生前贈与を受けた相続人が相続分がない旨を証明し登記に用いる書式。民法第903条の特別受益の持戻しを前提に、作成時の留意点も付記します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
特別受益証明書(相続分不存在証明書)
第1部: 書式本文
私〇〇〇〇(以下「証明者」という。)は、被相続人〇〇〇〇(以下「被相続人」という。)の相続人として、下記のとおり証明する。
第1条(被相続人の表示) 被相続人の氏名、最後の住所、本籍及び死亡日は、別紙のとおりとする。証明者は被相続人の【続柄】であり、法定相続人の一人である。
第2条(特別受益の内容) 証明者は、被相続人の生前、【贈与の時期】に、【贈与財産の内容(不動産・現金等)】の贈与を受けた。当該贈与は、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けたものであり、民法第903条第1項に定める特別受益に該当する。
第3条(特別受益の価額) 前条の贈与財産の価額は、【贈与時又は相続開始時の評価額】円と評価される。
第4条(相続分の不存在の確認) 証明者は、前条の特別受益の価額が、民法第900条及び第901条により算定される証明者の法定相続分の価額を超えることを確認し、被相続人の相続について取得すべき相続分が存在しないことを証明する。
第5条(本証明書の使用目的) 本証明書は、被相続人の遺産のうち【不動産の表示等】について、他の相続人〇〇〇〇が単独で又は他の共同相続人と共に相続登記その他の相続手続を行うために使用するものであることを承知の上、証明者は本証明書を作成する。
第6条(遺産分割協議との関係) 本証明書は、民法第909条に定める遺産分割の効力を有する遺産分割協議書とは異なり、証明者が特別受益により具体的相続分を有しないことを事実として証明するものである。証明者は、本証明書の作成をもって、被相続人の遺産に対する権利主張を行わない。
第7条(証明の任意性) 証明者は、本証明書を第三者から強要されることなく、自己の自由な意思に基づいて作成することを確認する。
第8条(印鑑証明書の添付) 本証明書には、証明者の印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)を添付する。
【作成日】
証明者: 【住所・氏名】 実印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 証明書を作成する相続人向けの修正
A-1. 特別受益の範囲を限定する文言の追加
追加条文例:「証明者が本証明書により証明する事項は、被相続人の遺産のうち第5条に記載の不動産に関する相続登記手続に限定されるものであり、その他の遺産及び債務に関する権利義務には影響を及ぼさない。」 一言解説: 特別受益証明書は本来相続分の不存在を包括的に証明するものだが、実務上は特定不動産の登記のためだけに作成を求められることが多く、証明者が過大な権利放棄と誤解しないよう使用範囲を限定する修正である。
A-2. 代償の有無に関する確認条項
追加条文例:「証明者は、本証明書の作成に関連して他の相続人から【代償金額】円の支払を受けるものとし、当該支払と引き換えに本証明書を交付する。」 一言解説: 特別受益証明書が実質的には遺産分割の代わりに無償で作成させられる例があり、証明者の保護のため対価の有無を明記する修正である。
B. 登記申請をする相続人向けの修正
B-1. 添付書類の完全性確認条項
追加条文例:「本証明書には、証明者の印鑑証明書のほか、被相続人との続柄を証する戸籍謄本及び特別受益の事実を裏付ける【贈与契約書・登記事項証明書等】を添付するものとする。」 一言解説: 登記実務では印鑑証明書に加えて特別受益の実在性を示す資料の添付が求められる場合があるため、登記申請者側は添付書類を具体的に指定する修正を行う。
B-2. 遺産分割協議が別途成立している場合の整理条項
追加条文例:「本証明書は、他の共同相続人間で成立した令和【 】年【 】月【 】日付遺産分割協議書の内容と矛盾しないものであり、証明者は当該協議書の内容についても異議を述べないことを確認する。」 一言解説: 特別受益証明書と遺産分割協議書が併存するケースでは内容の齟齬が登記官から指摘されることがあるため、登記申請者側は両書面の整合性を確認する条項を加えることが望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、生前に多額の贈与を受けた相続人が、自己の具体的相続分がないことを自認し、他の相続人による相続登記等の手続を円滑にするために用いる。他方、特別受益の事実がない、又はその評価額が法定相続分に満たない場合には、本証明書を安易に作成すべきではなく、正式な遺産分割協議書を作成する必要がある。特別受益証明書は登記実務上の便法として広く用いられているが、家庭裁判所における審判では特別受益の主張立証が別途必要となる点にも留意する。
根拠法令 特別受益については民法第903条が規定し、共同相続人中に被相続人から遺贈を受け、又は婚姻・養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、その贈与等の価額を相続財産に加えたものを相続財産とみなし(いわゆる持戻し)、法定相続分から当該価額を控除した残額をもって具体的相続分とする旨を定めている。特別受益の価額が法定相続分の価額を超え、又はこれに等しい場合には、受益者はその相続分を受けることができない(同条第2項)。この規定を背景に、実務上、特別受益証明書(相続分不存在証明書)を作成して不動産登記令別表等に基づく相続登記の添付書類とする運用が定着している。もっとも本証明書自体は民法上の制度ではなく、登記実務における便宜的な取扱いであることに注意を要する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、実際には特別受益に該当する贈与を受けていない、又はその価額が法定相続分に満たないにもかかわらず、他の相続人の求めに応じて安易に証明書へ署名押印してしまい、後日その効力を争う紛争に発展する失敗がある。第2条及び第3条のように贈与の内容と価額を具体的に記載し、証明者自身が内容を十分確認した上で作成することが対策となる。第二に、証明書の作成と引き換えに何らの代償も得られず、実質的に相続分を無償で失う結果となる失敗がある。A-2のように代償の有無を明記することが対策となる。第三に、証明者が強迫や欺罔により作成させられ、後に意思表示の瑕疵(民法第96条)を主張する事態が生じる失敗がある。第7条のように任意性を明記し、可能な限り公証人による認証を得ることが対策となる。
特別受益への該当性や評価額の算定は個別の贈与の性質や時期によって判断が分かれるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。なお、令和3年民法改正により新設された民法第904条の3では、相続開始から10年を経過した後の遺産分割においては、原則として特別受益や寄与分の主張ができなくなる旨が定められており、特別受益証明書を用いた早期の権利関係整理が期間の観点からも重要性を増している。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 証明者が受けた贈与が民法第903条の特別受益に該当することを確認したか
- [ ] 特別受益の価額が法定相続分の価額を超えることを具体的に算定したか
- [ ] 証明書の使用目的(相続登記の対象不動産等)を特定したか
- [ ] 証明者への代償の有無及び金額を確認したか
- [ ] 証明者の印鑑証明書(発行後3か月以内)を用意したか
- [ ] 証明者と被相続人との続柄を戸籍謄本で確認したか
- [ ] 証明者が強迫・欺罔なく自由意思で作成することを確認したか
- [ ] 他の相続人との間で紛争性がないか確認したか
- [ ] 登記申請に必要な他の添付書類(戸籍・遺産分割協議書等)との整合を確認したか
- [ ] 公証人による認証取得の要否を検討したか