和解内容に執行力を持たせるための公正証書原案です。給付条項の特定、認諾文言、嘱託手続と費用負担を整理します。自社の実情に合わせて条項を取捨選択できる構成です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
和解公正証書原案
第1部: 書式本文
本書式は、当事者間で成立した和解の内容に執行力を持たせるため、強制執行認諾文言付き公正証書として公証人に嘱託する際の原案である。実際の作成に当たっては、最寄りの公証役場に事前相談のうえ、公証人の指示に従い修正する。
第1条(和解の前提) 債権者側【氏名又は商号】(以下「甲」という。)と債務者側【氏名又は商号】(以下「乙」という。)は、【紛争の概要】に関する紛争について、次のとおり和解が成立したことを確認する。
第2条(給付条項の特定) 乙は、甲に対し、本件和解に基づく解決金として、金【 】円の支払義務があることを認める。
第3条(弁済方法) 乙は、甲に対し、前条の金員を次のとおり【一括・分割】で支払う。 第1回 令和【 】年【 】月【 】日限り 金【 】円/第2回以降【 】
第4条(遅延損害金) 乙が前条の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から支払済みまで年【 】パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
第5条(期限の利益喪失) 乙が分割金の支払を【 】回分以上怠ったときは、乙は当然に期限の利益を喪失し、残額全額を直ちに支払う。
第6条(強制執行認諾) 乙は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨を陳述する。
第7条(清算条項) 甲及び乙は、本証書に定めるもののほか、本件紛争に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。
給付条項作成上の留意点 1. 給付の目的物が金銭である場合、一定の額として特定できる記載であること(「相当額」等の不確定な表現は避ける) 2. 分割払いの場合、各回の金額・期日が明確であること 3. 期限の利益喪失条項を設ける場合、その事由を具体的に記載すること 4. 認諾文言(民事執行法第22条第5号)を明記すること 5. 金銭債権以外の給付(物の引渡し等)を含める場合、対象物を具体的に特定すること
嘱託手続の整理 1. 当事者双方(又は代理人)が公証役場に事前相談を行い、原案を確認してもらう 2. 本人確認書類(印鑑登録証明書及び実印、又は公的身分証明書)、代理人による場合は委任状を準備する 3. 公証人手数料は、目的の価額(解決金額等)に応じて算定される 4. 作成当日、公証人による読み聞かせ・内容確認の上、当事者が署名押印する 5. 甲(債権者)に正本、乙(債務者)に謄本が交付される 6. 乙が不履行の場合、甲は正本に基づき執行文の付与を受け、強制執行を申し立てることができる
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 債権者側(甲)向け
A-1 第5条の修正例 「乙が分割金の支払を1回でも怠ったときは、乙は当然に期限の利益を喪失し、甲は催告を要せず直ちに強制執行の申立てをすることができる。」 一言解説: 債権者側としては、和解成立後の不履行こそが公正証書化の主たる懸念事項であるため、期限の利益喪失事由を厳格に定め、迅速に執行手続に移行できる設計とすることが実務上有効である。
A-2 第2条の修正例 「乙が甲に対して支払う解決金には、本件紛争に関して甲が既に支出した弁護士費用相当額を含むものとし、その旨を金額の内訳として明記する。」 一言解説: 債権者側としては、和解による解決金の内訳を明確にしておくことで、後日、解決金の性質(損害賠償か、単なる和解金か)について税務上・会計上の疑義が生じることを防げる。
B節: 債務者側(乙)向け
B-1 第4条の修正例 「遅延損害金の利率は年3パーセントとし、天災その他乙の責めに帰することのできない事由による支払遅延については発生しないものとする。」 一言解説: 債務者側としては、執行証書という強力な効力を持つ書面である以上、不可抗力による遅延にまで機械的に不利益な効果が生じないよう、免責事由を明記しておくことが重要である。
B-2 第5条の修正例 「期限の利益喪失事由に該当した場合であっても、乙が甲からの通知後7日以内に不足分を追完したときは、期限の利益を喪失しないものとする。」 一言解説: 債務者側としては、執行証書に基づく強制執行は極めて迅速であるため、軽微な支払遅延について是正の機会を確保しておくことが、不測の財産的不利益を避ける上で重要である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、裁判外で成立した和解の内容について、後日の不履行に備えてあらかじめ執行力を確保しておきたい場合に、強制執行認諾文言付き公正証書として作成する際の原案として使用する。単に和解契約書を取り交わすだけでは、不履行時に別途訴訟を提起して債務名義を取得しなければ強制執行ができないのに対し、執行証書化しておけば、訴訟を経ずに直ちに強制執行を申し立てることができる点に大きな実務上のメリットがある。他方、和解の対象が金銭債権以外の給付(建物の明渡し等)を主たる内容とする場合、公正証書ではその給付内容によっては執行証書の対象とならないことがあるため、訴え提起前の和解(即決和解、民事訴訟法第275条)など他の手続を検討する必要がある。
法的根拠としては、民事執行法第22条第5号が、金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書であって、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものを債務名義として定めている。公証人による公正証書の作成手続は公証人法に規律されており、公証人は原則として当事者双方(又はその代理人)の嘱託により公正証書を作成する。和解契約自体の法的性質は民法第695条・第696条によるが、公正証書化はあくまでその内容に執行力という手続法上の効力を付加するものであり、和解契約の実体的な効力(確定効等)とは別個の問題である。なお、建物の明渡しなど金銭債権以外の給付を目的とする請求については執行証書の対象とならないため、そのような給付を含む和解については、訴え提起前の和解(即決和解)の手続を利用し、裁判所において和解調書を作成してもらう方法が一般的である。
よくある失敗の第一は、和解契約書のみを作成して満足し、公正証書化の手続を先送りにした結果、実際に不履行が生じた時点では既に債務者の資力が悪化しており、公正証書化を打診しても応じてもらえなくなることである。和解成立後、速やかに公正証書化の手続に着手することが対策となる。第二に、給付条項の記載が「相当額を支払う」といった不確定な表現にとどまり、執行証書としての特定性を欠くとして公証人から作成を断られる例がある。第2条のように、金額を具体的な数字で特定することが重要である。第三に、金銭債権以外の給付(明渡し等)まで執行証書に含めようとして、公証人から対応不可と指摘される例がある。金銭債権以外の給付を含む場合は、即決和解等の別の手続を組み合わせる必要がある。給付内容の特定方法や、金銭債権以外の給付を含む和解の執行力確保の方法については、個別事案は専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 給付の内容が金銭の一定の額として特定可能な記載になっているか確認した
- [ ] 分割払いの場合、各回の金額・期日を具体的に記載した
- [ ] 強制執行認諾文言(民事執行法第22条第5号)を明記した
- [ ] 金銭債権以外の給付を含む場合、即決和解等の別手続の要否を検討した
- [ ] 当事者双方の本人確認書類及び委任状(代理人の場合)を準備した
- [ ] 公証役場への事前相談を実施し、原案の確認を受けた
- [ ] 公証人手数料の見込み額を確認した
- [ ] 期限の利益喪失事由及び遅延損害金の利率を明記した
- [ ] 和解成立後、速やかに公正証書化の手続に着手する体制を整えた
- [ ] 債務者が執行証書化の法的効果を理解しているか確認した