複数会場を巡る興行の実施条件を定める契約書です。会場手配、宣伝分担、公演中止時の費用負担、収支の精算方法を規定します。記載例と注記を添えており、初めての担当者でも作成できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
ツアー興行契約書
第1部: 書式本文
【ツアー主催者名】(以下「甲」という)と【各地の共催者名】(以下「乙」という)は、甲が企画する巡回興行【ツアー名称】(以下「本ツアー」という)のうち乙の管轄地域における公演の実施に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、本ツアーのうち【開催地名】所在の【会場名】(以下「本会場」という)における公演(以下「本公演」という)の実施条件を定めることを目的とする。
第2条(実施日程) 本公演の開催日は【開催日】、開場・開演・終演の時刻は甲が別途乙に通知する制作進行表による。
第3条(会場の手配および使用条件) 1. 乙は、本契約締結後【会場確保期限】までに本会場の使用契約を締結し、その写しを甲に提出する。 2. 本会場が興行場法第2条の興行場に該当する場合、乙は同法に基づく許可その他必要な手続を自己の責任と負担で完了させる。 3. 乙は、本会場の消防法上の収容人員および避難経路に関する規制を遵守し、これに違反する座席配置その他の設営を行ってはならない。
第4条(役割分担) 1. 甲は、演者の手配、演出内容の決定、全国共通の宣伝素材の制作を担当する。 2. 乙は、本会場の確保、地元メディアへの広報、当日の会場運営スタッフの手配を担当する。 3. 各当事者の詳細な分担は、別紙業務分担表【別紙番号】のとおりとする。
第5条(宣伝分担) 1. 乙は、本公演の告知に際し、甲が提供する公式素材のみを使用し、内容を改変してはならない。 2. 地域限定の販促施策を乙が実施する場合、実施の【事前通知日数】日前までに甲の承認を得るものとする。 3. 宣伝費用の負担割合は、甲【甲負担割合】パーセント、乙【乙負担割合】パーセントとする。
第6条(チケット販売と収支の精算) 1. チケットの販売価格および販売枚数の上限は、甲乙協議のうえ決定する。 2. 本公演の総収入から、会場費、出演料、宣伝費その他別紙で定める必要経費を控除した金額を、甲【甲取り分割合】パーセント、乙【乙取り分割合割合】パーセントの割合で分配する。 3. 精算は、本公演終了日から【精算期限日数】日以内に、甲が作成する収支報告書に基づき行う。
第7条(公演の中止・延期) 1. 天災、感染症の流行、演者の急病その他甲乙いずれの責にも帰すことができない事由(以下「不可抗力事由」という)により本公演の実施が不可能となった場合、当事者は民法第536条の危険負担の規定に従い、既に発生した費用の負担割合を協議のうえ定める。 2. 不可抗力事由による中止の場合、甲乙は、既払いのチケット代金の払戻し手続について速やかに協議し、乙は購入者対応窓口となる。 3. 甲の一方的な都合による中止の場合、甲は乙が既に支出した会場費等の実費を賠償する。
第8条(演者・スタッフの安全確保) 乙は、本会場における事故防止のため、消防法その他関係法令に定める設備・体制を整備し、開場前に安全点検を実施する。
第9条(知的財産権) 本ツアーの演出内容、楽曲、映像その他の著作物に関する権利は、別段の合意がない限り甲または原著作者に帰属する。乙は、本公演の宣伝目的以外にこれらを利用してはならない。
第10条(秘密保持) 甲乙は、本契約の履行にあたり知り得た相手方の営業上・興行上の情報を、本契約の目的以外に使用し、または第三者に開示してはならない。
第11条(損害賠償) 甲乙いずれかが本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、違反当事者は相手方に対しその損害を賠償する。ただし不可抗力事由による場合はこの限りでない。
第12条(契約の解除) 甲または乙は、相手方が本契約に重大に違反し、催告後【催告期間】日以内に是正しないときは、本契約を解除することができる。
第13条(準拠法および管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争については【裁判所名】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約の締結を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
契約締結日: 年 月 日
甲(ツアー主催者):【甲の名称】 代表者:【代表者名】 印
乙(共催者):【乙の名称】 代表者:【代表者名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: ツアー主催者側の修正パターン
-
収支報告の統一書式化 第6条に「収支報告書は甲が指定する様式によるものとし、乙は根拠資料(会場費領収書等)を添付する」を追加する。解説: 会場ごとに報告様式がばらつくと全国精算の集計が煩雑になるため、様式を統一し検証可能性を高める。
-
宣伝素材の改変禁止の強化 第5条に「乙が無断で素材を改変・加工した場合、甲は当該地域における販促協力を停止できる」との一文を加える。解説: ブランドイメージの毀損を防ぐための実効的な牽制手段を持たせる。
-
中止時の実費賠償に上限を設定 第7条に「甲が負担する実費賠償は、乙が本契約締結後に現実に支出し、かつ甲の事前承認を得た費目に限る」との限定を加える。解説: 事前承認のない過大な支出まで甲が負担するリスクを回避する。
B節: 共催者側の修正パターン
-
会場確保費用の前払い請求権 第3条に「乙は、本会場の確保に要する保証金相当額について、甲に対し事前に一部の立替払いを請求できる」を追加する。解説: 中小の共催者が資金繰りの負担を先行して負う構造を是正する。
-
不可抗力時の乙側損失の補填 第7条に「不可抗力事由による中止の場合であっても、乙が既に支出した広報費については、甲乙協議のうえ甲が一定割合を負担する」との条項を加える。解説: 危険負担の原則(民法536条)は履行不能時の反対給付消滅を定めるにとどまり、既支出費用の分担までは決めないため、契約で明確化しておく必要がある。
-
精算の遅延利息 第6条に「甲が精算期限を超えて分配金の支払を遅延した場合、乙は年【利率】パーセントの割合による遅延損害金を請求できる」を追加する。解説: 全国ツアーで複数会場の精算が同時進行する中、支払遅延が常態化することを防ぐ。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
解説: 使用場面と適用の限界
本書式は、単一の主催者が複数の地域で共催者と組んで巡回公演を行う場合の、会場単位の実施契約を想定している。全国ツアーを構成する各公演ごとに個別契約を結ぶ形式であり、ツアー全体を包括する基本合意書とは別に、会場ごとの附属契約として使うことを前提とする。演者個人と直接契約する出演契約や、会場のみを借りる施設賃貸借契約とは性質が異なるため、それらの場面では別の書式を用いるべきである。
解説: 根拠法令の整理
危険負担については民法第536条が、当事者双方の責めに帰することができない事由により債務の履行ができなくなったときの反対給付の帰趨を定めている。同条は任意規定であるため、契約当事者間で不可抗力時の費用負担ルールを別途具体的に定めることが望ましい。また、本会場が興行場法上の「興行場」(同法第1条)に該当する場合は都道府県知事等の許可が必要となり、消防法上は防火管理者の選任や避難設備の基準遵守が求められる場合がある。これらの許認可・規制対応の主体を契約上明確にしておくことが重要である。
解説: よくある失敗と対策
失敗1: 不可抗力による中止時の費用負担ルールが曖昧なまま契約し、実際の中止発生時に紛争化する。対策として第7条のように、危険負担の原則を踏まえつつ、既支出費用の分担方法をあらかじめ協議事項として明文化しておく。
失敗2: 会場の許認可取得責任の所在が不明確で、開催直前に手続漏れが発覚する。対策として第3条で許認可取得の責任主体と期限を明記し、写しの提出義務を課す。
失敗3: 収支の分配割合や必要経費の範囲について共通認識がないまま進行し、精算段階で揉める。対策として別紙で経費項目を列挙し、精算期限と報告様式を契約書本体に明記する。会場の用途地域や建築基準法上の制約など、地域固有の規制が絡む場合は個別性が高いため、専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本会場が興行場法上の許可対象施設か確認したか
- [ ] 消防法上の収容人員・避難経路の基準に設営計画が適合しているか
- [ ] 甲乙の役割分担(演者手配・会場確保・広報)が別紙に具体的に落とし込まれているか
- [ ] 宣伝費用と収支分配の割合が地域ごとの実情に見合っているか
- [ ] 不可抗力事由発生時の費用負担ルールを民法536条の任意規定を踏まえて具体化したか
- [ ] 精算期限と報告様式、根拠資料の添付義務を明記したか
- [ ] チケット払戻しの実務窓口と手続フローを事前に整理したか
- [ ] 宣伝素材の改変禁止と地域限定施策の承認プロセスを定めたか
- [ ] 演者・スタッフの安全確保に関する責任分担を明記したか
- [ ] 契約解除事由と催告期間が現実的な日数になっているか