取引基本契約を当事者の合意で終了させる際の解約合意書。民法第540条以下の解除規定と第545条の原状回復を踏まえ、残存発注・在庫・清算方法を定めます。
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取引基本契約の解約合意書
第1部: 書式本文
【甲商号】(以下「甲」という)と【乙商号】(以下「乙」という)は、甲乙間で【20●●年●●月●●日】付で締結した【取引基本契約書の名称】(以下「原契約」という)を合意により終了させるにあたり、次のとおり解約合意書(以下「本合意書」という)を締結する。
第1条(原契約の合意解約) 甲及び乙は、原契約を【20●●年●●月●●日】(以下「解約日」という)をもって、合意により終了させる。
第2条(残存個別発注の取扱い) 1. 解約日時点で原契約に基づき既に発注済みで、給付が未完了の個別契約(以下「残存発注」という)については、次のとおり取り扱う。 (1) 【●●年●●月●●日】までに納期が到来する残存発注は、原契約の条件に従いこれを履行する。 (2) 前号以外の残存発注は、解約日をもってこれを取り消す。 2. 前項(2)により取り消された発注に関連して当事者の一方に生じた費用(仕掛品の製造費用、原材料の調達費用等)の負担については、別紙【●】記載のとおり精算する。
第3条(在庫品の取扱い) 1. 解約日時点で乙が保有する、原契約に基づき甲向けに製造又は調達した専用在庫品(以下「在庫品」という)について、甲は次のいずれかの方法により引き取るものとする。 (1) 甲が指定する条件で在庫品を買い取る。 (2) 乙が第三者へ転用又は処分し、これにより生じた損失を甲乙協議のうえ按分する。 2. 在庫品の数量、評価額及び引取方法は、本合意書締結日から【2】週間以内に甲乙協議のうえ別紙【●】に定める。 3. 汎用品(甲専用の仕様を伴わない在庫品)については、乙が自己の判断で処分できるものとし、甲による買取義務を負わない。
第4条(債権債務の清算) 1. 甲及び乙は、解約日までに発生した未払代金、立替金その他一切の債権債務について、本合意書締結日から【1】か月以内に相互に確認し、清算する。 2. 甲及び乙は、相殺可能な債権債務がある場合は、対当額において相殺できるものとする。
第5条(有償支給品・貸与品の返還) 甲が乙に有償又は無償で支給又は貸与した金型、原材料、設備その他の資産があるときは、乙は解約日から【1】か月以内にこれを甲に返還し、又は甲の指示に従い処分する。返還又は処分に要する費用の負担は別紙【●】のとおりとする。
第6条(原状回復義務の範囲) 本合意書に基づく原契約の終了は将来に向かってのみ効力を生じ、解約日以前に適法に履行された個別契約の効力(既履行部分の給付及び対価の授受)には影響しない。ただし、第2条から第5条までに定める事項については、その定めに従い原状回復及び清算を行う。
第7条(競業避止・取引先紹介等) 【該当する場合のみ規定】甲及び乙は、解約日から【●】か月間、原契約に関連して知り得た相手方の主要取引先に対し、相手方を介さずに直接取引を働きかけないものとする。
第8条(秘密保持義務の存続) 原契約に定める秘密保持義務は、解約日後【●】年間、本合意書においても引き続き効力を有する。
第9条(清算完了の確認・清算条項) 甲及び乙は、第2条から第5条までに定める清算及び返還が完了したときは、その旨を書面で相互に確認する。当該確認をもって、甲及び乙は、原契約及び本合意書に関し、本合意書に明記した債権債務を除き、相互に何らの債権債務がないことを確認する。
第10条(反社会的勢力の排除に関する確認) 甲及び乙は、本合意書締結時点においても、自己及び役員が反社会的勢力に該当しないことを改めて確認する。
第11条(協議及び管轄) 本合意書に定めのない事項又は疑義が生じた事項については甲乙誠実に協議のうえ解決するものとし、解決しない場合は【●●地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 解約を申し出る側向け 残存発注の履行範囲をできる限り限定し、早期の関係終了を図る。第2条1項(1)の履行対象期間を「解約合意書締結日から起算して1か月以内に納期が到来するものに限る」のように短く区切り、それ以降の発注は原則取り消す方向とする。在庫品の買取りについても、第3条1項を「甲は専用仕様の在庫品のうち、解約日から遡って3か月以内に甲の発注に基づき製造されたものに限り買い取る」とし、買取対象・買取価格の上限を限定する修正が典型的である。あわせて第7条の競業避止条項は、解約を申し出る側(多くは発注者側)が自社の取引先保護のために追加を求めるケースが多い。
B. 解約を受ける側向け 残存発注の履行猶予及び在庫品の買取義務を厚くする方向で修正する。第2条1項(1)の履行対象期間を「解約日から3か月以内に納期が到来するものを含む」のように延長し、仕掛品・調達済み原材料に係る費用についても第2条2項で「乙に生じた製造原価相当額を甲が負担する」旨を明記する。第3条1項についても、専用仕様在庫品に加え、甲からの内示・見込発注に基づき合理的に準備した在庫についても買取対象に含める修正を求めることが多い。あわせて第5条の返還費用について、甲負担とする修正を求める。
C. 中立・折衷案 残存発注の履行範囲は「解約合意書締結日から起算して1〜2か月以内に納期が到来するもの」を目安とし、それ以外は個別に協議のうえ取消し又は履行継続を決定する条項(第2条1項に「(3)前2号以外のものは、甲乙協議のうえ個別に取扱いを決定する」を追加)とする。在庫品の取扱いも、専用仕様品については原則買取り、汎用品については乙の処分に委ねるという役割分担を維持しつつ、評価額の算定方法(原価法・市場価格法等)を別紙で明確化することで双方の予見可能性を確保する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、取引基本契約の当事者双方が取引関係の終了について合意に至っている場面で、終了に伴う後始末(残存発注の処理、在庫の清算、金型・支給品の返還、債権債務の確認)を明確化するために使用する。一方当事者が契約違反を理由に一方的解除を主張する場面や、更新拒絶をめぐって当事者間に争いがある場面には適さず、そうした場合は解除通知書や、場合によっては訴訟・ADRを含めた紛争解決手続の検討が必要になる。
根拠法令としては、民法第540条以下(解除権の行使、解除の効果)及び第545条(解除の効果としての原状回復義務、既履行部分の返還)が基本となる。もっとも、本書式が想定する「合意解約」は、法定・約定の解除権行使ではなく当事者間の新たな合意(合意解約)によるものであり、その効力(将来効か遡及効か)は本合意書の定めによって決まる点が重要である。第6条のように、原則として将来に向かってのみ効力を生じさせ、既履行部分には影響を及ぼさない旨を明記することで、民法第545条が定める遡及的な原状回復義務の適用による混乱(既に対価を得て履行済みの個別契約まで清算対象となること)を避けるのが実務上一般的である。加えて、継続的契約の終了に伴う損失(在庫・仕掛品・専用設備投資の未回収分)の負担については、判例上、継続的契約関係の終了に関する信義則上の配慮義務が問題となることがあるため、清算条項を具体的に定めておくことが紛争予防につながる。
実務でよくある失敗として、第一に、原契約を終了させる合意のみを行い、残存発注や在庫品の取扱いを定めないまま契約関係を終了させてしまい、後日、乙側の未回収在庫・仕掛品費用をめぐる紛争に発展する例が多い。第2条・第3条のように残存発注と在庫品の取扱いを具体的に定めることが最大の対策となる。第二に、解約合意書に清算条項(第9条のような、記載外の債権債務が存在しないことの相互確認)を設けないため、解約後に想定外の請求が蒸し返される例がある。清算条項を設けることでこのリスクを軽減できる。第三に、秘密保持義務や競業避止義務が原契約終了とともに当然消滅すると誤解し、解約後の情報漏洩や顧客の奪い合いに対応できない例がある。第8条・第7条のように存続条項を明記する必要がある。在庫評価額の算定基準や損失按分の考え方は業種・取引実態によって大きく異なるため、金額の大きい清算を伴う場合は個別に専門家へ確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト・解説の確認項目
- [ ] 原契約の名称・締結日・当事者名が正確に特定されているか
- [ ] 解約日(契約終了日)が明確に定められているか
- [ ] 残存発注のうち履行を継続するものと取り消すものの線引き基準が明確か
- [ ] 取消しとなる残存発注に伴う費用負担(仕掛品・原材料調達費等)の精算方法を定めたか
- [ ] 専用仕様在庫品と汎用品の区分・買取条件が明確か
- [ ] 在庫評価額の算定方法(原価法・市場価格法等)を別紙等で明示したか
- [ ] 有償支給品・貸与品(金型、設備等)の返還期限・費用負担を定めたか
- [ ] 未払代金その他債権債務の清算期限を定めたか
- [ ] 秘密保持義務・競業避止義務など解約後も存続させる条項を明記したか
- [ ] 清算完了確認(記載外債権債務がないことの相互確認)条項を設けたか
- [ ] 合意解約の効力を将来効とするか遡及効とするかを明確にしたか
- [ ] 合意管轄裁判所の選定が適切か