エレベーターや消防設備、受変電設備の定期点検を委託する契約書。民法第656条の準委任を基礎に、建築基準法第12条の定期報告と消防法上の点検義務を整理。

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建物設備保守点検契約書

第1部: 書式本文

第1条(目的及び契約の性質) 【建物所有者又は管理組合名】(以下「甲」という。)は、保守点検業者【商号】(以下「乙」という。)に対し、別紙「点検対象設備目録」記載の設備(エレベーター、消防用設備等、受変電設備その他の建物附属設備をいう。以下「本件設備」という。)の定期保守点検業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。本契約は、法律行為でない事務の委託として民法第656条の準委任契約の性質を有する。

第2条(業務の内容) 乙が行う本件業務は、次の各号のとおりとする。 1. エレベーターの定期点検(建築基準法第12条第3項の定期検査を含む。) 2. 消防用設備等の点検(消防法第17条の3の3に基づく機器点検及び総合点検) 3. 受変電設備の月次点検及び年次点検(電気事業法に基づく保安規程に準じた点検を含む。) 4. 前各号の点検結果に基づく報告書の作成及び甲への提出

第3条(点検の頻度及び方法) 乙は、別紙点検計画表に従い、法令上定められた頻度(消防用設備等の機器点検は【6】か月に1回、総合点検は【1】年に1回等)及び甲乙で別途合意した頻度で本件業務を実施する。

第4条(定期報告制度への対応) 1. 乙は、建築基準法第12条第3項に基づき甲が特定行政庁に提出すべき定期検査報告書の作成に必要な検査を行い、検査済みの報告書を甲に提出する。ただし、報告書を特定行政庁へ提出する義務者は甲(建物所有者又は管理者)であり、乙はその提出手続を代行するものではない。 2. 乙は、消防法第17条の3の3に基づき甲が消防長又は消防署長に報告すべき点検結果報告書の作成に必要な点検を行い、点検済みの報告書を甲に提出する。提出義務者は甲であることを前項と同様とする。

第5条(点検の結果指摘された不具合への対応) 1. 乙は、点検の結果、法令上の基準に適合しない事項又は改修を要する事項を発見したときは、直ちに甲に報告する。 2. 前項の報告を受けた甲は、改修の要否及び時期について乙と協議のうえ決定する。改修工事は本件業務に含まれず、甲乙間で別途契約を締結して実施する。 3. 甲が改修を実施しないまま是正期限を経過し、行政指導又は改善命令を受けた場合の責任は、乙が第1項の報告義務を履行していた限り、甲が負う。

第6条(緊急対応) 1. 乙は、本件設備の重大な故障又は事故のおそれがあることを発見したときは、甲の事前承諾を得ずに、人身の安全確保のために必要最小限度の応急停止措置を講じることができる。 2. 前項の応急措置に要した費用のうち金【10万】円を超える部分については、甲の事後承諾を要する。

第7条(善管注意義務) 乙は、善良な管理者の注意をもって本件業務を行う(民法第644条)。

第8条(有資格者の配置) 乙は、本件業務のうち、消防設備士又は消防設備点検資格者を要する点検には当該資格を有する者を、電気主任技術者の選任を要する受変電設備の保安業務には有資格者を、それぞれ配置する。

第9条(再委託) 乙は、甲の書面による承諾を得た場合に限り、本件業務の全部又は一部を第三者に再委託することができる。この場合、乙は再委託先の行為について自ら業務を行ったと同一の責任を負う。

第10条(業務委託料) 甲は、乙に対し、本件業務の対価として年額金【 】円(消費税別)を、別紙支払条件に従い支払う。改修工事等、本件業務の範囲外の追加費用は別途見積りのうえ甲乙協議して定める。

第11条(契約期間) 本契約の有効期間は、契約締結日から【1】年間とする。期間満了の【2】か月前までにいずれの当事者からも更新拒絶の申出がないときは、同一条件でさらに【1】年間更新するものとし、以後も同様とする。

第12条(損害賠償) 乙の故意又は過失により本件業務の遂行に関連して甲又は第三者に損害が生じたときは、乙はその損害を賠償する。ただし、乙が第5条第1項の報告義務を尽くしたにもかかわらず甲が改修を怠ったことにより生じた損害については、乙は責任を負わない。

第13条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当の期間を定めた催告後もその違反が是正されないときは、本契約を解除することができる。

第14条(協議及び管轄) 本契約に定めのない事項は甲乙協議して定める。本契約に関する紛争については【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: 建物所有者・管理組合向け

A-1 第5条の修正例 「乙は、法令上の基準に適合しない事項を発見した場合、口頭連絡に加え、発見日から【3】営業日以内に書面又は電磁的方法による報告書を甲に提出する。甲は当該報告書の受領日を起算点として改修の要否を判断する。」 一言解説: 甲にとっては行政報告の期限管理が重要であるため、乙からの報告の到達時点を明確にし、是正対応の起点を客観化する。

A-2 第10条の修正例 「乙は、業務委託料の見積りにあたり、法定点検費用と法定外の任意点検費用を区分して提示する。」 一言解説: 管理組合の総会承認を得る際、法令上必須の費用か否かで説明責任が異なるため、内訳の区分を契約段階から明確にしておく。

B節: 保守点検業者向け

B-1 第4条の修正例 「乙は、定期検査報告書及び点検結果報告書の作成後、甲が提出期限までに特定行政庁又は消防長等へ提出したことを、甲からの提出控えの写しの提示により確認する。」 一言解説: 提出義務者が甲であっても、未提出が発覚した際に乙が責任を問われる紛争を避けるため、提出確認の仕組みを乙側の防御として組み込む。

B-2 第12条の修正例 「乙の損害賠償責任は、直接損害に限り、かつ、当該事故が発生した年度の業務委託料の額を上限とする。ただし、乙の故意又は重過失による場合はこの限りでない。」 一言解説: 点検業者にとってエレベーター事故等は損害額が甚大になり得るため、責任の上限を設定して事業継続可能な範囲にリスクを限定する趣旨である。ただし過度に広い免責は消費者契約法等との関係で無効となる可能性がある点に留意を要する。

第3部: 書き方と法的ポイントの解説

本書式は、建物所有者又は管理組合が、エレベーター、消防用設備等、受変電設備といった法定点検の対象となる設備の保守点検を専門業者に委託する場面で使用する。使用してはならない場面としては、点検対象設備の改修や更新そのものを発注する場合(この場合は請負契約としての工事請負契約書を用いるべきであり、本書式は点検・保守という準委任的性質の業務に限定される)、及び点検業者が建築士事務所として設計監理業務まで併せて行う場合(別途建築士法上の業務委託契約が必要になる)が挙げられる。

法的な根拠としては、民法第656条が準委任契約について委任の規定を準用することを定めており、本件業務のように成果物の完成それ自体を目的とせず、専門的な点検行為を誠実に行うことを目的とする契約はこの準委任契約の性質を有する。設備ごとの法定点検義務については、建築基準法第12条第3項が特定建築物の所有者・管理者に対しエレベーター等の昇降機及び特定建築設備の定期検査報告を義務付け、消防法第17条の3の3が防火対象物の関係者に対し消防用設備等の点検及び報告を義務付けている。受変電設備については電気事業法に基づく保安規程及び電気主任技術者の選任義務(同法第43条)が関係する。これらの報告義務者はいずれも建物所有者・管理者であり、点検業者はその履行を補助する立場にとどまる点を契約書上も明確にすることが重要である。

実務でよくある失敗の一つ目は、点検の結果指摘された不具合の改修義務が甲乙いずれにあるかが不明確なまま放置され、行政指導や改善命令に発展するケースである。第5条のように、点検業務と改修工事を明確に区分し、報告後の判断責任を甲に帰属させる条項が対策となる。二つ目は、定期報告書の提出期限が迫っているにもかかわらず点検スケジュールが遅延し、期限徒過による行政上の不利益が生じるケースであり、第3条・第4条で点検計画表と報告書提出のリードタイムを明記することが対策となる。三つ目は、緊急停止措置に要した費用の負担区分が曖昧で、乙が事後に高額請求を行い甲との紛争になるケースであり、第6条のように応急措置の範囲と費用上限をあらかじめ定めることが対策となる。設備の種類や建物の用途により適用法令や点検頻度が異なるため、個別事案は専門家に確認することを推奨する。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 点検対象設備が別紙目録で網羅的に特定されているか
  • [ ] エレベーター等の建築基準法第12条第3項定期検査の対象・頻度が明記されているか
  • [ ] 消防用設備等の消防法第17条の3の3点検・報告の対象・頻度が明記されているか
  • [ ] 受変電設備の保安業務が電気主任技術者等の有資格者により行われる体制か
  • [ ] 定期報告書の提出義務者が甲であることが条項上明確か
  • [ ] 点検結果指摘事項に対する改修工事が本件業務の範囲外であることが明記されているか
  • [ ] 緊急時の応急停止措置の範囲と費用負担の上限が定められているか
  • [ ] 乙の損害賠償責任の範囲及び甲の対応懈怠による免責が整理されているか
  • [ ] 有資格者(消防設備士、電気主任技術者等)の配置が契約上担保されているか
  • [ ] 再委託の可否及び再委託先への責任の帰属が明記されているか
  • [ ] 業務委託料に法定点検費用と任意点検費用の区分があるか
  • [ ] 合意管轄裁判所が明記されているか