荷崩れや貨物毀損など運送事故が発生した後の示談に用いる覚書。標準貨物自動車運送約款の責任限度と商法の高価品特則を踏まえ賠償額を確定します。

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運送事故に関する損害賠償の覚書

第1部: 書式本文

〇〇〇〇(以下「甲」という。荷主又は荷受人・被害者側)と〇〇〇〇(以下「乙」という。運送事業者・賠償義務者)とは、乙が甲から受託した運送業務の遂行中に発生した下記事故(以下「本件事故」という。)に起因する損害の賠償について、次のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。

記 発生日時 〇年〇月〇日〇時頃 発生場所 〇〇〇〇 貨物の品名及び数量 〇〇〇〇 事故の概要 〇〇〇〇(荷崩れ・破損・水濡れ・紛失等の別を記載)

第1条(事実の確認) 甲及び乙は、本件事故が上記のとおり発生したこと及び貨物に別紙損害明細記載の毀損又は滅失が生じたことを相互に確認する。

第2条(責任の所在) 乙は、本件事故が乙又は乙の運転者の運送業務の遂行に起因して発生したものであることを認め、これによって甲に生じた損害を賠償する責任を負うことを確認する。

第3条(責任限度額の適用) 本件貨物の運送には標準貨物自動車運送約款が適用されるところ、甲及び乙は、同約款に定める責任限度額の考え方を踏まえ、次条の賠償額を協議のうえ確定したものであることを確認する。

第4条(高価品の特則) 甲が乙に対し運送委託時に本件貨物の種類及び価額を通知していなかった場合、商法第577条の高価品の特則により乙が賠償すべき額が制限され得ることを甲及び乙は確認したうえで、本件では下記賠償額によることに合意する。

第5条(賠償額) 乙は甲に対し、本件事故による損害賠償金として金〇円を支払う。

第6条(支払方法) 乙は、前条の金員を〇年〇月〇日限り、甲が指定する口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

第7条(清算条項) 甲は、乙から前条の金員の支払を受けたときは、本件事故に関し、甲が乙に対して有する一切の請求権を放棄し、本覚書に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。

第8条(再発防止) 乙は、本件事故の原因を調査し、運行管理の見直し、荷役方法の改善その他の再発防止策を講じ、その内容を甲に報告する。

第9条(第三者への求償) 本件事故が実運送を行った第三者の行為に起因する場合、乙は当該第三者に対する求償権の行使を妨げられない。

第10条(保険金による填補) 乙が加入する貨物賠償責任保険等から保険金の支払を受けた場合であっても、乙の甲に対する第5条の支払義務には影響しないものとする。

第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本覚書の内容及び本件事故の詳細について、法令上の開示義務がある場合又は相手方の事前の書面による承諾がある場合を除き、第三者に開示しない。

第12条(公正証書化) 甲及び乙は、賠償金の額が高額に及ぶ場合その他必要と認めるときは、本覚書の内容につき執行力のある公正証書を作成することができる。

第13条(協議) 本覚書に定めのない事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 荷主・荷受人(被害者側)の修正

A-1. 分割払いに対する期限の利益喪失条項の追加

修正後:「乙が賠償金の分割払いを希望する場合、乙が分割金の支払を1回でも怠ったときは、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し残額を直ちに支払う。」 一言解説: 賠償義務者が資金繰りの都合で分割払いを求めるケースがあり、被害者側は不履行リスクに備えて期限の利益喪失条項を追加しておくことが望ましい。

A-2. 高価品通知の有無に関する事実確認の明記

修正後:「甲は、本件貨物の運送委託時に価額〇円である旨を乙に通知していたことを乙も確認する。」 一言解説: 高価品の通知の有無は責任限度額の適用を左右するため、事実関係を覚書上に明記して後日の蒸し返しを防ぐ修正である。

B. 運送事業者(賠償義務者)側の修正

B-1. 賠償額を責任限度額の範囲に限定する修正

修正後:「乙の賠償責任は、標準貨物自動車運送約款に定める責任限度額を上限とし、甲は当該限度額を超える請求を行わない。」 一言解説: 賠償義務者としては、示談段階で責任限度額を上限とする合意を明記し、限度額を超える別訴のリスクを遮断しておくことが有用である。

B-2. 遅延損害金の利率に関する明記

修正後:「乙が第6条の支払期日を徒過した場合、乙は甲に対し年3パーセントの割合による遅延損害金を支払う。」 一言解説: 支払遅延時の利率を明記しないと法定利率が適用されるため、賠償義務者側としても紛争を避けるためあらかじめ利率を明記しておくことが望ましい。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面

本書式は、荷崩れ、貨物の破損、水濡れ又は紛失といった運送事故が既に発生し、当事者間で事実関係及び賠償額についておおむね合意に至った段階で用いる示談書としての性質を持つ。事故原因や過失割合について当事者間の見解が大きく対立している段階では、本覚書のような清算条項を伴う合意書を性急に取り交わすと、後日不利な内容で確定してしまうおそれがあるため、事実関係の確認や専門家への相談を経たうえで使用すべきである。

根拠法令

運送人の損害賠償責任については商法第575条以下に規定があり、同法第576条は損害賠償額の定型化に関する規律を、同法第577条は荷送人が運送を委託するにあたり高価品であることを通知しなかった場合の運送人の責任制限に関する高価品の特則を定めている。標準貨物自動車運送約款は、国土交通省の告示に基づき運送人の標準的な責任限度額その他の運送条件を定めるものであり、示談交渉における賠償額算定の目安として参照されることが多い。

実務でよくある失敗と対策

第一に、高価品の通知の有無を確認しないまま高額な賠償額で合意してしまい、後日運送事業者側が商法第577条を根拠に減額を主張して紛争が再燃する例がある。通知の有無に関する事実関係を覚書上に明記しておくことが対策となる。第二に、清算条項を入れずに賠償金を支払ってしまい、同一事故について追加の請求を受けるリスクが残る例がある。支払完了後は一切の債権債務がないことを確認する条項を必ず入れるべきである。第三に、保険金による填補と当事者間の賠償金支払の関係が整理されず、二重取りや支払漏れが生じる例がある。保険金の支払と賠償義務の関係を明確にしておくことが望ましい。第四に、賠償金額が高額になる事案で口約束のみに頼り、後日の不払いに対して迅速な回収手段を確保できていない例もある。金額の規模に応じて執行力のある公正証書化を検討するなど、履行確保の方法をあわせて用意しておくことが望ましい。個別事案は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 事故発生日時・場所・貨物の内容を正確に記載したか
  • [ ] 責任の所在について当事者間で事実確認ができているか
  • [ ] 高価品該当性及び通知の有無を確認したか
  • [ ] 賠償額の算定根拠(責任限度額との関係)を明確にしたか
  • [ ] 支払方法及び支払期日を具体的に定めたか
  • [ ] 清算条項(債権債務不存在の確認)を入れたか
  • [ ] 分割払いとする場合の期限の利益喪失条項を検討したか
  • [ ] 遅延損害金の利率を定めたか
  • [ ] 第三者への求償権を妨げない旨を確認したか
  • [ ] 秘密保持の範囲を定めたか
  • [ ] 高額な賠償金の場合に公正証書化を検討したか