飲食店の居抜き物件で厨房設備や内装造作を次の借主へ引き継ぐ際の譲渡契約書。民法の契約不適合責任と食品衛生法の施設基準への適合を踏まえ、対象範囲を特定する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
店舗什器・造作譲渡契約書
第1部: 書式本文
【譲渡人】【 】(以下「甲」という。)と【譲受人】【 】(以下「乙」という。)は、甲が運営していた店舗【店舗名・所在地】(以下「本店舗」という。)における厨房設備・什器・内装造作等の譲渡に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的)
甲は乙に対し、本契約に定める条件に従い、別紙目録記載の厨房設備・什器・内装造作(以下「本件譲渡対象物」という。)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
第2条(譲渡対象物の特定)
- 本件譲渡対象物は、別紙目録に記載する厨房機器【冷蔵庫、製氷機、コンロ、換気設備等】、什器・備品【テーブル、椅子、食器類等】及び内装造作【床材、壁面、看板、配管・配線工事部分等】とする。
- 別紙目録に記載のない物品・設備は本件譲渡対象物に含まれないものとし、甲乙間で疑義が生じないよう、譲渡前に双方立会いのうえ現物確認を行う。
第3条(譲渡代金及び支払方法)
- 本件譲渡対象物の譲渡代金は、金【 】円(消費税別途)とする。
- 乙は甲に対し、【引渡日の 日前まで/引渡しと同時に】、前項の代金を甲の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
第4条(引渡し)
- 甲は乙に対し、【 年 月 日】までに、本件譲渡対象物を現状有姿で引き渡す。
- 引渡しに際しては、甲乙双方立会いのうえ、別紙目録に基づき数量・稼働状況を確認し、引渡確認書を取り交わす。
第5条(所有権の移転)
本件譲渡対象物の所有権は、第3条の代金の全額支払いが完了した時点で、甲から乙に移転する。
第6条(契約不適合責任)
- 甲は、本件譲渡対象物が引渡確認書記載の数量・稼働状況と相違しないことを保証する。
- 引渡後【 】か月以内に、本件譲渡対象物のうち厨房機器の主要な稼働不良(通常の使用方法によっても機能しない状態)が判明した場合、乙は甲に対し、修補、代替物の引渡し、又は代金減額を請求することができる。ただし、甲が引渡時に開示した経年劣化・不具合箇所についてはこの限りでない。
- 前項の請求は、乙が不適合を知った時から【 】か月以内に甲に通知しなければ行うことができない。
第7条(現状有姿・経年劣化の取扱い)
乙は、本件譲渡対象物が中古品であり、通常の使用に伴う経年劣化・摩耗があることを了承のうえ譲り受ける。甲は、譲渡時点で認識している主要な不具合・修理履歴を別紙【設備状況一覧】に開示するものとし、開示した事項については前条の契約不適合責任の対象としない。
第8条(食品衛生法上の施設基準への適合)
- 乙は、本件譲渡対象物を用いて営業を行うに当たり、食品衛生法及び関係法令に定める施設基準に適合するよう、自らの責任と負担で必要な改修・設備更新を行い、営業許可を取得するものとする。
- 甲は、本店舗における営業許可の内容及び過去に保健所から受けた指摘事項の有無について、乙に開示するものとする。
- 甲は、本件譲渡対象物が乙の営業許可取得に適合することを保証するものではない。
第9条(原状回復義務との関係)
- 甲が賃借人であった場合、甲と賃貸人との間の賃貸借契約に定める原状回復義務の範囲及びその履行方法について、甲乙間で別途確認するものとする。
- 本件譲渡対象物のうち内装造作については、賃貸人の承諾が原状回復義務の一部免除・造作の残置の条件となる場合があるため、乙は自らの責任で賃貸人との間の賃貸借契約締結に際し、必要な確認・承諾取得を行う。
第10条(公租公課・その他費用の負担)
本件譲渡対象物に係る譲渡日までの公租公課、保守契約料、リース料等は甲が負担し、譲渡日以降に生じるものは乙が負担する。
第11条(第三者の権利の不存在)
甲は、本件譲渡対象物について、担保権の設定、リース契約、割賦未払残債務その他第三者の権利が存在しないことを表明し、これに反する事実が判明した場合、甲の責任と負担で解決するものとする。
第12条(危険負担)
本件譲渡対象物の引渡前に、天災地変その他甲乙いずれの責めにも帰することができない事由により本件譲渡対象物の全部又は一部が滅失・毀損した場合、その危険は甲の負担とし、乙は代金の全部又は一部の支払いを拒むことができる。
第13条(秘密保持)
甲及び乙は、本契約の締結及び履行に関連して知り得た相手方の営業上の情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第14条(契約解除)
甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後もその違反が是正されない場合、本契約を解除することができる。
第15条(協議事項)
本契約に定めのない事項又は本契約の解釈に疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
第16条(合意管轄)
本契約に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 譲渡人(前借主)の視点
譲渡人としては、引渡後に発覚した不具合について責任を負う期間・範囲をできる限り限定したい。 - 記載例:「第6条の契約不適合責任の期間は引渡日から1か月間とし、乙は当該期間内に検査を完了し、不適合の有無を通知するものとする。1か月を経過した後は、甲は契約不適合責任を負わない。」 - 一言解説:検査期間と通知期限を短く区切ることで、譲渡人が長期間にわたり責任を負い続けるリスクを抑えられる。ただし、あまりに短い期間や不合理な免責は民法上・信義則上問題視される可能性があるため、対象設備の性質に応じた合理的な期間設定が望ましい。
B. 譲受人(新借主)の視点
譲受人としては、実際に営業許可を取得できなかった場合に代金の返還や契約解除を求められるようにしておきたい。 - 記載例:「乙が、本件譲渡対象物を用いて営業許可の取得を申請したにもかかわらず、本件譲渡対象物の状態に起因して所轄保健所から施設基準不適合の指摘を受け、【 】か月以内に是正できなかった場合、乙は本契約を解除し、既払代金の返還を甲に請求することができる。」 - 一言解説:第8条は甲が施設基準適合を保証しない前提だが、乙としては、譲渡対象物起因の不適合により営業許可を取得できないリスクをヘッジするため、解除・返還条項を別途設けておくことが有効である。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本契約書は、いわゆる「居抜き」物件において、飲食店の前借主(譲渡人)が保有する厨房設備・什器・内装造作を、次の借主(譲受人)に引き継ぐ際に使用する。賃貸人(オーナー)との間の賃貸借契約自体の名義変更や造作の残置承諾については、本契約とは別に賃貸人との合意が必要であり、本契約書のみで賃貸人に対抗できるものではない点に注意する。また、造作の譲渡ではなく単なる中古厨房機器の売買であれば、より簡易な動産売買契約書で足りる場面もあり、内装造作を含む一体的な譲渡が想定される場合に本書式を用いる。
根拠法令としては、まず民法があり、引き渡された目的物の種類・品質・数量が契約内容に適合しない場合の契約不適合責任(修補請求、代金減額請求、契約解除、損害賠償請求)に関する規定が適用される。次に食品衛生法があり、営業許可は営業者ごと・施設ごとに取得する必要があるため、前の営業者が有していた許可は当然には引き継がれず、譲受人は自らの名義で施設基準に適合した営業許可を再取得しなければならない。さらに、賃貸借契約に基づく原状回復義務との関係では、借地借家法や賃貸借契約上の特約により、内装造作の扱い(残置可能か、賃貸人の承諾を要するか)が左右されるため、賃貸人との調整も並行して必要になる。
実務でよくある失敗として、第一に、譲渡対象の範囲があいまいなまま契約し、引渡後に「この設備は含まれていたはずだ」という争いになる例がある。第2条・別紙目録により対象物を具体的に特定し、双方立会いでの現物確認を必須とすることが有効である。第二に、譲受人が、譲渡対象の厨房設備をそのまま使えば営業許可を取得できると誤解し、実際には施設基準を満たさず改修費用が想定外に発生する例がある。第8条のように、施設基準適合の確認・改修は譲受人の責任であることを明記し、事前に保健所へ相談する運用が望ましい。第三に、賃貸人の承諾を得ないまま内装造作の譲渡を進め、後日賃貸人から原状回復を求められて譲受人が予期しない費用負担を強いられる例がある。第9条のように、賃貸人との関係は別途整理する必要がある旨を明記し、契約締結前に賃貸人の意向を確認しておくべきである。
契約不適合責任の期間設定や免責範囲の有効性、原状回復義務との調整方法は、個別の物件・賃貸借契約の内容によって結論が異なるため、契約締結前に専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 譲渡対象物を別紙目録で具体的に特定したか(含まれないものも明確にしたか)
- [ ] 譲渡代金・支払方法・支払時期を明記したか
- [ ] 引渡し時の現物確認・引渡確認書の作成手順を定めたか
- [ ] 契約不適合責任の期間・範囲(経年劣化の開示事項)を具体的に定めたか
- [ ] 食品衛生法上の施設基準適合・営業許可再取得の責任分担を明記したか
- [ ] 賃貸人との原状回復義務・造作残置の承諾関係を別途確認したか
- [ ] リース契約・担保権など第三者の権利の有無を確認・表明保証させたか
- [ ] 危険負担(引渡前の滅失・毀損時の扱い)を定めたか
- [ ] 秘密保持条項を必要に応じて設けたか
- [ ] 合意管轄裁判所を記載したか