日】以内とする。
4. 返還場所・返還方法
返還は【本社総務部窓口への持参/宅配便による送付(送料は本人負担とする旨明記)】により行う。
5. 未返還時の取扱い
返還期限までに返還されない貸与物があるときは、会社は本人に対し当該貸与物の買取相当額を請求できる旨を定める。ただし、当該請求は賃金からの一方的控除ではなく、別途本人との合意(相殺合意書等)または法令上認められる範囲での処理によるものとし、労働基準法第24条が定める賃金全額払の原則に反しない方法で行う旨を明記する。
6. 毀損・紛失時の取扱い
貸与物に毀損・紛失があった場合の弁償の要否・算定方法(減価償却後の帳簿価額を基準とする等)を定める。
7. 電子データ・貸与アカウントの取扱い
貸与パソコン内の会社データの消去確認、社内システムアカウント・メールアドレス・クラウドサービスIDの利用停止手続を記載する。
8. 秘密情報を含む物件の取扱い
社外秘資料、顧客名簿、設計図面等の機密性の高い貸与物について、返還のみならず複製物の破棄も求める旨を明記する。
9. 未返還物がある場合の誓約
一部返還が完了しない場合に、本人が別途返還時期を誓約する欄を設ける。
10. 確認署名欄
会社側確認者(所属・氏名・押印)、本人(氏名・押印)の署名欄を設ける。
11. 附則
本確認書は署名の日をもって効力を生じ、貸与物の返還をもってその目的を達成する。
12. 返還記録の保存
返還確認の記録(本確認書及び貸与物一覧表)は、退職・異動から一定期間(例:5年)、人事記録として保管する旨を定める。
13. 貸与物滅失時の保険・弁償区分
災害や盗難等、本人の帰責事由によらない滅失については、弁償を求めない旨をあわせて定めておくと、後日の紛争を防ぎやすい。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 退職時用
記載例: 「本人は、20〇〇年〇月〇日付退職に伴い、会社から貸与を受けた前項記載の物品を、退職日までに全て返還したことをここに確認する。」 一言解説: 退職時は貸与物返還と最終給与・退職金の精算が同時進行するため、未返還がある場合に賃金からの控除を安易に行うと労働基準法第24条違反のおそれがある。本項は返還確認と精算処理を明確に切り分ける記載にする。
記載例2: 「未返還物がある場合、会社は当該物品相当額を本人に請求できるものとし、本人は当該請求について異議を述べないものとする。ただし、賃金・退職金からの控除は、労働基準法第24条ただし書に定める労使協定がある場合又は本人の自由な意思に基づく合意がある場合に限る。」 一言解説: 「異議を述べない」という文言のみで控除の根拠にはならない点に注意し、控除には別途の適法な根拠が必要であることを明示する。
B. 異動・貸与終了時用
記載例: 「本人は、20〇〇年〇月〇日付人事異動に伴い、異動前の業務で使用していた前項記載の貸与物を、異動発令日までに所属長へ返還したことを確認する。」 一言解説: 異動の場合は雇用関係が継続するため、退職時のような最終精算はない一方、返還遅延が生じやすい。返還期限を異動発令日など客観的な日付で明確にすることが実務上重要である。
記載例2: 「異動先で新たに貸与物が生じる場合、本書とは別に新規貸与確認書を作成するものとする。」 一言解説: 異動時は貸与物の入れ替えが発生しやすいため、旧貸与物の返還確認と新規貸与の管理を書面上で分離し、資産管理の混同を防ぐ。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、退職・異動・懲戒解雇など貸与物の使用を終了させる全ての場面で使用できる。他方、貸与物の紛失・毀損について懲戒処分を検討する場面や、金額の大きい損害賠償請求を行う場面では、本書式のみで足りず、別途始末書・損害賠償請求に関する書式や弁護士への相談が必要になる。
最大の法的論点は労働基準法第24条が定める賃金全額払の原則である。同条は、賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないと定め、例外は法令に別段の定めがある場合又は事業場の労使協定がある場合に限られる。実務でよくある失敗は、未返還の貸与物代金を最終給与や退職金から会社の判断のみで一方的に差し引いてしまうことである。本書式の「未返還時の取扱い」の項目では、控除ではなく「請求」という構成を採り、控除を行う場合は労使協定又は本人の自由な意思に基づく個別合意によることを明記することで、この失敗を防ぐ設計としている。
第二の失敗は、返還期限・返還場所を曖昧にしたまま「速やかに返還する」とだけ記載し、後日「いつまでに返せばよいか分からなかった」という水掛け論になることである。本書式では返還期限を退職日・異動発令日からの具体的な日数で特定し、返還方法も明記することでこれを防ぐ。
第三の失敗は、パソコンや社内システムアカウントなど物理的な「物」ではないデータ・アカウントの取扱いを失念することである。物品一覧表に電子データ・アカウントの消去確認欄を設けることで、情報漏えいリスクを軽減する記載としている。
さらに補足すると、賃金全額払の原則は判例上も厳格に解されており、使用者が労働者に対して有する債権(未返還物の弁償請求権等)を賃金債権と一方的に相殺することは、原則として認められない。労働者本人が真に自由な意思に基づいて相殺(控除)に同意したと客観的に認められる合理的な理由が存在する場合に限り、例外的に許容されると解されている。本書式が「請求」と「合意に基づく相殺」を書き分けているのは、この考え方を踏まえたものであり、会社側の一方的な処理と誤解されないよう、控除を行う際は必ず本人の署名による個別合意を別途取得する運用とすべきである。
なお、毀損・紛失時の弁償額の算定や、多額の損害賠償請求に発展する可能性がある個別事案については、労働基準法第24条の解釈も含め、弁護士等の専門家に確認のうえで対応することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 貸与物一覧表に品目・数量・貸与年月日を漏れなく記載したか
- [ ] 返還期限を退職日・異動発令日から起算した具体的な日数で定めたか
- [ ] 返還場所・返還方法(持参/郵送)を明記したか
- [ ] 未返還時の取扱いが「賃金からの一方的控除」になっていないか
- [ ] 賃金・退職金から控除する場合、労働基準法第24条ただし書の要件(労使協定又は本人の自由な意思による合意)を満たしているか
- [ ] 毀損・紛失時の弁償額の算定基準を定めたか
- [ ] 電子データ消去・社内アカウント停止の確認欄を設けたか
- [ ] 秘密情報を含む資料・複製物の破棄について記載したか
- [ ] 会社側確認者・本人双方の署名欄を設けたか
- [ ] 未返還物がある場合の追加誓約欄を設けたか
- [ ] 会社名・本人氏名・日付等の固有情報の記入漏れがないか最終確認したか