不動産売買契約を手付金により解除する際の合意書。民法第557条の手付解除と履行の着手時期、宅地建物取引業法第39条の手付額制限を踏まえ精算方法を明記する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
手付解除合意書
第1部: 書式本文
第1条(前提事実) 売主〇〇〇〇(以下「甲」という。)と買主〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、〇年〇月〇日付で別紙物件目録記載の不動産(以下「本物件」という。)に関する売買契約(以下「原契約」という。)を締結し、乙は原契約締結時に甲に対し手付金として金〇〇円を交付した。
第2条(手付解除の合意) 甲及び乙は、原契約第〇条(手付解除条項)に基づき、本合意書をもって原契約を手付解除する旨を相互に確認する。
第3条(解除の方式の確認) 本手付解除は、〔選択A: 乙(買主)からの手付放棄による解除/選択B: 甲(売主)からの手付倍返しによる解除〕の方式によるものとする。
第4条(手付放棄による解除の場合の効果) 選択Aの場合、乙は既に交付した手付金金〇〇円の返還を請求しないものとし、甲はこれを没収する。
第5条(手付倍返しによる解除の場合の効果) 選択Bの場合、甲は乙に対し、受領済みの手付金と同額を加えた金〇〇円(手付金の倍額)を、本合意書締結日から〇日以内に支払う。
第6条(履行の着手の不存在の確認) 甲及び乙は、本合意書締結時点において、原契約に定める重要な債務(残代金の支払、所有権移転登記の準備等)の履行に着手していないことを相互に確認する。
第7条(原契約の終了) 原契約は、本合意書締結日をもって将来に向かって終了し、甲乙は原契約に基づく債権債務を相互に有しないことを確認する。
第8条(仲介手数料の取扱い) 原契約に仲介業者が関与している場合の仲介手数料の取扱いは、別途仲介業者との合意によるものとし、本合意書はこれに影響を及ぼさない。
第9条(清算条項) 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、原契約に関して何らの債権債務がないことを相互に確認する。
第10条(合意管轄) 本合意書に関する紛争は、本物件所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 売主向けの修正
A-1. 手付倍返しの支払方法を分割払いとする修正
修正後(第5条の代替):「甲は乙に対し、手付金の倍額を、本合意書締結日から〇日以内に金〇〇円、さらに〇日以内に残額を分割して支払う。」 一言解説: 売主が手元資金の都合上、倍返し原資を即座に用意できない場合の実務対応であるが、判例上、手付解除における「倍返し」は現実の提供を要するとされているため、乙(買主)の同意が前提となる修正である。
B. 買主向けの修正
B-1. 手付放棄に伴う原状回復義務の相互確認の追加
追加条文例:「乙は、本物件について既に占有・使用を開始していないことを確認し、甲は乙が原契約締結後に本物件に関して支出した費用について何らの請求もしないことを確認する。」 一言解説: 手付解除は履行の着手前に限り認められるため、乙が本物件の占有等を開始していないことを確認的に明記し、後日の履行着手の有無をめぐる紛争を防止する趣旨である。
C. 仲介業者が立ち会う場面での修正
C-1. 仲介業者による履行着手の有無の確認記録の追加
追加条文例:「本合意書に立ち会った仲介業者〇〇〇〇は、原契約締結後、乙が住宅ローンの本審査申込み、リフォーム工事の発注その他履行の着手とみられる行為を行っていないことを確認した旨を付記する。」 一言解説: 履行の着手の有無は事後的に争われやすい事実認定の問題であるため、取引に関与した仲介業者が合意時点での状況を記録として残しておくことは、後日の紛争予防に資する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、不動産売買契約締結後、残代金の支払や引渡し等の履行に着手する前の段階で、当事者の一方が契約を解消したいと考え、原契約に定める手付解除条項に基づき合意解除する場面で用いる。他方、既に相手方が履行に着手している場合(買主が住宅ローンの本審査を通過し、引越しの準備を進めている等)には、原則として手付解除ができなくなるため、本書式による解除ではなく債務不履行解除や合意解除(手付の授受を伴わない一般の解除)の枠組みを検討する必要がある。
根拠法令 民法第557条第1項は、買主が売主に手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる旨を定める。同項ただし書により、解除の相手方が履行に着手した後は、この方法による解除はできなくなる。宅地建物取引業法第39条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる場合、代金の額の10分の2を超える手付を受領できず、また、手付は必ず解約手付としての性質を有するものとみなす旨を定めており、業者が売主となる取引では特に注意を要する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、相手方が既に履行に着手しているにもかかわらず手付解除を主張し、相手方から履行着手の抗弁を受けて紛争化する失敗がある。第6条のように履行着手の不存在を相互に確認する条項を設けることで、後日の争いを予防する。第二に、売主が手付倍返しを合意しながら、現実の提供(現金の交付又は口座への着金)を怠り、解除の効力発生時期をめぐって争いになる失敗がある。判例上、手付倍返しによる解除は口頭の意思表示のみでは足りず現実の提供を要するとされているため、第5条のとおり支払期限と方法を明確にすることが重要である。第三に、宅地建物取引業者が売主である取引において、受領済みの手付金額が代金の10分の2を超えていた場合、宅地建物取引業法第39条第1項の制限との関係が問題となりうる失敗がある。業者が売主となる取引では手付金額の上限規制を事前に確認しておく必要がある。
第四に、原契約に手付解除の期限(例えば「〇年〇月〇日まで」)が定められているにもかかわらず、その期限を経過した後に本合意書を締結してしまい、原契約上の手付解除条項の適用自体が争われる失敗もある。原契約の手付解除条項に期限の定めがある場合は、本合意書の締結日が当該期限内であることを事前に確認しておく必要がある。第五に、住宅ローンの事前審査のみを履行の着手に含めるかどうかの評価を誤り、既に本審査まで進んでいた買主について手付解除が可能であると誤認してしまう失敗もある。履行の着手に該当するか否かは個別の事実関係の評価によるため、単純な形式的基準のみで判断すべきではない。
手付解除の可否(履行着手の有無の評価)は事実関係に基づく判断であるため、疑義がある場合は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約に手付解除条項が定められているか確認したか
- [ ] 相手方が原契約の履行に着手していないことを確認したか
- [ ] 手付放棄による解除か、手付倍返しによる解除かを確認したか
- [ ] 手付倍返しの場合、現実の提供(支払方法・期限)を明確にしたか
- [ ] 仲介業者が関与している場合、仲介手数料の取扱いを別途確認したか
- [ ] 宅地建物取引業者が売主である場合、手付金額が代金の10分の2以内であるか確認したか
- [ ] 原契約に基づく債権債務の清算条項を設けたか
- [ ] 解除の効力発生日を明確にしたか
- [ ] 原契約に手付解除の期限の定めがある場合、期限内の合意であることを確認したか
- [ ] 住宅ローン本審査の状況など履行着手を疑わせる事実がないか確認したか