親の家に子が無償で住むなど建物を無料で貸す場面の書式。民法第593条以下の使用貸借に基づき、期間・用法・返還時期と原状回復を明記します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
建物使用貸借契約書
第1部: 書式本文
【貸主氏名】(以下「甲」という。)と【借主氏名】(以下「乙」という。)とは、下記建物の無償使用に関し、民法第593条以下の使用貸借契約(以下「本契約」という。)を締結する。
記 【建物の表示:所在〇〇、家屋番号〇〇、種類〇〇、構造〇〇、床面積〇〇㎡】
第1条(目的物の引渡し) 甲は、甲の所有する上記建物(以下「本件建物」という。)を無償で乙に引き渡し、乙はこれを借り受けて使用する。
第2条(使用貸借であることの確認) 甲及び乙は、本契約が賃料の支払を伴わない使用貸借であって、借地借家法の適用がなく、専ら民法の規定によることを相互に確認する。
第3条(使用目的) 乙は、本件建物を専ら乙及びその同居家族の居住の用に供するものとし、甲の書面による承諾なく用途を変更し、又は第三者に転貸してはならない。
第4条(使用貸借の期間) 1. 本契約の期間は、契約締結日から【〇】年間とする。 2. 甲及び乙は、期間満了前に協議の上、本契約を更新することができる。 3. 前2項にかかわらず、乙が死亡したときは、民法第597条第3項により本契約は当然に終了する。
第5条(通常の必要費の負担) 1. 本件建物の使用収益に必要な通常の修繕(日常的な小修繕、消耗品の交換等)に要する費用は、民法第595条第1項に基づき乙の負担とする。 2. 前項にかかわらず、屋根・外壁・基礎その他建物の構造耐力上主要な部分に係る大規模修繕については、甲乙協議の上、甲が費用を負担することができる。
第6条(特別の必要費及び有益費の償還) 1. 乙が本件建物につき、通常の必要費に当たらない特別の必要費(災害による損傷の修繕等)を支出したときは、乙は民法第583条第2項の準用(民法第600条)により、直ちにその償還を甲に請求することができる。 2. 乙が本件建物の価値を増加させる有益費を支出したときは、本契約終了時に、その価格の増加が現存する場合に限り、甲の選択に従いその支出額又は増価額を甲に請求することができる。
第7条(増改築の禁止) 乙は、甲の書面による事前の承諾なく、本件建物の増築、改築又は主要構造部の変更を行ってはならない。
第8条(禁止事項の違反による解除) 乙が第3条又は前条に違反したときは、甲は民法第594条第3項に基づき、催告を要せず本契約を解除することができる。
第9条(期間満了・目的達成による終了) 1. 第4条の期間が満了したとき、又は乙が本件建物を使用収益するに足りる期間を経過したときは、本契約は終了する。 2. 期間及び使用目的の定めがない場合、甲はいつでも本契約を解除することができる(民法第598条第2項)。
第10条(原状回復義務) 1. 乙は、本契約終了時に、乙の責めに帰すべき事由による損傷を修補し、本件建物を原状に復して甲に返還する。ただし、通常の使用及び収益によって生じた本件建物の損耗並びに経年変化については、原状回復義務を負わない。 2. 乙は、本件建物に附属させた造作物その他の物がある場合、自己の費用でこれを収去する権利を有する。ただし、本件建物から分離することができない物又は分離に過分の費用を要する物については、この限りでない。
第11条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第12条(協議事項) 本契約に定めのない事項及び解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 氏名:【 】 印 (乙) 住所:【 】 氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 貸主(親)向け書き換え
A-1. 将来自分が施設に入居し建物を売却する可能性がある場面
第9条追加例:「甲は、本件建物を第三者に売却する必要が生じたときは、【6】か月前に乙に通知することにより本契約を終了させることができる。」 解説: 使用貸借は借地借家法の保護がなく甲はいつでも解除できるのが原則だが、実際の生活設計を踏まえ予告期間を明記し乙との紛争を避ける。
A-2. 建物の老朽化により大規模修繕が見込まれる場面
第5条2項修正例:「大規模修繕を要する状態に至った場合、甲は自己の判断で修繕を実施せず本契約を終了させることができる。乙はこれに異議を述べない。」 解説: 老朽建物では大規模修繕費用が高額化しやすく、修繕義務を負わない選択肢を確保して甲の負担を限定する。
B. 借主(子・親族)向け書き換え
B-1. 借主が費用をかけてリフォームする場面
第6条2項修正例:「乙が甲の事前書面承諾を得て支出した有益費については、本契約終了を待たず、支出後【1】年ごとに甲乙協議の上、償還時期及び金額を確定する。」 解説: 終了時一括償還では長期居住の場合に立証や資力の問題が生じやすく、定期的な精算を定め紛争を予防する。
B-2. 同居家族が増える見込みがある場面
第3条修正例:「乙は、本件建物に乙の配偶者及び子を同居させることができる。同居家族の変更が生じたときは甲に通知する。」 解説: 使用目的の範囲を明確にしておかないと、同居家族の増加が用途違反や無断転貸と評価されるおそれがあるため、あらかじめ許容範囲を定める。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、親が所有する建物に子や親族が無償で居住する場面など、対価の支払を伴わない建物の貸借に用いる。わずかでも賃料の授受がある場合は賃貸借契約(借地借家法の適用対象)となり本書式はなじまず、建物賃貸借契約書を用いるべきである。
根拠法令の解説 使用貸借は民法第593条から第600条までに規定され、貸主の死亡によっては終了しないが、借主の死亡によっては当然に終了する(民法第597条第3項)。通常の必要費は借主の負担とされ(民法第595条第1項)、特別の必要費及び有益費は同法第583条第2項の準用により償還請求が可能である(同法第600条)。使用貸借には借地借家法が適用されないため、貸主はいつでも比較的容易に契約を終了させることができ、賃貸借と比較して借主の地位が弱いことが最大の特徴である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、口頭の合意のみで済ませ、原状回復の範囲(通常損耗を含むか否か)が曖昧なまま紛争化する失敗がある。第10条のように経年変化を除く旨を明記する。第二に、大規模修繕の費用負担者を定めず、老朽化した建物の維持管理を巡って親族間で対立する失敗がある。第5条のように通常の必要費と大規模修繕を区別して負担を明確化する。第三に、借主が増改築やリフォームを独断で行い、有益費の償還額を巡って紛争になる失敗がある。第6条・第7条のように事前承諾制と償還ルールを定める。個別の建物の状態や親族関係に応じた調整は、専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 賃料の授受が一切ないこと(使用貸借であること)を確認したか
- [ ] 建物の使用目的(居住用途等)を具体的に定めたか
- [ ] 契約期間及び更新の有無を定めたか
- [ ] 借主死亡時に契約が終了する旨(民法第597条第3項)を確認したか
- [ ] 通常の必要費と大規模修繕費用の負担者を区別して定めたか
- [ ] 特別の必要費・有益費の償還請求手続を定めたか
- [ ] 増改築・転貸の禁止と違反時の解除条項を定めたか
- [ ] 原状回復義務の範囲(通常損耗・経年変化の扱い)を明記したか
- [ ] 貸主都合による契約終了時の予告期間の要否を検討したか