ロット番号による製造履歴と流通経路の記録を義務づける覚書。製造物責任法上の欠陥原因の特定と消費生活用製品安全法の回収対応を想定し保存期間を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
トレーサビリティに関する覚書
第1部: 書式本文
トレーサビリティに関する覚書
発注者【発注者名】(以下「甲」という。)及び供給者【供給者名】(以下「乙」という。)は、乙が甲に供給する下記製品(以下「対象製品」という。)の製造履歴及び流通経路の記録管理(トレーサビリティ)に関し、以下のとおり合意する。
記 製品名称:【製品名称】 ロット管理単位:【ロット単位の定義】
第1条(目的) 本覚書は、対象製品にロット番号を付し、製造履歴及び流通経路を記録・保存することにより、事故発生時における欠陥原因の特定及び回収対応を迅速化することを目的とする。
第2条(ロット番号の付与) 1. 乙は、対象製品の製造単位ごとに固有のロット番号を付し、当該ロット番号を製品本体、包装又は添付文書に表示する。 2. ロット番号の採番規則(製造年月日、製造ライン、原材料ロットとの対応関係を含む。)は、別紙のとおりとする。
第3条(記録すべき事項) 乙は、対象製品の各ロットについて、次の各号の事項を記録する。 一 製造年月日及び製造工場・製造ライン 二 使用した原材料及び部品のロット番号並びに仕入先 三 製造工程における検査結果及び検査担当者 四 出荷年月日及び出荷先(甲又は甲が指定する納入先) 五 出荷数量及び在庫数量の推移
第4条(記録の提供) 1. 甲は、対象製品に関連する事故若しくはそのおそれが判明したとき、又は行政機関からの照会を受けたときは、乙に対し、該当ロットに関する前条の記録の提供を求めることができる。 2. 乙は、前項の求めを受けた日から【3】営業日以内に、当該記録を書面又は電磁的方法により甲に提供する。 3. 甲は、提供を受けた記録を、事故原因の特定及び回収対応の目的以外に使用してはならない。
第5条(記録の保存期間) 1. 乙は、第3条の記録を、対象製品の製造年月日から起算して【10】年間保存する。 2. 前項の保存期間は、製造物責任法第5条に定める期間の制限(引渡し時から10年、及び損害及び賠償義務者を知った時から3年)並びに消費生活用製品安全法上の重大製品事故の報告・調査対応に要する期間を考慮して定めたものであり、対象製品の性質上必要と認められる場合、甲乙協議の上でこれを延長することができる。 3. 乙は、保存期間中に記録媒体の変更、事業譲渡、廃業その他の事由が生じる場合、事前に甲に通知し、記録の承継又は引渡し方法について協議する。
第6条(流通経路の記録) 1. 甲は、対象製品を第三者に販売又は譲渡した場合、当該販売先及び販売数量をロット番号と紐付けて記録する。 2. 甲及び乙は、対象製品が複数の流通段階を経由する場合、各段階の記録が相互に照合可能となるよう、ロット番号の表示を維持しなければならない。
第7条(記録の正確性) 乙は、第3条の記録が正確であることを保証し、記録の改ざん、削除その他の不正な操作を行ってはならない。
第8条(費用負担) 記録の作成、保存及び通常の照会対応に要する費用は乙が負担し、大量のロットにわたる特別な調査又は解析を甲が求める場合の追加費用は、甲乙協議の上で別途定める。
第9条(秘密保持) 甲は、乙から提供を受けた記録に含まれる原材料の仕入先、製造工程その他の営業秘密を、本覚書の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第10条(有効期間) 本覚書の有効期間は、対象製品の供給が終了した日の翌日から起算して第5条に定める保存期間が満了する日までとする。
第11条(協議事項) 本覚書に定めのない事項については、甲乙誠実に協議の上、これを解決する。
以上を証するため、本覚書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【作成日】
甲(発注者) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(供給者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 情報提供を求める発注者向け
自社ブランドで販売する製品の原材料まで遡及したトレースが必要な場面では、第3条の記録事項を原材料の仕入先まで拡張し、乙の再委託先(二次サプライヤー)にも記録義務を波及させる。 before:「使用した原材料及び部品のロット番号並びに仕入先」 after:「使用した原材料及び部品のロット番号、仕入先、並びに乙が製造工程の一部を第三者に再委託した場合における当該再委託先の名称及び当該第三者が保有する製造記録の所在」 複数階層のサプライチェーンを持つ製品では、乙一社の記録だけでは原因特定に至らないことがあるため、再委託先の記録まで到達できる条項を追加することが望ましい。
B節 記録を保存する供給者向け
小規模な供給者にとって10年間の記録保存は保管コスト・システム負担が大きいため、保存期間及び提供対象を製品リスクに応じて限定する。 before:「乙は、第3条の記録を、対象製品の製造年月日から起算して【10】年間保存する。」 after:「乙は、第3条の記録を、対象製品の製造年月日から起算して【5】年間保存する。ただし、当該期間中に甲から書面による延長要請があった場合は、要請のあった記録に限り、要請時から起算してさらに【5】年間保存する。」 一律に長期保存を義務付けられると管理コストが過大になるため、供給者としては基本保存期間を短縮しつつ、個別延長要請の仕組みで対応する条項が現実的である。また、第4条の提供期限についても、記録の電子化状況に応じて営業日数を延ばす調整を求めることが考えられる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、製造委託先や部品供給者との間で、ロット単位の製造履歴・流通経路の記録保存と、事故発生時の記録提供手続を取り決める場面で使用する。特に、製造物責任法上の欠陥原因の特定や消費生活用製品安全法上の重大製品事故の原因調査においては、どのロットのどの工程に問題があったかを迅速に特定できるかどうかが、回収範囲の適正化(過大回収の防止)と被害拡大防止の両面で重要となる。他方、単発のスポット取引や、ロット管理になじまない受注生産品(一点ものの特注品)については、本覚書よりも個別の検査記録条項で足りる場合が多い。
根拠法令は、欠陥の因果関係の立証及び期間制限に関する製造物責任法第5条、重大製品事故の報告義務を定める消費生活用製品安全法第38条、及び記録の保存が結果的に安全配慮義務の履行状況を示す資料となる点で民法第709条の不法行為責任の抗弁資料としても機能する。食品関連製品の場合は食品衛生法上のトレーサビリティ関連規定、電気用品の場合は電気用品安全法上の表示義務も併せて確認する必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、ロット番号の採番規則が製造ラインごとに統一されておらず、事故発生時に該当ロットの範囲を絞り込めず、結果として必要以上に広範囲の回収を余儀なくされるケースがある。対策として第2条第2項のように採番規則を別紙で明文化し、原材料ロットとの対応関係を記録する。第二に、記録の保存期間が製造物責任法上の期間制限を下回る短期間に設定されており、事故発覚時に既に記録が廃棄されていたケースがある。対策として第5条のように製造物責任法第5条の期間を踏まえた保存期間を明記する。第三に、記録提供の依頼から実際の提供までに時間がかかり、行政への報告期限に間に合わないケースがある。対策として第4条第2項のように具体的な提供期限を設ける。
なお、保存期間の適正な長さや業種特有の法令上の記録義務は取扱製品によって異なるため、個別事案は専門家に確認の上で条項を確定することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] ロット管理単位(製造日・製造ライン等)を明確に定義しているか
- [ ] ロット番号の採番規則及び表示方法を別紙で具体化しているか
- [ ] 記録すべき事項(製造日・原材料・検査結果・出荷先等)を網羅しているか
- [ ] 記録提供の依頼手続と提供期限を明記しているか
- [ ] 記録の保存期間が製造物責任法第5条の期間制限を踏まえた長さになっているか
- [ ] 記録媒体の変更・事業承継時の引継ぎ手続を定めているか
- [ ] 流通段階が複数にわたる場合の照合方法を定めているか
- [ ] 再委託先・二次サプライヤーへの記録義務の波及を検討したか
- [ ] 記録の目的外利用禁止及び秘密保持条項を置いているか
- [ ] 記録の改ざん防止・正確性保証条項を置いているか
- [ ] 保存コストの負担者及び特別調査時の追加費用の扱いを定めているか