タレントの専属的な芸能活動と権利関係を定める契約書です。専属義務、報酬の分配、契約終了後の活動制限の合理的範囲を規定します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
タレント専属契約書
第1部: 書式本文
【所属事務所名称】(以下「甲」という)と【タレント氏名】(以下「乙」という)は、乙の芸能活動に関するマネジメント業務の委託等に関し、以下のとおりタレント専属契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、乙が甲に専属して芸能活動(テレビ・映画出演、CM出演、イベント出演、SNS等での情報発信を含む。以下「本件芸能活動」という)を行うにあたり、甲乙間の権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(契約期間) 本契約の有効期間は、契約締結日から【期間】年間とする。期間満了の【日数】日前までに甲乙いずれからも書面による終了の申出がない場合、本契約は同一条件でさらに【期間】年間更新されるものとする。
第3条(専属義務) 1. 乙は、本契約期間中、本件芸能活動に関し甲以外の第三者と契約を締結し、又は甲を介さずに独自の営業活動を行ってはならない。 2. 前項の規定にかかわらず、【例外的に許容する活動範囲(例:文筆業、学業等)】については乙が甲の事前の書面による承諾を得て行うことができる。
第4条(マネジメント業務) 甲は、乙のために出演交渉、スケジュール管理、契約締結の代理又は媒介、広報活動その他本件芸能活動に付随する業務を行う。
第5条(報酬の分配) 1. 乙が本件芸能活動により得た報酬は、甲がこれを一旦収受したうえで、甲【 】パーセント、乙【 】パーセントの割合で分配する。 2. 甲は、乙の求めに応じ、報酬の算定根拠となる出演料明細等の資料を開示する。 3. 甲は前項の分配金を、報酬受領後【日数】日以内に乙の指定口座へ支払う。
第6条(業務委託該当時の取扱い) 乙が特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律にいう特定受託事業者に該当する場合、甲は同法に基づき、業務委託に係る給付内容、報酬額及び支払期日等を書面又は電磁的方法により明示し、報酬を給付受領日から60日以内に支払うよう努める。
第7条(肖像権及び著作隣接権等の取扱い) 1. 乙の氏名、写真、映像等(以下「肖像等」という)を本件芸能活動及びその宣伝のために使用する権利は、本契約期間中、甲が独占的に管理するものとする。 2. 乙の実演に係る著作隣接権その他の権利の取扱いについては、個別の出演契約において別途定めるところによる。
第8条(役務提供の性質及び労働者性) 甲及び乙は、本契約が業務委託の性質を有し、乙が甲の指揮命令下で労働に従事するものではないことを確認する。ただし、実際の稼働実態(甲による具体的な業務指示、勤務時間・場所の拘束の程度、報酬の労務対償性等)によっては、労働基準法上の労働者性の判断基準に照らして乙が労働者と評価される場合があり、その場合は同法その他労働関係法令が適用され得る。
第9条(禁止行為及び品位保持義務) 乙は、甲の名誉又は信用を損なう行為、公序良俗に反する行為及び本件芸能活動の遂行に支障を来す行為を行ってはならない。
第10条(契約終了) 1. 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除することができる。 2. 乙が心身の故障等により本件芸能活動の継続が困難となった場合、甲乙協議のうえ本契約を終了することができる。
第11条(契約終了後の活動制限) 1. 乙は、本契約終了後【期間】以内、甲と競合する事務所への所属又はこれに準ずる専属契約の締結を控えるよう努めるものとする。 2. 前項の制限を定めるにあたり、甲乙は、制限の期間、対象地域、対象業務の範囲及び代償措置の有無を総合的に考慮し、乙の職業選択の自由を不当に制約しない合理的な範囲にとどめるものとする。
第12条(優越的地位の濫用の禁止) 甲は、本契約の締結及び履行にあたり、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する行為(不当な報酬の減額、著しく低い対価での役務提供の強制、正常な商慣習に照らして不当な不利益を課す行為等)を行わないものとする。
第13条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方及び関係者の秘密情報を、本契約の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第14条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が反社会的勢力に該当せず、これと一切の関係を有しないことを表明し、違反した場合は本契約を無催告で解除できるものとする。
第15条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第16条(協議事項) 本契約に定めのない事項及び解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
本契約締結の証に本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
契約締結日:令和【 】年【 】月【 】日
甲(所属事務所) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(タレント) 住所: 氏名: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 所属事務所(甲)側に有利な修正パターン
- 第3条第2項の例外活動を限定列挙とし、「甲が個別に承諾した活動に限る。承諾のない活動により生じた損害は乙が負担する」との一文を追加する。専属義務の実効性を高め、無許可活動への抑止力を持たせる。
- 第5条第1項の分配割合について「甲が広報投資を先行して行う立ち上げ期の【期間】については、甲の取分を【高い割合】パーセントとし、以降段階的に見直す」との条項を追加する。育成期の先行投資を回収しやすくする。
- 第11条第1項の「努めるものとする」との努力義務規定を「【期間】以内、【対象地域】において競合事務所に所属してはならない」との明確な禁止規定に修正する。ただし合理性を欠く広範な制限は独占禁止法や公序良俗の観点から無効と判断されるリスクがある点に留意が必要である。
B節: タレント(乙)側に有利な修正パターン
- 第5条第2項に「甲は乙の求めがあった日から【日数】日以内に出演料明細等の資料を開示しなければならない」との具体的な期限を追加する。分配額の透明性を確保し、開示の実効性を高める。
- 第7条第1項に「甲による肖像等の使用は本件芸能活動及びその宣伝目的に限り、乙のイメージを損なう態様での使用には乙の事前承諾を要する」との限定を追加する。肖像権の無制限な管理を防ぐ。
- 第11条第1項に「乙が甲から相当な代償(専属契約終了後【期間】分の一定額の補償金等)の支払を受ける場合に限り、本条の活動制限に応じる」との条件を追加する。判例上の合理性テストで重視される代償措置の有無を明確化し、制限の有効性を高める形にする。
- 第12条に「甲が乙の意思に反して過度な稼働を強いた場合、乙は本契約を解除できる」との一文を追加する。優越的地位の濫用の禁止を実効化する解除権を確保する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
解説(a) 使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、芸能事務所がタレントと専属的なマネジメント契約を締結する場面を想定している。単発の出演のみを取り決める場合は個別の出演契約書の方が適合的であり、本書式のような包括的な専属契約とは目的が異なる。また、タレントが事務所の従業員として雇用され給与を受ける実態がある場合は、雇用契約書を用いるべきであり、専属マネジメント契約の形式を用いて実質的な雇用関係を糊塗することは労働関係法令上の問題を生じさせるおそれがある。
解説(b) 根拠法令 専属マネジメント契約は業務委託の形式をとることが多いが、甲による具体的な業務指示の程度、稼働時間・場所の拘束、報酬の労務対償性等の実態によっては労働基準法上の労働者性の判断基準に照らして乙が労働者と評価される可能性があり、その場合は同法その他労働関係法令の適用対象となり得る。令和6年11月施行の特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)は、乙が特定受託事業者に該当する場合、給付内容・報酬・支払期日等の明示や報酬の受領後60日以内の支払を義務付けている。報酬の分配や活動制限の場面では独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当しないかが問題となり得る。契約終了後の競業避止条項(活動制限)については、民法上の職業選択の自由との関係から、裁判例上、制限の期間・地域・対象業務の範囲及び代償措置の有無等を総合的に考慮した合理性テストにより有効性が判断される傾向にあり、無限定・無代償の広範な制限は無効と評価されるリスクがある。
解説(c) よくある失敗と対策 第一に、契約終了後の活動制限を期間・地域の限定なく設定し、職業選択の自由を過度に制約するとして無効と判断されるリスクを見落とす失敗がある。対策として第11条のように制限の合理性を総合考慮する旨を明記し、可能であれば代償措置を設ける。第二に、報酬分配の算定根拠を開示する仕組みを設けず、分配額の妥当性を検証できない失敗がある。対策として第5条のように明細開示義務と開示期限を明記する。第三に、稼働管理を強めるあまり実態として労働者性が認められる働き方になっているにもかかわらず業務委託の形式のみを維持し、後日争いになる失敗がある。対策として第8条のように実態に応じた法令適用の可能性を留保しておく。なお、個別の事案については弁護士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 契約期間及び更新条件(自動更新の有無と申出期限)を明記したか
- [ ] 専属義務の範囲と例外的に許容する活動の範囲を具体的に定めたか
- [ ] 報酬の分配割合及び明細開示義務の期限を明記したか
- [ ] フリーランス新法上の明示義務・支払期日(60日以内)への対応を確認したか
- [ ] 肖像等の使用範囲を本件芸能活動及び宣伝目的に限定したか
- [ ] 稼働実態が労働基準法上の労働者性に該当しないか事前に確認したか
- [ ] 契約終了後の活動制限について期間・地域・対象業務の範囲を具体的に限定したか
- [ ] 活動制限に対する代償措置の要否を検討したか
- [ ] 優越的地位の濫用に該当し得る条項がないか確認したか
- [ ] 秘密保持及び反社会的勢力排除条項を含めたか
- [ ] 準拠法及び管轄裁判所を定めたか
- [ ] プレースホルダ【】を全て実際の当事者情報・数値に置き換えたか