自社商品を継続的に仕入れて販売する特約店との契約書。独占禁止法第2条第9項第4号の再販売価格の拘束に当たらないよう販売価格条項を設計します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
特約店契約書
第1部: 書式本文
特約店契約書
【メーカー商号】(以下「甲」という。)と【特約店商号】(以下「乙」という。)は、甲製造商品の継続的取引に関し、以下のとおり特約店契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的及び特約店の地位) 甲は、乙を別紙記載の商品(以下「本商品」という。)の特約店として認定し、乙は本商品を継続的に仕入れて自己の名と計算において第三者に販売する。乙の地位は甲の代理人又は使用人を伴わない独立事業者としての取引先であることを、甲乙は相互に確認する。
第2条(個別売買契約) 本契約は、甲乙間で継続的に締結される個別売買契約に共通して適用される基本的取引条件を定めるものであり、品目、数量、単価及び納期は乙の注文書及び甲の注文請書により成立する。
第3条(仕入計画及び供給) 1. 乙は、四半期ごとに翌四半期の仕入計画を甲に提出する。甲はこれを参考に供給体制を整えるよう努めるが、提出は乙の発注義務を発生させない。 2. 甲は、天災その他の不可抗力又は原材料調達上の事情により供給が困難な場合、乙への供給数量を調整できる。
第4条(特約店の認定要件及び取消し) 1. 乙は、別紙に定める特約店認定基準(取扱実績、販売体制、財務状況等)を維持する。 2. 乙が認定基準を著しく下回ったと甲が合理的に判断したときは、甲は乙に是正協議を求めることができ、【3】か月の是正期間を経ても改善が見られない場合、甲は特約店認定を取り消すことができる。
第5条(販売価格) 1. 甲が乙に本商品を販売する価格(仕入価格)は、別紙の価格表による。 2. 乙が本商品を第三者に再販売する価格は、乙が自己の判断と責任において自由に決定する。甲は、乙に再販売価格を指示し、遵守を強制し、又はこれを遵守しない乙に出荷停止その他の不利益な取扱いを行ってはならない。 3. 甲が乙に提示する「参考小売価格」又は「メーカー希望小売価格」は、あくまで参考情報の提供にとどまり、独占禁止法第2条第9項第4号の再販売価格の拘束に該当する運用をしてはならない。
第6条(表示及び販売促進資料の使用) 甲は乙に対し、本商品の販売に必要な範囲で甲の商標及び販売促進資料の使用を許諾する。乙は、甲の事前の承諾を得ることなく、甲の商標を用いた独自の広告表現を行ってはならない。
第7条(目標達成報奨金) 甲は、乙が別紙の年間取扱目標を達成した場合、別紙の算定方法による報奨金を支払うことができる。報奨金の支払いは、乙の再販売価格の設定を条件としてはならない。
第8条(競合品の取扱い) 乙は、本契約の有効期間中、甲の書面承諾を得ることなく、本商品と実質的に競合する他社商品を主力商品として取り扱ってはならない。本契約締結前から取り扱う商品はこの限りでない。
第9条(与信及び代金決済) 1. 甲は、乙との取引に先立ち与信審査を行い、与信枠を設定できる。 2. 乙は、甲が請求する代金を、別紙の決済条件(締め日及び支払期日)に従い支払う。乙の与信枠を超える発注があった場合、甲は当該発注の履行を留保できる。
第10条(契約期間) 1. 本契約の有効期間は、締結日から1年間とする。 2. 期間満了の3か月前までに甲乙いずれからも書面による更新拒絶の意思表示がないときは、本契約は同一条件でさらに1年間更新され、以後も同様とする。
第11条(中途解除及び解除事由) 1. 甲又は乙は、6か月前までに書面で通知することにより本契約を中途解約できる。 2. 相手方に契約上の重大な義務違反があり催告後是正されない場合、又は支払停止、破産手続開始の申立て等の信用悪化事由に該当した場合、他方当事者は無催告で解除できる。
第12条(契約終了時の措置) 本契約終了時、乙は甲商標の使用を中止し看板・POP等を撤去する。在庫の買取りの要否及び条件は別紙による。
第13条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行を通じて知り得た相手方の営業上・技術上の情報を秘密として保持し、相手方の承諾なく第三者に開示してはならない。本義務は契約終了後も3年間存続する。
第14条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団等の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。違反した場合、相手方は無催告で本契約を解除できる。
第15条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
【作成日】
甲(メーカー) 住所: 名称: 代表者: 印 乙(特約店) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 メーカー(本部)向け
メーカーとしては、認定基準を下回る特約店を機動的に見直したい。
before:「乙が認定基準を著しく下回ったと甲が合理的に判断したときは、甲は乙に対し是正のための協議を求めることができ、【3】か月の是正期間を経ても改善が見られない場合、甲は特約店認定を取り消すことができる。」 after:「乙が認定基準を2四半期連続して下回った場合、甲は是正期間を設けることなく特約店認定を取り消し、本契約を解除することができる。」 解説: 是正期間を必須とすると基準未達の特約店の存在が長期化しブランド全体の信用を損なうため、継続的な未達を明確な解除事由とし機動的に管理できるようにする。
before:「甲は、乙に対し再販売価格を指示し、遵守を強制し、又はこれを遵守しない乙に対して出荷停止その他の不利益な取扱いを行ってはならない。」 after:「甲は、乙の再販売価格の決定に関与しない。ただし、ブランドイメージ維持のため過度な廉売を行わないよう要請でき、当該要請は乙の任意の協力を求めるものであって、従わないことを理由とする出荷停止等は行わない。」 解説: 廉売抑制の要請が事実上の強制と評価されると再販売価格維持行為に該当するリスクが高まるため、任意性を明文化する。
B節 特約店向け
特約店としては、供給停止によって事業継続に支障が生じることを防ぎたい。
before:「甲は、天災その他の不可抗力又は原材料調達上の合理的な事情により供給が困難な場合、乙への供給数量を調整することができる。」 after:「甲は、供給が困難な場合であっても、既存の特約店間で可能な限り公平に供給数量を配分するよう努め、特定の特約店のみを不利に扱ってはならない。」 解説: 供給調整の裁量を甲に全面的に委ねると特定の特約店が恣意的な不利益を受けるおそれがあるため、公平配分の努力義務を加える。
before:「本契約終了時に乙が保有する本商品在庫の買取りの要否及び条件は、別紙に定めるところによる。」 after:「本契約が甲の都合による更新拒絶又は解約により終了した場合、甲は、乙が保有する未使用かつ再販売可能な在庫を、乙の仕入価格相当額で買い取るものとする。」 解説: 甲都合による契約終了時に在庫がそのまま損失となることを避けるため、買取義務を明記する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、メーカーが自社商品の販売網を構築するにあたり、特定の取引先を「特約店」として認定し、継続的な仕入れと一定の協力関係(認定基準の維持、目標達成への努力等)を前提とした取引を行う場面で使用する。取引先を特に選別せず誰でも購入できる卸売取引には馴染まないため、その場合は卸売取引契約書を用いるべきである。乙が甲の名において取引を行う代理店型の実態であれば、委任・代理を基礎とした契約書を用いる必要がある。
根拠法令としては、再販売価格の拘束を不公正な取引方法の一類型として定める独占禁止法第2条第9項第4号が最も重要である。同号は、正当な理由がないのに自己の供給する商品を購入する相手方に対しその商品の販売価格を定めてこれを維持させること等を規制しており、違反時は公正取引委員会による排除措置命令(独占禁止法第20条)の対象となり得る。また、認定取消しや供給調整が優越的地位の濫用(同法第2条第9項第5号)に該当しないかも取引依存度が高い場合には検討を要する。競合品取扱制限は拘束条件付取引(同項第6号)に該当するリスクも念頭に置く。
実務でよくある失敗として、第一に、「参考小売価格」の提示にとどめるつもりが実際の運用で特約店に価格遵守を事実上強制し、遵守しない特約店への出荷を停止するなどして再販売価格維持行為と評価されるケースがある。対策として第5条のように価格拘束の禁止を明文化し、営業現場の運用が条項の趣旨に反しないよう体制を整備する。第二に、報奨金の算定条件に事実上の価格遵守を組み込み、インセンティブを介して間接的に価格を拘束してしまうケースがある。対策として第7条のように報奨金の支払いが価格設定を条件としない旨を明記する。第三に、認定基準の内容や取消手続を曖昧にしたまま運用し、認定取消しの正当性を巡って紛争化するケースがある。対策として第4条及び別紙で認定基準を具体的に定める。再販売価格拘束への該当性は個別の事実関係によって判断が分かれるため、個別事案は専門家に確認の上で価格関連条項の運用方法を確定することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 乙の地位が買取再販型の特約店であり、代理店型(媒介・取次型)でないことを確認したか
- [ ] 特約店認定基準及び認定取消しの手続を具体的に定めているか
- [ ] 個別売買契約の成立方法(注文書・注文請書)を明確にしているか
- [ ] 仕入価格と再販売価格を条項上区別し、再販売価格への関与を禁止する条項を置いているか
- [ ] 「参考小売価格」等の提示が再販売価格拘束と評価されない設計になっているか
- [ ] 目標達成報奨金の算定条件が価格遵守を条件としていないか確認したか
- [ ] 競合品取扱制限の範囲が必要最小限度にとどまっているか
- [ ] 与信枠及び代金決済条件を明記しているか
- [ ] 契約期間、更新及び中途解約の予告期間を定めているか
- [ ] 契約終了時の在庫買取りの要否及び条件を定めているか
- [ ] 商標使用許諾の範囲及び契約終了後の使用中止義務を明記しているか