開発途中の仕様変更や追加開発の範囲・費用・納期を確定する合意書。変更管理手続と民法第632条の請負代金増額、下請法の買いたたき規制に配慮する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
追加開発・仕様変更合意書
第1部: 書式本文
追加開発・仕様変更合意書
【委託者名】(以下「甲」という。)と【受託者名】(以下「乙」という。)は、【 】年【 】月【 】日付【原契約名称】(以下「原契約」という。)に基づき進行中のシステム開発業務について、次のとおり仕様変更・追加開発に関する合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(目的) 本合意書は、原契約の履行過程において生じた仕様変更及び追加開発(以下「本件変更」という。)の内容、範囲、対価、納期及び手続を確定することを目的とする。
第2条(変更管理手続) 1 甲又は乙は、原契約締結後に仕様の追加、変更又は削除(以下「変更要求」という。)の必要が生じたときは、書面(電子メールを含む。以下同じ。)により相手方に変更要求を通知する。 2 変更要求を受けた当事者は、【5】営業日以内に、当該変更が納期、対価及び既存機能へ与える影響(以下「影響度」という。)を分析し、変更管理台帳(別紙【1】)に記録のうえ相手方に回答する。 3 甲及び乙は、影響度分析の結果を踏まえて協議し、本件変更を実施するか否か、実施する場合の対価及び納期を合意のうえ本合意書又はこれに準ずる変更合意書を締結する。 4 変更管理台帳に記録されない口頭又は非公式の指示のみに基づく仕様の変更は、原契約及び本合意書上の変更として取り扱わない。
第3条(本件変更の内容) 本件変更の内容は次のとおりとする。 一 変更対象:【 】 二 変更前の仕様:【 】 三 変更後の仕様:【 】 四 変更理由:【甲の業務要件の追加/法令改正対応/その他】
第4条(追加対価) 1 本件変更により乙の作業工数が増加する場合、甲は乙に対し、別紙【2】記載の算定方法に基づき算出した追加対価金【 】円(消費税別)を支払う。 2 前項の追加対価は、民法第632条に基づく請負代金の一部増額として取り扱い、原契約に定める報酬とは別個に、本件変更に係る成果物の引渡し及び検収完了後【 】日以内に支払う。 3 甲及び乙は、追加対価の算定にあたり、乙の実際の作業工数、使用技術者の単価及び市場水準を考慮するものとし、甲は、正当な理由なく通常の対価に比べて著しく低い額を一方的に定めてはならない。
第5条(下請法上の留意事項) 1 甲が乙に対し下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)第2条に定める親事業者に該当し、乙が下請事業者に該当する場合、甲は、本件変更に伴う追加対価の決定にあたり、同法第4条第1項第5号が禁止する「買いたたき」(通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること)に該当しないよう、乙との十分な協議を経て対価を決定する。 2 甲は、本件変更の指示に際し、書面又はこれに代わる電磁的方法により、変更内容及び対価に関する事項を乙に交付するよう努める。
第6条(納期の調整) 本件変更の実施に伴い原契約に定める納期の変更が必要となる場合、甲及び乙は変更後の納期を別途書面により合意する。当該合意がない限り、原契約の納期は本件変更によっては変更されないものとする。
第7条(スコープクリープの防止) 1 甲の担当者が、変更管理台帳への記録及び本条所定の手続を経ずに、乙の現場担当者に対し直接仕様の追加又は変更を口頭で指示した場合であっても、当該指示は原契約及び本合意書上の正式な変更要求とはみなされない。 2 乙は、前項の指示を受けた場合、速やかに甲の契約担当窓口に対しその内容を報告し、正式な変更要求手続への移行を求めるものとする。 3 甲及び乙は、本件変更に関する意思疎通を、あらかじめ指定する契約担当窓口(甲:【 】、乙:【 】)を通じて行うことを原則とする。
第8条(既存機能への影響) 本件変更が既存の合意済み仕様又は既納品部分に影響を及ぼす場合、乙はその影響範囲及び追加で必要となる回帰テストの内容を甲に説明し、必要な追加費用及び期間について甲乙協議のうえ定める。
第9条(原契約との関係) 本合意書に定めのない事項は、原契約の定めるところによる。本合意書と原契約の内容が抵触する場合、本件変更に関する事項については本合意書が優先する。
第10条(協議) 本合意書の履行に関し疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
以上、本合意書締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【 】年【 】月【 】日
甲(委託者) 住所: 名称: 代表者: 印
乙(受託者) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. ユーザー向け(委託者側)の修正例
追加対価の上限設定 第4条第1項に次の一文を追加する。 「ただし、本件変更に係る追加対価の総額が、変更管理台帳記載の影響度分析時点における見積り上限額【 】円を超える場合、甲は当該超過部分について支払義務を負わないものとし、当該超過が見込まれる場合は乙は事前に甲の書面による承諾を得るものとする。」 一言解説:影響度分析の見積りが後から膨らむことを防ぐため、上限額を明記し超過時の事前承諾制を導入する。
口頭指示への対抗 第7条第1項に次の一文を追加する。 「甲の担当者による口頭指示があった場合でも、正式な変更管理手続を経ない限り、甲はこれに起因する追加費用又は納期延長についての請求に応じない。」 一言解説:現場レベルの口頭指示が積み重なって際限なく作業範囲が拡大する、いわゆるスコープクリープを未然に防ぐための防御条項である。
B. ベンダー向け(受託者側)の修正例
買いたたき防止の具体化 第5条第1項に次の一文を追加する。 「乙は、甲が提示する対価が、乙の標準的な人月単価及び本件変更に要する実工数に照らして著しく低いと判断する場合、下請法第4条第1項第5号に抵触するおそれがある旨を甲に書面で指摘し、再協議を求めることができる。」 一言解説:下請法上、買いたたきの該当性は個別事情によるが、受託者側が対価の妥当性について異議を述べる手続を契約上明記しておくことで、後日の是正申告や公正取引委員会への相談の前提事実を整理しやすくする。
スコープクリープに対する作業停止権 第7条に次の一項を追加する。 「4 乙は、正式な変更管理手続を経ない仕様変更の要求が反復して行われ、原契約の履行に重大な支障を生ずるおそれがあると判断した場合、甲に書面で通知のうえ、当該未合意部分に係る作業を一時停止することができる。」 一言解説:口頭指示による作業拡大が常態化した現場において、受託者が一方的に作業負担を強いられることを防ぐため、正当な作業停止権を確保しておく。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
この書式を使う場面・使ってはいけない場面 本合意書は、既に締結済みの開発委託契約(原契約)の履行過程で、要件の追加・変更・削除が発生した際に、その範囲・対価・納期を確定するために用いる。プロジェクト開始前の当初契約の締結には適さず、あくまで進行中の契約の一部変更を確定させる場面で使用する。また、変更内容が軽微で対価・納期に影響を与えない場合にまで本合意書を用いると、かえって管理コストが増大するため、社内で軽微変更の閾値をあらかじめ定めておくことが望ましい。
根拠法令 仕様変更に伴う追加対価の請求権は、民法第632条(請負)を基礎とし、当初合意された仕事の内容を超える作業について報酬の増額を求める根拠となる。また、委託者が下請代金支払遅延等防止法上の親事業者に該当する場合、同法第4条第1項第5号の「買いたたき」規制により、通常の対価に比べ著しく低い金額を一方的に押し付けることは禁止される。あわせて、同法第3条は親事業者に発注内容を記載した書面(3条書面)の交付を義務付けており、仕様変更の都度その内容を書面化する実務は同条の趣旨にも資する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、現場エンジニア同士のやり取りで仕様が徐々に拡張され、当初の見積りとかけ離れた作業量になる「スコープクリープ」が典型的な失敗である。第7条のように正式な変更管理窓口を経ない指示を契約上の変更として扱わない旨を明記することが対策となる。第二に、追加対価を口頭で「今回はサービスで」と処理してしまい、後に金額を巡って争いになるケースがある。第2条の変更管理台帳への記録を徹底することが有効である。第三に、下請法の適用がある取引において、追加対価を一方的に低く決定してしまい、買いたたきに該当するおそれが生じるケースがある。第5条のような協議手続を明記し、対価決定の経緯を記録に残すことが重要である。
これらの対策は一般的な整理であり、取引の実態や下請法上の親事業者・下請事業者の該当性判断を含め、個別事案については専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 変更対象となる原契約が特定され、契約締結日・名称が正確に記載されているか
- [ ] 変更要求の通知方法及び回答期限が明記されているか
- [ ] 変更管理台帳による記録の運用ルールが定められているか
- [ ] 変更前後の仕様が具体的に記載されているか(抽象的な記載になっていないか)
- [ ] 追加対価の算定方法(単価、工数、算出根拠)が明確か
- [ ] 追加対価の支払時期・支払条件が定められているか
- [ ] 下請法の親事業者・下請事業者に該当するか否かを確認したか
- [ ] 買いたたきに該当しないよう対価決定の協議過程を記録する仕組みがあるか
- [ ] 納期変更の要否及び変更後納期の合意方法が明記されているか
- [ ] 口頭指示による仕様変更を正式な変更として扱わない旨(スコープクリープ対策)が明記されているか
- [ ] 契約担当窓口が両当事者で明確に指定されているか
- [ ] 原契約と本合意書の内容が抵触した場合の優先関係が明記されているか