新規・既存取引先の信用調査と与信限度を定める社内基準。会社法第362条第4項第6号の内部統制システム構築義務を踏まえ、審査手順と決裁権限を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
取引先与信管理に関する社内基準
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本基準は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)が取引先に対して信用取引(掛売り、手形取引その他代金後払いを内容とする取引をいう。以下同じ。)を行うにあたり、取引先の信用状態を調査し、与信限度額を設定し、これを継続的に管理するための手順及び決裁権限を定めることを目的とする。本基準は、会社法第362条第4項第6号が取締役会の専決事項として定める内部統制システムの構築(損失の危険の管理に関する体制の整備を含む。)の一環として策定するものである。
第2条(定義) 1. 「与信」とは、取引先に対し、商品若しくは役務の提供又は金銭の貸付けを行った時から代金若しくは元利金の回収が完了するまでの間、会社が当該取引先に対して有する未回収債権の残高をいう。 2. 「与信限度額」とは、特定の取引先について会社が許容する与信の上限額をいう。 3. 「与信管理対象取引先」とは、信用取引を行い、又は行う予定のあるすべての取引先をいう。
第3条(適用範囲) 本基準は、営業部門、経理・財務部門その他与信管理対象取引先との取引に関与するすべての部門及び役職員に適用する。
第4条(新規取引先の信用調査) 1. 営業部門は、新規に信用取引を開始しようとする取引先について、次の各号に掲げる資料を収集し、経理・財務部門に取引先概要書とともに提出しなければならない。 一 商業登記事項証明書 二 直近【3】期分の決算書又はこれに準ずる財務資料 三 信用調査機関による調査報告書 四 取引先の主要な取引銀行、主要取引先及び業歴に関する情報 2. 経理・財務部門は、前項の資料に基づき、取引先の財務内容、支払能力及び業界内の評判を審査し、与信可否及び与信限度額の原案を作成する。 3. 決算書等の入手が困難な小規模事業者又は個人事業主との取引については、代表者の資力に関する資料その他会社が合理的と認める代替資料により審査するものとする。
第5条(与信限度額の算定基準) 1. 与信限度額は、取引先の自己資本額、売上高、支払能力その他の財務指標を基礎とし、取引実績及び取引の継続見込みを勘案して算定する。 2. 具体的な算定方法及び基準は、別紙「与信限度額算定基準表」に定めるところによる。
第6条(与信限度額の決裁権限) 1. 与信限度額の決裁権限は、次の各号のとおり金額区分に応じて定める。 一 【500】万円以下: 経理・財務部門長 二 【500】万円超【3,000】万円以下: 担当役員 三 【3,000】万円超: 取締役会 2. 前項の決裁権限者は、決裁にあたり与信管理台帳及び審査資料を確認しなければならない。
第7条(既存取引先の与信見直し) 1. 経理・財務部門は、与信管理対象取引先について、少なくとも年1回、直近の決算書その他の資料に基づき与信限度額の見直しを行う。 2. 取引先について支払遅延、業績の著しい悪化その他信用不安を示す事情が生じた場合には、前項の定期見直しを待たず、臨時に与信限度額を見直すものとする。
第8条(信用不安兆候の把握と報告) 営業部門及び経理・財務部門は、取引先について次の各号に掲げる事情を把握したときは、直ちに経理・財務部門長に報告しなければならない。 一 支払期日の徒過又は分割払いの申出 二 手形若しくは小切手の不渡り又は主要取引銀行との取引停止 三 大口取引先の喪失、主要な事業拠点の閉鎖その他事業継続に疑義を生じさせる事実 四 風説、報道その他信用不安を推測させる情報
第9条(与信限度額超過時の取扱い) 1. 取引先に対する与信残高が与信限度額を超過し、又は超過するおそれが生じた場合、営業部門は、当該取引先への追加の商品若しくは役務の提供を行う前に、経理・財務部門の承認を得なければならない。 2. 経理・財務部門は、与信限度額超過の申出があった場合、担保若しくは保証の追加徴求、支払条件の変更(前受金化を含む。)又は与信限度額自体の見直しの要否を検討する。
第10条(与信管理台帳の整備) 経理・財務部門は、与信管理対象取引先ごとに、与信限度額、与信残高、審査資料の保管状況及び見直し履歴を記録した与信管理台帳を整備し、常に最新の状態に保つものとする。
第11条(規程の改廃) 本基準の改廃は、取締役会の決議による。
第12条(附則) 本基準は【西暦年】年【 】月【 】日から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 経理・財務部門向け
修正後: 「経理・財務部門長は、第9条第1項の承認申請を受けた日から【3】営業日以内に諾否を回答するものとし、期限までに回答がないときは、与信限度額の超過を承認しないものとみなす。」
一言解説: 経理・財務部門としては、与信超過時の承認プロセスが曖昧なまま営業部門の要請に押し切られる事態を避けたい。回答期限とみなし規定を明記することで、審査を尽くさないまま出荷が先行することを防ぐ趣旨である。
追加条文例: 「経理・財務部門は、毎月末時点の与信残高一覧表を作成し、担当役員に報告する。与信残高が与信限度額の【80】%に達した取引先については、特に注記のうえ報告する。」
一言解説: 経理・財務部門の立場からは、限度額に近づいている取引先を早期に把握する仕組みがないと、超過後の事後対応に追われがちである。早期警戒の報告ルールを加えることで、限度額到達前に対応の検討を始められる。
B. 営業部門向け
修正後: 「営業部門は、既存の与信管理対象取引先との取引条件を変更し、又は取引数量を大幅に増加させようとするときは、あらかじめ経理・財務部門に協議を求めるものとする。」
一言解説: 営業部門にとって、取引拡大の商機を逃さないためには、与信審査に要する期間をあらかじめ見込んだ社内調整が必要になる。取引条件変更時の事前協議を明記することで、受注後に与信不足が判明する事態を避けやすくなる。
追加条文例: 「営業部門は、取引先から支払条件の変更、支払猶予その他通常と異なる申出を受けたときは、その内容を書面化し、遅滞なく経理・財務部門に報告するものとする。営業部門の判断のみで支払条件を変更してはならない。」
一言解説: 現場の営業担当者が取引維持を優先するあまり支払猶予に独自に応じてしまうと、与信管理の実効性が失われる。報告義務と独断禁止を明記し、与信管理の一元化を図る趣旨である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本基準は、掛売りや手形取引など代金後払いを内容とする信用取引を反復して行う卸売業、製造業、建設業その他のBtoB事業者に適したものである。逐次現金決済又は前払いのみを取引条件とし、信用取引を行わない業態や、取引先数が極めて少なく経営陣が個別に把握できる小規模な事業者にとっては、本基準ほど詳細な規程を新設せずとも、簡易な社内ルールで足りる場合がある。
根拠法令としては、会社法第362条第4項第6号が中心となる。同号は、取締役会設置会社の取締役会が、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(いわゆる内部統制システム)の整備についての決定を、取締役に委任することができない専決事項として定めている。会社法施行規則第100条は、この体制の内容として損失の危険の管理に関する規程その他の体制を含むものとしており、取引先に対する与信管理体制の整備は、この損失の危険の管理体制の一内容として位置付けられる。なお、取締役会を設置しない株式会社においては、会社法第348条第3項第4号に基づき、業務の適正を確保するための体制整備について取締役の過半数による決定を要する場合がある。
実務でよくある失敗として、第一に、与信限度額を設定したにもかかわらず超過時の具体的な対応手続を定めていないため、現場が出荷を継続してしまう例が挙げられる。第9条のように、超過時の承認手続と代替措置(担保徴求、支払条件変更等)をあらかじめ規定しておくことが対策となる。第二に、決裁権限の金額区分が曖昧なため、実質的に営業部門の判断のみで与信枠が拡大してしまう例がある。第6条のように金額区分ごとの決裁権限者を明記し、経理・財務部門を審査プロセスに関与させることが有効である。第三に、新規取引先の調査を形式的に行うにとどまり、決算書の実態(粉飾の兆候、簿外債務の存否等)を精査しないまま与信を開始してしまう例がある。信用調査機関のレポートのみに依存せず、複数の資料を組み合わせて審査する体制を整えることが望ましい。第四に、既存取引先について一度審査した後は放置し、業績悪化の兆候に気づかないまま与信残高が積み上がる例もある。第7条及び第8条のように、定期見直しと臨時見直しの双方の仕組みを設けることが重要である。個別の取引先の与信可否や具体的な担保設定の要否については、専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象とする信用取引の範囲(掛売り、手形取引等)を定義したか
- [ ] 新規取引先の調査に必要な資料の種類を具体的に列挙したか
- [ ] 与信限度額の算定基準(財務指標の種類、算定式等)を別紙等で明確化したか
- [ ] 与信限度額の決裁権限を金額区分ごとに定め、取締役会が関与すべき水準を明記したか
- [ ] 既存取引先の定期見直しの頻度(年1回等)を定めたか
- [ ] 信用不安兆候を把握した場合の臨時見直し・報告ルートを定めたか
- [ ] 与信限度額超過時の承認手続及び代替措置を規定したか
- [ ] 与信管理台帳の整備・更新の担当部門を明確にしたか
- [ ] 営業部門による独断での支払条件変更を禁止する規定を設けたか
- [ ] 決算書等の入手が困難な取引先に対する代替的な審査方法を用意したか
- [ ] 本基準の改廃手続(取締役会決議等)を定めたか