出願前後に発明者から企業へ権利を移す譲渡証書。特許法第33条・第34条に基づき、出願人名義変更届の添付書類として提出できます。
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特許を受ける権利の譲渡証書
第1部: 書式本文
特許を受ける権利譲渡証書
譲渡人【発明者氏名】(以下「甲」という。)及び譲受人【企業名】(以下「乙」という。)は、下記発明に係る特許を受ける権利の譲渡に関し、以下のとおり合意する。
第1条(譲渡の合意) 甲は、甲が創作した下記発明(以下「本発明」という。)について有する特許を受ける権利(特許法第33条に定める権利をいう。以下同じ。)の全部を、乙に譲渡する。 記 発明の名称:【発明の名称】 発明の内容の概要:【発明の概要】 関連する特許出願番号(出願済の場合):【特願番号】
第2条(譲渡の範囲) 1. 前条の譲渡には、本発明について将来国内外で特許出願をする権利、既にした出願(ある場合)に基づく一切の権利、及び優先権主張の基礎とする権利を含む。 2. 甲は、本発明に関する外国出願の権利(パリ条約上の優先権を含む。)も乙に譲渡するものとし、乙が単独で各国への出願手続を行うことに同意する。
第3条(対価) 1. 乙は、甲に対し、本譲渡の対価として金【対価の額】円(消費税別)を、【支払期日】までに甲の指定する口座に振り込む方法により支払う。 2. 本発明が特許法第35条に定める職務発明に該当する場合、前項の対価は同条に基づく相当の利益の一部又は全部を構成するものとし、乙は別途定める職務発明規程に基づく算定根拠を甲に開示する。
第4条(名義変更手続への協力) 1. 本発明について既に特許出願がされている場合、甲は、乙が特許庁長官に対し出願人名義変更届を提出する手続に必要な書類(本証書を含む。)に速やかに署名又は記名押印して交付する。 2. 甲は、出願前の譲渡である場合は乙が特許出願人として出願することに同意し、発明者として発明者名の記載に協力する。
第5条(発明者人格権の尊重) 乙は、本発明に関する特許出願及び特許公報において、甲を発明者として表示する。本条は特許を受ける権利の譲渡によっても消滅しない発明者の人格的利益に配慮したものである。
第6条(甲の表明保証) 甲は、乙に対し、次の各号を表明し保証する。 一 本発明が甲の独自の創作に係るものであり、第三者の権利を侵害しないこと 二 本発明について、乙以外の第三者に譲渡、実施許諾その他の処分をしていないこと 三 本発明の内容を第三者に開示していないこと、又は開示した場合は特許法第30条の新規性喪失の例外規定の適用を受けるために必要な措置を講じていること
第7条(秘密保持) 甲及び乙は、本発明の内容及び本証書の内容を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。ただし、法令に基づく開示を除く。
第8条(協力義務) 甲は、乙が本発明について特許出願、審査対応、拒絶理由への意見書・補正書の提出、特許異議申立てへの対応その他の手続を行うにあたり、必要な範囲で書類への署名その他の協力を行う。
第9条(費用負担) 本発明に係る特許出願、審査請求、登録その他一切の費用は、乙の負担とする。
第10条(準拠法及び管轄) 本証書は日本法に準拠し、本証書に関して紛争が生じた場合、【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため、本証書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【作成日】
甲(譲渡人・発明者) 住所: 氏名: 印
乙(譲受人) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 譲受企業向け
自社の従業員発明について、複数の共同発明者から漏れなく権利を承継する場面を想定する。第1条の当事者欄を発明者ごとに複数用意し、共同発明者全員の署名を得ないと持分全部を承継できない点に注意する。 before:「甲は…特許を受ける権利の全部を、乙に譲渡する。」 after:「甲(発明者A)及び丙(発明者B)は、各自が有する本発明に係る特許を受ける権利の持分の全部を、それぞれ乙に譲渡する。」 共同発明の場合、特許法第33条第3項により他の共有者の同意なく持分を譲渡できないため、共有者全員が譲渡人として署名する体裁に改める必要がある。
B節 発明者・個人向け
退職予定の元従業員や外部研究者など、企業と雇用関係にない発明者が譲渡する場面では、職務発明規程が適用されないため第3条第2項を削除し、対価を市場価格に基づく協議で定める条項に差し替える。 before:「本発明が特許法第35条に定める職務発明に該当する場合、前項の対価は…相当の利益の一部又は全部を構成する」 after:「本対価は、甲乙間の自由な交渉により合意した売買代金であり、特許法第35条の相当の利益に関する規定の適用を受けない。」 個人発明者は交渉力で劣ることが多いため、対価の算定根拠(想定売上、実施料率相場等)を書面化しておくことが望ましい。
C節 出願前譲渡/出願後譲渡
出願後の譲渡では、特許法第34条第4項により特許庁長官への届出をしなければ譲渡の効力自体が生じない。第4条を次のように補強する。 before:「甲は…出願人名義変更届を提出する手続に必要な書類…に速やかに署名又は記名押印して交付する。」 after:「甲及び乙は、本証書調印後【10】営業日以内に共同して出願人名義変更届を特許庁に提出するものとし、乙は届出完了後速やかに甲に受理番号を通知する。」 出願前譲渡は当事者間の合意のみで権利移転の効力が生じるが、第三者対抗要件として乙が自ら出願することが必要である(特許法第34条第1項)。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、発明者個人(又は共同発明者)から企業その他の法人へ、特許を受ける権利を移転する場面で使用する。既に共同開発契約や職務発明規程で権利帰属が明確に定まっている場合は、本証書は権利移転を確認する書面として簡易に用いることができるが、逆に権利の帰属自体に争いがある場合や、発明者が複数存在し一部の同意しか得られていない場合には、本証書のみで対抗要件を具備できないため使用を避けるべきである。
根拠法令は、特許を受ける権利の移転を定める特許法第33条、出願前後の対抗要件を定める特許法第34条、職務発明の相当の利益を定める特許法第35条である。外国出願を伴う場合はパリ条約による優先権主張も考慮する必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、共同発明者の一部からしか譲渡を受けず、後日他の共有者から権利の主張を受けるケースがある。対策として第2部A節のとおり共有者全員を当事者に加える条項構成とする。第二に、出願後の譲渡で名義変更届の提出を怠り、対抗要件を欠いたまま第三者に権利を主張できなくなるケースがある。対策として第4条に届出期限を明記し、乙の履行を義務付ける。第三に、職務発明の対価算定根拠を書面に残さず、後日「相当の利益」の水準を巡って甲乙間で紛争化するケースがある。対策として第3条第2項のように算定根拠の開示義務を条項化する。
なお、対価の相当性や職務発明規程との整合性は個別の事情によって判断が分かれるため、個別事案は専門家に確認の上で最終的な条項及び金額を確定させることを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 発明者が単独か共同かを確認し、共同の場合は全員を当事者としているか
- [ ] 本発明の内容(名称・概要・出願番号)を別紙又は本文に具体的に特定しているか
- [ ] 出願前譲渡か出願後譲渡かを確認し、対応する対抗要件条項を選択しているか
- [ ] 職務発明に該当するかどうかを確認し、該当する場合は職務発明規程との整合性を確認したか
- [ ] 対価の額及び支払時期を明記しているか
- [ ] 外国出願・優先権主張に関する権利も譲渡範囲に含めるか検討したか
- [ ] 発明者名の表示(発明者人格的利益)に関する条項を置いているか
- [ ] 名義変更届の提出期限及び提出義務者を明記しているか
- [ ] 甲の表明保証(独自創作性・第三者権利非侵害・未開示性)を確認しているか
- [ ] 新規性喪失の例外規定の適用が必要な事情がないか確認したか
- [ ] 署名欄の当事者情報(住所・氏名・代表者名)に不備がないか
- [ ] 管轄裁判所の指定が実務上適切な場所になっているか